第二十八話 もう一人のデバッカー④
ダンスホール!
アレンとカイが向かい合った瞬間、森の空気が変わった。
普通の冒険者なら気づかないほどの微細な魔力の揺れが、アレンには“裏側のコードが触れ合う音”のように聞こえていた。
カイも同じものを感じているのか、楽しそうに笑っている。
「やっぱり君、面白いね。裏側が見える奴なんて、滅多にいないのに」
「お前が壊した魔法陣、あれ全部“実験”ってわけか」
「そうだよ。世界の魔法がどこまで耐えられるか、試してるんだ」
シルヴィアが怒りを抑えきれず叫ぶ。
「試すって……あれで森が吹き飛ぶ可能性だってあったのよ!?」
「吹き飛んだら吹き飛んだで、また直せばいいじゃないか」
「直すって……そんな簡単に……!」
リーゼロッテが静かに前に出る。
「あなたは、魔法の根本構造に干渉できるのですね。アレン様と同じように」
カイは肩をすくめた。
「同じ? いや、僕の方が上だよ。
だって――僕は“壊すこと”に特化してるから」
アレンの目が鋭く光る。
「……壊すために裏側を触ってるのか」
「そう。世界の魔法は脆い。
だから壊して、作り直す。
もっと効率的で、もっと強くて、もっと自由な魔法体系にね」
アレンは一歩前に出た。
「……お前のやり方は気に入らねぇな」
「じゃあ、止めてみせてよ」
カイが指を鳴らした瞬間、周囲の魔力が一気に乱れた。
アレンには、裏側の構造式が強制的に書き換えられていくのが見える。
「……っ、やりやがったな」
「どう? この森の魔法、今から暴走するよ。
止められるなら止めてみて」
シルヴィアが叫ぶ。
「アレン!! どうにかしなさいよ!!」
「言われなくてもやるわ!」
アレンは手を伸ばし、空間に浮かぶ“裏側の線”を掴んだ。
普通の人には何も見えないが、アレンには魔法の根本構造がむき出しになっている。
「……お前、どこまで書き換えた?」
「全部だよ。森全体の魔力回線を“ループ”させた。
このままだと魔力が溢れて爆発する」
「バカかお前は!!」
「止められるんだろ? デバッガーなんだから」
アレンは歯を食いしばり、裏側の構造式を一気に書き換え始めた。
魔力の流れが暴れ、風が渦を巻き、木々が軋む。
「アレン様、魔力が暴走します!!」
「わかってる!! でも――」
アレンは指を弾いた。
「ここがバグの根本だ!!」
瞬間、森全体に走っていた魔力の暴走がピタリと止まった。
風も、揺れも、全てが静止する。
カイは目を見開き、そして笑った。
「……本当に止めるんだ。
君、やっぱり最高だよ」
アレンは息を吐き、カイを睨む。
「遊びで世界壊すんじゃねぇよ」
「遊びじゃないさ。
僕は“この世界の魔法を作り直す”って決めてるんだ」
「勝手に決めんな。
世界はお前の実験場じゃねぇ」
カイは一歩後ろに下がり、森の影に溶け込むように姿を消し始めた。
「また会おう、アレン。
次はもっと面白い“バグ”を用意しておくよ」
「待て!!」
アレンが追おうとした瞬間、カイの気配は完全に消えた。
シルヴィアが駆け寄る。
「アレン、大丈夫!?」
「……あぁ。けど――」
アレンは森の奥を睨みつけた。
「アイツ、放っといたら本当に世界壊すぞ」
リーゼロッテが静かに頷く。
「アレン様。カイという少年……彼は危険です」
「わかってる。
だから――」
アレンは拳を握りしめた。
「いっちょ本気でデバッグするか」
こうしてアレンは、初めての“同類”と衝突し、
世界の裏側で進行する危険な計画の存在を知った。
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