第十九話 決闘祭⑥
第一章完結です!
王立闘技場に静寂が満ちていた。
つい先ほどまで世界を「全初期化」しようとしていた古代兵器は、アレンの一触によってただの鉄屑へと成り果て、その中枢データは今やセフィのデータベースへと統合されている。
観客席の何万という人々は、何が起きたのかを理解できず、ただ呆然と立ち尽くしていた。だが、実況の魔導水晶が「勝者、アレン・ロードライト!」と絶叫した瞬間、地を揺るがすような歓声が爆発した。
「救世主だ!」「無能どころか、神の使いじゃないか!」「レムリアの暴挙を止めた英雄万歳!」
降り注ぐ賞賛の嵐。しかし、壇上のアレンはその歓声を、まるで不快なシステム警告音を聞くかのような表情で受け止めていた。
「……はぁ。セフィ、リーゼロッテ。……撤収だ。このままじゃ、運営(国王)にルート権限を逆探知される」
「アレン様、どこへ行かれるのですか? 今ならあなたがこの国の、いえ、世界の王にすらなれるというのに」
リーゼロッテが目を輝かせて尋ねる。彼女にとって、アレンが玉座に座ることは当然の帰結に思えた。だが、アレンは首を振る。
「王様? そんなの、世界で一番責任が重くて、一番進捗管理が厳しい『デスマーチの最高責任者』じゃないか。冗談はよせ。俺は今世では、定時上がり……いや、出勤すらしない人生を手に入れるって決めたんだ」
アレンは指先で空中に複雑なコマンドを入力し始める。
[Target: All_Audience] [Command: Memory_Obfuscation(記憶の不可視化)]
[Target: Allen_Lordlight] [Status: Permanent_AFK(永久離席)]
「ちょっと待ちなさいよ! 私を置いていくなんて、そんなの、バグっていうか倫理規定違反よ!!」
そこへ、顔を真っ赤にしたシルヴィアが駆け寄ってきた。彼女の背後では、娘の覚醒に感動した公爵が「わが娘こそ新時代の魔導師だ!」と周囲に自慢しているが、彼女はそんな父親など目に入っていない様子だ。
「シルヴィア。お前は公爵令嬢だろ。英雄としてここでちやほやされてりゃいいじゃないか」
「うるさいわね! あなたに『世界の裏側』を見せられて、今さら普通の令嬢に戻れるわけないでしょ! あなたが私の人生を『書き換えた』んだから、最後までデバッグしなさいよ!」
アレンは困ったように眉を寄せ、隣に浮かぶセフィを見た。
『マスター。個体名シルヴィアの執着心は、現在の私の演算能力でも予測不能な「不定値」を叩き出しています。彼女をここに残した場合、数日以内に精神的な不具合(ヤンデレ化)を起こし、世界のソースコードに物理的なノイズを撒き散らす恐れがあります』
「……要するに、連れて行かないほうが世界にとって危険ってことか。仕様がねぇな」
アレンは苦笑し、シルヴィアの手を取った。
「いいか、俺が行くのは、地図にも載ってない、物理法則すら俺が自作した『隠しダンジョン』だ。Wi-Fi……いや、魔導の電波も届かないし、パーティー会場もドレスもないぞ」
「あなたがいて、魔法の真理があるなら、そんなの些細な仕様変更よ!」
アレンは頷き、足元の地面に管理者専用の「脱出ハッチ(エスケープ・ゲート)」を生成した。
闘技場の中心に、巨大な虚無の穴が開く。人々が驚愕して身を乗り出す中、アレンは最後に一度だけ、王都の空を見上げた。
「……さよなら、クソゲーのような現実世界。俺はこれから、自分の理想(ニート生活)をプログラミングさせてもらうよ」
アレン、リーゼロッテ、セフィ、そしてシルヴィアの四人が、光の中に消えていく。
直後、アレンが仕掛けていた「大規模記憶改竄パッチ」が発動した。観客たちの頭の中から、アレンという少年の具体的な容姿や名前が、霧が晴れるように薄れていく。
後に残ったのは、「誰か凄い魔導師が世界を救った」という曖昧な伝説と、機能停止した古代兵器の残骸。そして、優勝者不在のまま幕を閉じた、前代未聞の対抗決闘祭の記録だけだった。
――数時間後。
王都から遠く離れた、未踏の山脈の奥深く。
そこには、アレンが管理者権限で構築した、外部からの干渉を100%遮断する「プライベート・サーバー(隠れ家)」があった。
内部はアレンの趣味が全開で反映され、常に摂氏24度の最適気温が維持され、ふかふかのソファと、無限に食料が生成される魔導冷蔵庫が完備されている。
「……ふぅ。ようやく、ログインボーナスを受け取るだけの生活が始められる」
アレンがソファに深く沈み込むと、リーゼロッテが慣れた手つきで肩を揉み、セフィが空中に最新の「世界の情勢ログ」をホログラムで映し出した。
「アレン! この部屋の重力設定、少し軽すぎない!? 私、さっきからふわふわ浮いちゃって、お茶も飲めないんだけど!」
シルヴィアの叫び声が響くが、アレンは目を閉じて微笑むだけだった。
第一章:アレンという男
完結!
第二章:さらなる冒険へ
開幕!




