第二十七話 もう一人のデバッカー③
いやあいいですねええ
アレンたちは森の奥へ進んでいた。魔法異常の痕跡を追ううちに、空気が明らかに変わっていく。普通の人にはただの“魔力の濃い場所”に感じられるが、アレンには裏側の構造が歪み、ねじれ、破損しているのがはっきり見えていた。
「……この先だな。魔力の線が完全に乱れてる」
「線って言うなってば……」
シルヴィアは呆れながらも、アレンの後ろをしっかりついていく。リーゼロッテは静かに周囲を警戒していた。
「アレン様。先ほどから魔力の残滓が増えています。誰かが“意図的に”魔法を使った痕跡です」
「だよな。自然じゃない」
アレンは木々の間を抜け、開けた場所に出た。
そこには、地面に焼き付いた巨大な魔法陣の残骸があった。
「……これは」
「また魔法暴走の跡?」
「いや、違う。これは“実験”だ」
アレンはしゃがみ込み、魔法陣の破片に触れた。
その瞬間、視界に裏側の構造式が一気に展開される。
「……やっぱりだ。誰かが魔法の根本構造をいじってる」
シルヴィアが息を呑む。
「そんなことできるの、あんた以外にいないでしょ!?」
「だから言ってんだろ。いるんだよ、もう一人」
リーゼロッテが静かに問う。
「アレン様。その者は敵でしょうか?」
「さぁな。けど――」
アレンは立ち上がり、周囲を見渡した。
その瞬間、空気が震えた。
「……っ!」
「な、なに!? 今の魔力の揺れ……!」
アレンだけが、その揺れの“意味”を理解していた。
魔法の裏側に、誰かがアクセスしている。
しかも――すぐ近くで。
「……いるな。見てる」
「見てる!? どこよ!?」
アレンはゆっくりと顔を上げ、森の奥を指差した。
「そこだ。隠れても無駄だぞ。裏側の揺れでわかる」
風が吹き、木々が揺れた。
そして――
「……へぇ。やっぱり気づくんだ」
木陰から、一人の少年が姿を現した。
年齢はアレンと同じくらい。
だがその瞳は、明らかに“普通の魔法使い”のものではなかった。
シルヴィアが警戒して叫ぶ。
「誰よ、あんた!」
少年はアレンだけを見て、薄く笑った。
「君、面白いね。魔法の裏側が見えるんだろ?」
アレンは目を細める。
「……お前も、だろ?」
「もちろん。じゃなきゃ、こんな壊れた魔法陣、作れないよ」
リーゼロッテが一歩前に出る。
「あなたが魔法異常の原因ですか?」
少年は肩をすくめた。
「原因ってほどじゃないよ。ただ、試してただけさ。
この世界の魔法がどこまで耐えられるか」
アレンの表情がわずかに険しくなる。
「……お前、魔法を“実験材料”にしてるのか」
「だって面白いじゃないか。
この世界の魔法は脆い。裏側を少し触るだけで壊れる。
君もそう思うだろ?」
アレンはゆっくりと歩み寄り、少年と向き合った。
「……名前は?」
「カイ。君と同じ“デバッガー”だよ」
シルヴィアが叫ぶ。
「デバッガーって何よ!!」
アレンは小さく息を吐いた。
「……カイ。お前、何が目的だ?」
カイは笑った。
その笑みは、どこか危うく、そして楽しげだった。
「決まってるだろ。
この世界の魔法を“作り直す”ことだよ」
アレンの目が鋭く光る。
「……それ、世界が壊れるぞ」
「壊れたら直せばいい。
君もそう思うだろ? デバッガーなんだから」
アレンは拳を握りしめた。
「……ふざけんな。
俺は“壊すため”にデバッグしてるんじゃねぇ」
カイは楽しそうに笑った。
「じゃあ――止めてみせてよ、アレン」
風が吹き、二人の間に緊張が走る。
世界の裏側を見える者同士の、初めての対峙だった。
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