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僕は黒幕になりたい〜戦うヒロイン育成計画!〜  作者: 少林 拳


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第七十六話 リブの学校生活


「……今日から転入になった。名前はリヴィアン・ジョーンズ。よろしく」


「……ということです。皆さん、仲良くしてあげてくださいね」


クラスの前で、少女が挨拶する。

教員の言葉が終わるや否や、一斉に拍手が鳴り響いた。

海外からの入学者ということで、少女たちの間では、微かなざわめきが起こっている。


そばかすの散った頬と低い鼻。

少し地味だが、見る人を安心させるような顔立ち。

そして、エメラルドのように澄んだ瞳。

お察しの通り、彼女(リヴィアン)の正体はオリヴィア……リブである。


もちろん、リヴィアン・ジョーンズは偽名だ。

オリヴィア・ユースティティアで学校に登録すると、簡単にリ・ヴァースに見つかってしまうだろう、と考えた結果である。

和花たちが愛称の「リブ」と呼んでも怪しまれないように、名前はリヴィアンとした。

なお、苗字は適当である。


この苗字を決めるにあたって、


琴音「……ジョーンズとか? 東欧で2番目に多い苗字らしいよ」

和花「いいじゃん! かっこいい!」

美香「アタシにも良いアイデアがあるぜ!」

琴音「……一応、聞くね」

美香「リヴィアン・アルティメット・ダイナ……」

琴音「もういい」

美香「なんでだよ!」


というやりとりがあったのだが、詳細は割愛する。

ちなみに、東欧で一番多い苗字はスミス。

こちらは少し偽名くさいので、次点のジョーンズに決まった。


そんなリブの今の髪型は、明るい栗色のウルフカット。

かつてはポニーテールだったのだが、モルガナに捕まった際に短く切り落とされてしまったので、今の髪型に落ち着いている。


なお髪色も、魔導十姫の時は黒だったのだが、これは当時から染めていたそうだ。

万が一にもルーナにバレないように、元の髪色を隠していたらしい。

今は染める必要もないので、元の明るい栗色に戻している。


何よりも大きな変化は、そのメガネだろうか。

大きな丸メガネは、不思議とリブに似合っている。


これは元の顔立ちを隠す変装としての意味合いもあるが、本当の理由は別にある。

その理由は、「ルーナを直視しないため」。

もちろん、ルーナのことがイヤだとか、そんなネガティブな意味ではない。

これはリブが魔族へと改造された際、脳改造を受けて「ルーナを見ると人狼に変身してしまう」体質にされてしまったためだ。直視しなければ良いらしく、試しにメガネをかけてみたら大丈夫だったので、今後はこれで通すことになった。


そんなリブは、今日から和花たちと同じクラス。

和花が小さく手を振ると、リブは少しはにかんで見せた。

和花の肩に乗っているルーナも、嬉しそうにリブを見つめている。

琴音はクールに微笑み、その隣で美香がニカッと笑う。

もちろん二人とも、和花やルーナに負けず劣らず、リブのことを歓迎していた。



リブが新たな仲間になってから、一週間が過ぎた。

その間、しばらくリブは和花・美香と同じ部屋に寝泊まりしていたのだが、美香の胸で和花が窒息しかける事件が3日連続で発生したため、新たな居場所を考えることになった。


最初は、琴音のマンションで暮らす案も出た。

彼女の部屋は、たまに戻ることはあっても、今は基本的には空部屋になっている。

せっかく高級なマンションなのに、少し勿体無いと琴音も和花も思っていたのだ。

もちろん、和花や美香の家は、家族が住んでいるので選択肢から外してある。


しかし、そのプランに反対する者がいた。


当のリブ本人である。


彼女は、「みんなと学校に通いたい」と主張した。


リブは幼少期にリ・ヴァースによって拉致され、収容所で奴隷として育てられてきた。

ルーナと過ごした期間はそれなりに幸せだったようだが、10歳からは人体実験のために研究室に閉じ込められ、それ以降は厳しい訓練と過酷な任務でかかりっきりになっていたのだ。

当然、学校になんて行ったこともない。


そのため、リブは学校生活というものに、強い憧れを持っていた。

ルーナだけでなく、和花や琴音、美香と一緒に学べるこの学校は、彼女にとって理想的な場所だった。


それを知った和花たちは、リブの学校生活のため、粉骨砕身した。

リブの生い立ちに深く同情していたのもあるが、結局のところ、彼女たちも一緒にリブと過ごしたかったのだ。

一緒に過ごした期間は短いとは言え、リブは既に彼女たちの仲間だった。


早速、和花と美香は、リブを連れて買い物に出かけた。

リブと一緒にあちこちを回り、気に入った生活用品や衣服を買った。

とはいえ、リブは家財を全てリ・ヴァースに置いてきてしまっている。

彼女は普段着はおろか、下着すら持ち合わせていなかった。

そもそもリブは日本に生活基盤を一切もたないので、買うものも多かった。

衣服類や靴、衛生用品、文房具、ダミーの制服、連絡用のスマホ。

ちゃんと美容院にも行って、髪を整えてもらった。

なお、新たなトレードマークの丸メガネも、この時に購入している。


1日では流石に全て揃えることはできず、何日もかかることになったのだが……。

和花も美香も、そして何よりリブも、意外とこのイベントを楽しんでいた。

和花は女子らしいファッションやインテリアに関してはセンスがあったし、美香は妹を母親代わりに育てていただけあって、家庭的なアイテムに詳しかった。

この二人のおかげで、リブは日本の女子中学生としての体裁を整えることができた。


一方、リブ本人も、この買い物行脚(あんぎゃ)を楽しんでいた。

彼女は物心ついてから一度も、こういった経験がなかった。

ショッピングはもちろん、こうして同世代の友人と過ごす時間もなかったのだ。

彼女は目に入るもの全てに翡翠色の目を輝かせては、あれこれ二人に質問し、気に入ったものを次々と購入した。


なお、リブは無一文だったので、これらの費用は琴音が立て替えている。

彼女の実家は金持ちなので、過剰なほどの生活費が振り込まれているのだ。

琴音自身は奢侈品に興味がなく質素な生活をしていたので、軍資金の心配はなかった。



ちなみに、この時、琴音とルーナは別行動だった。

和やかに楽しんでいた和花たちと違い、二人は非常に大変な思いをする羽目になっていたのである。

なぜかというと、最も面倒な作業……リブの転入手続きのためだ。


リブにまともな戸籍などない。

幼少期のものは現存しているかもしれないが、海外の村役場から取り寄せるわけにもいかないし、何より「リヴィアン・ジョーンズ」は偽名だ。そんな戸籍は、そもそも存在しない。

そのため、まともな手段では転入手続きを取ることはできないのだ。


なので、二人は書類の偽造から始めなくてはならなかった。

ルーナの【幻想】で教職員に認識されなくなった二人は、職員室に侵入。

これまたルーナの魔法で責任者たちの認識をいじり、「リヴィアン・ジョーンズ」が転入してくるというニセの記憶を刷り込んだ。


書類をパソコンで偽造し、ファイルに紛れ込ませ、新しい部屋を割り当て……。

この膨大な作業工程を、二人は協力して、わずか三日でやり終えた。

リブにはピンときていなかったようだが、この二人はもっと褒められて良いだろう。


そんなこんなで、一週間かけてリブの受け入れ手続きを済ませた彼女たちは……。

ようやく、こうしてリブをクラスに迎えることができた、というわけである。


リブの挨拶が終わると同時に、授業が始まった。

彼女の席は、教室の空いているゾーン。

和花の席から見て、数列挟んでちょうど左側だった。


リブは学校生活を送ったことがない。

もちろん義務教育なんて終えていないので、和花は少し心配だったのだが……。

授業中、リブは終始上機嫌で、ポーカーフェイスをわずかに緩ませながら教科書をめくっていた。

どうやら、授業を受けているというだけで楽しいらしい。

その様子を見て、少しホッとした和花だった。


休み時間になると、リブはクラスメートに囲まれた。

海外からの転入性ともなれば、そりゃあ人気者になるわけである。

初めは緊張していたようだったが、少し経つと、リブもクラスメートと打ち解けることができたようで、わずかながら笑顔も見せていた。


再び授業を挟み、お昼休み。

リブは和花たちと一緒に食堂に向かった。

いつもの和花とルーナ、琴音、美香、そして七海。

そこにリブが加わって、食事の席はいつもより華やかになる。


「むぐむぐ……」


「……ふふ。そんなに美味いん、それ?」


「むぐむぐ……美味しい。すごく」


ナポリタンを口いっぱいに頬張るリブを見て、七海が小さく吹き出した。

揶揄うような七海の質問に、リブは素直に返答する。

その様子を見て、七海はまた笑った。


七海は魔法少女のことを知らないので、リブとは初対面である。

どうなるかと少し心配だった和花たちだったが、どうやら杞憂だったようだ。

むしろ七海はリブの天然さを面白く感じているようだったし、リブはリ・ヴァースで奇天烈な格好の魔族を何人も見てきただけあって、七海のギャルファッションを全く気にしていなかった。


夢中でナポリタンを頬張るリブを見て、和花たちも苦笑している。

リブはリ・ヴァースでろくな物を食べていなかったようで、ルーナ同様、既にこちらの食事の虜になっていた。

この一週間、リブは和花と美香に連れられて、既にあちこちで食事をとっているのだが、その都度こうしてハムスターのように頬張るのである。

美香などは妹を叱るノリで注意していたが、当のリブはきょとんとしていた。

食事のマナーなど、リ・ヴァースでは教わらなかっただろうから、仕方ないといえば仕方ないのだが。

今も、「ったくよー」などと言いながら、美香がリブの口元を拭いてやっている。

ガサツに見えて、美香は意外と姉属性なのだ。


そんなふうに、和やかな雰囲気でランチの時間は過ぎていった。

ほぼ初対面だったリブと七海もすっかり打ち解けたので、この昼食会は大成功だったと言えるだろう。


5人(と一匹)が食べ終わった食器を返却していた、その時。

ピクンと、リブが反応した。


「……きた」


「……? 何が?」


きょとんとした顔で、七海が聞き返す。


「もちろん、リ・ヴァ……むぐむぐ」


「お、おトイレかな? あはは……」


それに対して、リブが馬鹿正直に返答しようとしたので、和花が慌てて口を塞いだ。

和花のなんとも苦しい言い訳に、ますます七海が首を傾げる。


「じゃ、じゃあ私、リブをトイレに連れてくね!」


「今はトイレなんて……むぐむぐ」


和花がリブを連れて駆け出していく。


「ごめん、七海。先に戻ってて」


「すぐに戻るからよ!」


その背を追うように、琴音と美香も駆け出していく。


一人ぽつんと残される格好になった七海は、わずかな悲しみを滲ませた表情でつぶやいた。


「……ウチにだけ隠し事かぁ。なんだか寂しーな……」

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