第十一話 権限争奪戦
評価が一向に....
奈落への落下。通常であれば、重力加速の法則に従い、地表へと激突して物理衝撃でデータが抹消される。それがこの世界の「仕様」であり、不法侵入者への自動的な処刑プロセスだ。
だが、アレンは落下しながらも、欠伸を噛み殺していた。
「……自由落下の加速度定数は9.8か。前世の物理エンジンと全く同じ数値だな。芸がないというか、手抜きというか」
アレンは空中で、自分にしか見えない仮想キーボードを高速で叩く。
「座標固定。重力ベクトルの参照先を『空』に変更」
その瞬間、アレンの体は目に見えない不可視の床に足をつけたかのように、空中でピタリと静止した。
「ア、アレン様!? 落ちていない……空中に立っています!」
同じく落下していたリーゼロッテの襟首を掴み、アレンは彼女を自分と同じ「静止座標」へと引き上げた。
「ただの慣性制御だよ、リーゼロッテ。それより上だ。運営(GM)さんが、バグ技の修正を持ってお越しだぞ」
頭上から、運営騎士が光の尾を引いて急降下してきた。
その騎士は、アレンが物理法則を拒絶して空中に留まっているのを見て、バイザーを激しく明滅させる。
『……演算エラー。不具合個体が基本定数を拒絶。……高次介入プロトコル、フェーズ二に移行。周辺空間の「オブジェクト消去」を承認。』
騎士が幾何学的な紋様の刻まれた大剣を突き出すと、アレンの周囲の空間そのものが、真っ黒なノイズを帯びた「虚無」に包まれた。
触れたもの全てを存在しなかったことにする、究極の削除命令。この世界の住民がどれほど魔法を極めても、この「存在権限」への干渉だけは防げない。
だが、アレンは不敵な笑みを浮かべた。
「その『消去』コマンド、対象のオブジェクトIDを個別に指定して実行してるんだろ? だったら、俺のIDを、あんた自身のIDと一時的に『スワップ(交換)』してやるよ」
アレンの指先が、空間に浮かぶソースコードの深層を弄る。
[Target_ID: Allen_Lordlight] <-> [Target_ID: Protector_Alpha]
[Role_Swapping... Success]
次の瞬間、騎士自身が放った消去のノイズが、騎士自身の右腕に直撃した。
『――ガッ、ガガガッ!? 警告。自己削除を検知。論理矛盾が発生……エラー、エラー……!』
騎士の右腕が、自らの攻撃によってノイズの中に飲み込まれ、粒子となって消失していく。自分の書いたバグ修正プログラムが、自分自身をウイルスだと認識して攻撃を始めたようなものだ。
「自分の書いたコードに噛みつかれる気分はどうだ? あんたたちのシステムは、論理的には完璧かもしれない。でも、想定外の入力(ユーザーの悪知恵)には脆弱なんだよ」
アレンはさらに畳み掛ける。
「リーゼロッテ、今だ! あいつの防御フラグは今、エラー処理のせいで強制的に外れてる! 一発ぶち込んでやれ!」
「承知いたしました! アレン様を消そうとした罪、万死に値します!」
リーゼロッテが滞空状態のまま、一気に加速した。
彼女の背後で空気が爆発し、ソニックブームが巻き起こる。レベル999、そしてアレンによって「リミッター解除」された彼女の拳が、運営騎士の胸部にめり込んだ。
ドォォォォォン!!
本来なら「無敵属性」を付与されているはずの運営騎士だったが、アレンがシステムの隙間から「ダメージ判定」を無理やり有効化したことで、その防御は紙同然となった。
白い鎧の破片が通路に散らばり、騎士は断末魔のノイズを残して光の粒子へと霧散した。
「ふぅ……。ひとまず、ガードプログラムの撃破完了だな」
アレンは座標固定を解除し、音もなく通路の床へと着地した。
だが、安堵のため息をつく暇はなかった。
通路の奥、魔導核が存在する最深部からは、先ほどの騎士など比較にならないほどの、巨大な「管理者権限」の波動が押し寄せてきていたからだ。
「……ま、これくらいで終わるならクソゲーとは呼ばれないか。さて、リーゼロッテ。ここからが本当のハッキングだ」
アレンは再び歩き出す。世界の理を完全に掌握し、自分たちの理想の休暇(ニート生活)を確定させるために。
その瞳には、前世で一度も諦めることなくバグを追い詰めた、デバッカーの執念が宿っていた。
アニメ化してえよおおおお




