第十三話 決闘祭の始まり
どうですか
地下サーバーの管理AIセフィを「サポートAI兼、二番目の従者」として私物化したアレン。地上に戻った彼を待っていたのは、学院中が浮き足立つ、年に一度のビッグイベント「五校合同対抗決闘祭」の開催だった。
これは近隣諸国の魔導学院から選りすぐられたエリートたちが集い、魔法と剣の腕を競い合う華やかな祭典である。だが、前世で「イベント実装直前のデバッグ作業」に殺されかけたアレンにとっては、これほど面倒な行事はない。
「……仕様がねぇな。なんで俺が、わざわざ他校の連中とチャンバラしなきゃならないんだ。リーゼロッテ、俺の代わりに全員場外に放り投げてきてくれないか?」
「お任せくださいアレン様。あのような有象無象、一秒あれば十分です」
「ダメに決まっているでしょう、二人とも!」
アレンの部屋に、いつものように不法侵入してきたシルヴィアが声を荒らげた。彼女の手には、決闘祭のトーナメント表が握られている。
「今回の対抗戦は、お父様……ベルシュタイン公爵家も観覧にいらっしゃるのよ! そこであなたが、また地面を割ったり魔剣を壊したりしたら、私の立場が……! いい、アレン。今回は『普通』に戦ってちょうだい。魔法を使って、優雅に、常識の範囲内で勝つのよ!」
「普通、か……。それが一番難しい注文だな」
アレンは溜息をつき、自室のテラスから学院の広場を見下ろした。そこには、他校からの遠征組が続々と到着していた。
中でも一際異彩を放っていたのが、魔導大国レムリアの第一王子、エドワード率いる「レムリア騎士学院」の一団だった。彼らは「ステータス至上主義」を掲げ、高度な魔導計測器で相手の数値を算出し、効率的に弱点を突く戦法で知られている。
広場の中央で、エドワードが最新型の測定器を手に、王立学院の生徒たちを値踏みするように眺めていた。
「ふん、相変わらずこの国のレベルは低いな。平均魔力値が五百にも満たないとは……。おや、あそこにいるのはベルシュタイン公爵家の令嬢か。……隣にいる薄汚い男は、魔力値……一? いや、ゼロか。測定不能のゴミが紛れ込んでいるようだ」
エドワードの嘲笑がアレンの耳に届く。アレンは興味なさげに視線を外したが、彼の影の中から、銀髪の美少女の姿をしたセフィがひょっこりと顔を出した。
『――マスター。あの金髪個体の言動は、世界の安定的運用を乱す「精神的なノイズ」と判断します。……消去しますか?』
「待て待て、セフィ。現実世界で安易に消去コマンドを使うな。……まあ、でも、あの測定器は少し目障りだな。他人のプライベートなステータスを勝手に覗き見するのは、セキュリティ違反だ」
アレンは指先をパチンと鳴らした。
[Target: Lemuria_Scanner]
[Script_Injection: Infinite_Loop]
その瞬間、エドワードが持っていた高価な測定器が、ガタガタと音を立てて震え始めた。
「な、なんだ!? 故障か? 画面の数値が……九九九九九九……止まらん! 熱い、熱すぎる!」
ボフッ! という情けない音と共に、測定器は真っ黒な煙を吹いて爆発した。アレンが「無限の魔力値」を強制的に読み込ませたことで、測定器のCPUが処理落ちを起こして物理的に焼損したのだ。
「あーあ、安物を使うから。……さて、シルヴィア。普通に戦えって言ったよな。じゃあ、明日の第一試合は、魔法の『エフェクト』だけは派手にしてやるよ。中身はただのバグだけどな」
「……嫌な予感しかしないわ。本当に、本当によろしく頼むわよ、アレン!」
決闘祭前夜。王都の喧騒を他所に、アレンはセフィと共に、大会運営が用意した「対戦用闘技場」のソースコードを書き換え始めた。
彼にとっては、これは決闘ではなく、ただの「システムテスト」に過ぎないのだ。
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