第三十一話 予兆
次回新章。
世界の裏側での決戦から数日が経ち、王都は平穏を取り戻していた。魔法異常は完全に沈静化し、人々は何事もなかったかのように日常へ戻っていく。しかしアレンだけは胸の奥に小さな違和感を抱え続けていた。ギルドの屋上で風に吹かれながら空を見上げると、青空のはずなのに一瞬だけ“裏側の線”が揺れたように見えた。
「……まだ終わってねぇな」
シルヴィアが腕を組む。
「またバグでも見えたの?」
「いや……違う。もっと深いところで、何かが動いてる」
リーゼロッテが静かに言葉を添える。
「アレン様。カイという少年……彼は単独で動いているのでしょうか?」
「違うな。あいつの書き換え方、どう考えても独学じゃねぇ。誰かに教わったか、何かを見たか……もしくは――もっと深い層に、別の存在がいる」
シルヴィアが息を呑む。
「別の……存在?」
「魔法の裏側のさらに奥。俺でも触れたことがない領域だ。カイはそこにアクセスしてた」
リーゼロッテの表情がわずかに強張る。
「それは……この世界の魔法体系の“根源”では?」
「かもな。つまり――世界の魔法そのものに、最初からバグがある」
シルヴィアが驚きの声を上げる。
「最初から!? そんなの……どうしようもないじゃない!」
「どうしようもなくても、放っとけねぇだろ。カイがそこに触ったってことは、他にも触れる奴がいるかもしれねぇ」
リーゼロッテが静かに頷く。
「アレン様。それはつまり――新たな旅が必要ということですね」
アレンは笑った。
「そういうこった。世界の深層バグ、全部洗い出してやる」
シルヴィアが呆れながらも微笑む。
「……ほんと、あんたってデバッグ以外に興味ないの?」
「あるぞ」
「え?」
「飯と睡眠と……まぁ、色々な」
「色々って何よ!」
アレンは軽く手を振り、屋上の階段へ向かう。
「行くぞ。次のバグは、王都の外だ」
リーゼロッテが後に続き、シルヴィアも慌てて追いかける。アレンは振り返らずに言った。
「新章開始だ。いっちょ深層デバッグといくか」
風が吹き、空の“裏側”がわずかに揺れた。それは世界の根源に潜む巨大なバグ、そしてカイの背後にいる“何か”の予兆だった。
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