幕間 祝宴
幕間挟みます!
王都の喧騒も、国王の呼び出しも、敗北した王子の泣き言も、今の彼らには届かない。
アレンが管理者権限で構築した「プライベート・サーバー(隠れ家)」。そこは物理法則すらアレンの指先一つで書き換えられる、世界で最も安全かつ贅沢な隔離空間だった。
「……ふぅ。ようやく、この重い『英雄の衣装』を脱げるな」
アレンは、決闘祭で着ていた制服をデータへと分解し、前世の部屋着を模した「究極の堕落着」へと着替えた。
中央のリビングには、リーゼロッテが腕によりをかけた豪華な料理が並んでいる。ただし、その食材はアレンが各地のレアモンスターのドロップデータを直接引き出した、最高級の「バグ食材」ばかりだ。
「アレン様、お疲れ様でした。こちら、北方結界領にのみ生息するスノーパニッシャーの希少部位を、私が『全リミッター解除』の状態で調理したステーキです。一口食べれば、魔力回復速度が$5000%$上昇します」
「……リーゼロッテ、お前の料理はいつもバフ(強化)が重すぎるんだよ。普通に美味しいだけでいいんだ」
アレンは苦笑しながら、口に運ぶ。
「……ん、美味い。肉の硬度設定が完璧だ。さすがだな」
「喜んでいただけて光栄です。……それで、アレン様。食後には、私の肉体を用いた『触覚デバッグ』の続きを……」
「それは却下だ。後回し」
「ちょっと! 私を無視して盛り上がらないでよ!」
そこへ、シルヴィアが顔を真っ赤にして割り込んできた。彼女は公爵令嬢としての気品をどこかに置き忘れたのか、アレンのすぐ隣のソファに陣取り、彼が飲んでいたジュースを奪い取る。
「アレン! 私、さっきからこの部屋の設定が気になって仕方ないんだけど! なんでお風呂の蛇口から、最高級のポーションが流れてくるのよ!? あれ、一滴で金貨十枚はする代物なのよ!?」
「あぁ、あれか。在庫データ(インベントリ)が溢れそうだったから、とりあえず廃液として流してるんだ。気にせず洗顔にでも使えよ」
「廃液って……世界中の魔導師が泣くわよ、そんなの!」
シルヴィアは呆れ果てたように溜息をついたが、すぐにアレンの腕をぎゅっと抱きしめた。
「……でも、まあいいわ。あんな退屈な学院や王都にいるより、ここのほうがずっと面白いし。何より、あなたのそばにいられるもの」
彼女の親愛度カウンターは、既に限界値を突破していた。
『マスター。個体名シルヴィアの体温が上昇しています。これは恋愛的興奮によるものか、あるいは単なるポーション風呂の副作用か……。……判断不能のため、私もマスターの反対側の腕を確保することでデータの同期を図ります』
いつの間にか実体化していたセフィが、無機質な表情のままアレンの反対側の腕に抱きつく。
「セフィ、お前まで……。腕が重いんだよ、二人とも」
「「却下します(わよ)!」」
最強の従者、熱烈な公爵令嬢、そして万能の管理プログラム。
世界の頂点に立つ女性たちが、一人の「無気力な青年」を奪い合う。これこそが、アレンがデバッグの果てに手に入れた、最強に騒がしい報酬だった。
「アレン様、改めて乾杯を。このクソゲーのような世界を、あなた色に書き換えた記念に」
リーゼロッテが黄金の杯を掲げる。
「……ああ。乾杯。……でもな、世界を書き換えるのはもう終わりだ。明日からは、俺の理想のバカンスを邪魔する『日常のバグ』だけを掃除して生きていく」
アレンは杯を合わせ、一口飲み干した。
窓の外には、アレンが生成した「永遠に沈まない夕日」が、四人を優しく照らしている。
第一章の幕引き。それは、第二章という名の、より自由で、より甘く、そしてより混沌とした「新しいゲーム」の始まりを意味していた。
「あ、アレン! 今、私の心臓の鼓動を『静止』させなかった!? 胸が苦しいのはあなたのせいなんだから、責任取ってよね!」
「それは魔法じゃなくて、ただの恋の病っていう仕様だろ……」
笑い声と怒鳴り声、そして時折混じる甘い吐息。
伝説のデバッカーたちの夜は、まだ始まったばかりだった。
書籍化しますね




