第四話 ハメ技
おもしろいよねえええええ
王立学院の実技試験会場は、熱気に包まれていた。
集まっているのは、各国から選りすぐられた魔法の天才たち。その中でも、一際注目を集めている少女がいた。公爵家の令嬢にして、史上最高の魔導適性を持つと言われる、シルヴィア・フォン・ベルシュタインである。
「あら。そこのあなた。魔力測定値が0だと聞きましたが、何かの間違いではなくて?」
シルヴィアが、受付で無能と笑われていたアレンに声をかけてきた。彼女の瞳には、弱者への憐れみと、強者ゆえの傲慢さが同居している。
「間違いじゃないよ。システムが俺を測りきれなかっただけだ。仕様だね」
「ふふ、面白いことを仰るのね。ですが、この試験は実力が全て。その口調がいつまで持つかしら」
対戦カードが発表される。アレンの相手に選ばれたのは、皮肉にもそのシルヴィアだった。
「アレン様、私が代わりに出ましょうか? 彼女の魔法なら、私のまつ毛で弾けますが」
「いや、いいよ。君が出ると会場が消し飛ぶだろ。俺が適当にデバッグして終わらせるから」
試験開始の合図が鳴り響く。
シルヴィアは優雅に杖を掲げ、高位の広域殲滅魔法を詠唱し始めた。
「焼き尽くしなさい! プロミネンス・バースト!」
空が真っ赤に染まり、巨大な火球がアレンへと降り注ぐ。誰もがアレンの死を確信した。だが、アレンは動かない。ただ、彼女の足元の座標データを指でスワイプした。
「ここ、床の当たり判定を無効(False)に変更」
次の瞬間。
放たれた火球がアレンの鼻先まで迫ったところで、シルヴィアの姿が消えた。
正確には、彼女は自分が立っていた石畳をそのまま通り抜け、腰まで地面に埋まっていたのだ。
「……え? な、なに? 地面が……抜けた!? 体が動かない!?」
座標が地面の中にスタックした瞬間、彼女の詠唱は強制終了され、行き場を失った火球は空中で霧散した。
「残念。ここのステージ、隅っこの判定が甘いんだよ。君、立ち位置が悪かったね。そこは一度ハマるとコマンド入力も受け付けないバグ地帯(ハメ場)なんだ」
アレンは埋まった彼女の前にのんびりと歩み寄り、その頭をポンと叩いた。
「な、なにを……離しなさい! 魔法が、魔法が出ない……っ!」
「そりゃそうだよ。君の魔力回路、今だけ読み取り専用にしておいたから。俺がパッチを当てて再起動しない限り、一滴も出ないよ」
会場は静まり返った。天才と謳われた公爵令嬢が、一歩も動かない少年に、文字通りハメ殺されたのである。
評価して...




