第三話 移動バグ
アニメかあああああ
迷いの森から王都までは、通常なら馬車を飛ばしても三日はかかる距離にある。
だが、アレンに焦る様子は微塵もなかった。
「アレン様、本当に間に合うのでしょうか……。私、全力で走れば半日ほどで行けるかもしれませんが、アレン様を置いていくわけには……」
リーゼロッテが不安そうにアレンを見上げる。彼女の足元には、先ほど彼女が軽く踏み込んだだけで生じたクレーターが出来ていた。レベル999の筋力は、もはや彼女自身の制御を離れつつある。
「走る? そんな疲れる労働をするわけないだろ。俺は前世で、歩くことすらショートカットしてきた男だぞ。いいかリーゼロッテ、この世界の『移動』は、座標の書き換えなんだ。足を動かす必要なんてない」
アレンは森の出口にある、不自然に角張った岩の隙間に目を付けた。そこは二つのポリゴンが複雑に交差し、当たり判定が極めて不安定になっているバグスポットだった。
「いいか、今から俺の腰をしっかり掴んでろ。舌を噛まないようにな。これから物理演算をぶっ壊すから」
「は、はい! 失礼します!」
リーゼロッテがアレンの背中にしがみつく。レベル999の握力にアレンの肋骨がミシミシと悲鳴を上げるが、彼は無視した。
アレンは岩の隙間に背を向け、特定の角度で、高速に屈伸運動を繰り返した。前世のゲーマーたちがケツワープや加速ジャンプと呼んだ、物理演算の欠陥を利用した移動技である。
アレンの視界には、加速し続ける速度ベクトルが赤い矢印となって表示されていた。
「座標固定解除。衝突判定の重複による反発係数の無限増殖。……よし、ベクトルが溜まった。射出!」
ドォォォォォン!!
次の瞬間、大気が爆発するような轟音とともに、二人の体は光の矢となって空へ跳ね飛ばされた。
「あああああああああああああ!?」
リーゼロッテの絶叫が置き去りにされる。景色が線になり、雲が背後へと一瞬で消え去る。時速換算でマッハ三を超えているが、アレンは結界を張る代わりに「風の抵抗」という変数をゼロに書き換えることで摩擦熱を回避していた。
「あ、ここ。マップの読み込みが遅れてるな。テクスチャが貼り直される前に通り抜けるぞ」
アレンは空中で姿勢を制御し、王都の城門をターゲットに定めた。
わずか数分後。王立学院の巨大な城門の前に、二人は音もなく着地した。正確には、着地した瞬間に速度ベクトルをゼロに書き換えて、衝撃を強制終了させたのだ。
門番たちは、空から降ってきた二人に腰を抜かしている。
「ふぅ……。やっぱり実機だと挙動が少し違うな。摩擦係数の計算にラグがある。まあ、間に合ったからいいか」
「……アレン様。私、天国が見えました。お花畑が広がっていました……」
三半規管がバグり、顔面蒼白のリーゼロッテを引きずりながら、アレンは入学試験の受付へと歩みを進めた。
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