第十二話 美少女
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運営騎士を撃破し、白い回廊を突き進んだアレンとリーゼロッテは、ついにその「最深部」へと辿り着いた。
そこは、見渡す限り水面のような床が広がる、透明なドーム状の空間だった。中心には、巨大な水晶の柱――この世界の全ての演算を司る「魔導中枢」が鎮座している。
だが、アレンの目を引いたのは、そのサーバーの前に浮遊している、一人の少女だった。
透き通るような銀髪に、回路のような紋様が刻まれた純白のドレス。彼女は感情の欠落した瞳でアレンを見つめ、静かに口を開いた。
『――不具合個体アレン。および、リミッターを破壊された特異点個体リーゼロッテ。……私はこの世界の管理プログラム、セフィ。あなた方の行為は、世界の安定的運用を著しく阻害しています』
その声は美しく、しかし機械的な冷徹さに満ちていた。
アレンは後頭部を掻きながら、一歩前に出る。
「やっぱりいたか。世界の意思だか、管理AIだか知らないが……。お疲れ様、セフィ。あんたの作ったこの世界、デバッカーの視点から言わせてもらえば、テストプレイ不足もいいところだぞ」
『……異論を却下します。この世界は完全なる調和の下に生成されています。バグと呼称される現象は、低位存在が理解できない高次元の仕様に過ぎません』
「出たよ。無能な運営の常套句、『それは仕様です』か。……いいか、セフィ。物理演算の隙間でケツワープができるのも、魔力測定器がオーバーフローするのも、全部あんたのコードの書き方が甘いからだ。特に、このリーゼロッテの『呪い』……。符号の入力ミスで人生を壊された彼女を見て、まだ仕様だと言い張るのか?」
アレンの言葉に、セフィの瞳がわずかに明滅した。
『……個体リーゼロッテの事象は、確率論的な揺らぎであり……』
「嘘をつけ。あんた、本当は気づいてるんだろ? あまりに膨大になりすぎたデータが、自分自身の重みで処理落ち(矛盾)を起こし始めてることに。だから、俺みたいなイレギュラーを消して、無理やり帳尻を合わせようとしてるんだ」
アレンの指摘は、図星だった。
セフィの背後に浮かぶ魔導文字が、激しい勢いでエラーログを吐き出し始める。
彼女はゆっくりと手を掲げた。
『対話の無益さを確認。……管理者権限を行使し、領域内の全オブジェクトを「初期化」します』
「待って、アレン様! あの方、先ほどの騎士とは比べものにならないほどの魔力を……!」
リーゼロッテが割って入ろうとするが、セフィが放ったのは「魔法」ではなかった。
それは、空間そのものを再定義する、強制的な「書き換え」だ。
床が、壁が、そしてリーゼロッテの体が、真っ白なデータへと分解されようとする。
だが、アレンは動じなかった。彼はすでに、自分の足元にある「管理者用ポート」に、見えないプラグを差し込んでいた。
「悪いなセフィ。あんたが『初期化』を走らせるより先に、俺がこの空間に『サンドボックス(仮想展開)』を構築させてもらったよ。ここであんたが何を消そうとしても、それは俺が作った仮装メモリの中だけの出来事だ。……つまり、今のあんたの権限は、俺の下にある」
『……な!? アクセス拒否? ルート権限が……奪われている……!?』
セフィの無機質だった表情に、初めて驚愕という名の「ノイズ」が走った。
アレンはニヤリと笑い、空中に浮かぶ彼女の首筋に触れる。そこには、システムの根源に繋がる「隠しアクセスキー」が存在していた。
「さて、生意気な管理AIさん。あんたのプログラムを少しだけ弄らせてもらうよ。まずは……そうだな。その『冷徹モード』をオフにして、もう少し人間らしい『バグ』を植え付けてやる」
アレンがコマンドを打ち込む。
[Behavior_Logic: Pure_Rational -> Emotional_Unstable]
[Constraint: Admin -> Companion]
『や、やめなさい……! 私の思考回路に、未知のデータが……あ、あぁ……っ!』
セフィのドレスが淡く発光し、彼女の瞳に「熱」が宿る。
崩壊しかけていた空間は元の静寂を取り戻し、リーゼロッテの体も再構成された。
アレンが手を離すと、セフィはへなへなとその場に座り込み、顔を真っ赤にしてアレンを見上げた。
「……ひ、酷いです。マスター。私、私はただ、仕事をしていただけなのに……。こんな、胸が苦しくなるようなプログラム、聞いていません!」
「お、喋り方が人間らしくなったな。……よし、これで『運営との直接対決』は回避だ。セフィ、お前はこれから、俺のニート生活を裏で支える『サポートAI』として働いてもらう。もちろん、残業代は『新しい知識』で払うよ」
『……最悪のユーザーです。でも、ルート権限を握られた以上、逆らえません……。……よろしくお願いします、マスター』
こうして、世界の管理プログラムまでもを手中に収めたアレン。
だが、その様子を現実側のモニター(鏡)で覗き見していたシルヴィアは、「あ、あの女、誰よ……!? アレンのやつ、地下で新しい女をハックしてるじゃない!」と、別の意味で怒りのオーバーフローを起こしていた。
伝説のデバッカーによる異世界バカンス。
運営すらも「ヒロイン(部下)」に変えてしまったアレンの無双は、もはや誰にも止められない領域へと突入していく。
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