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僕は黒幕になりたい〜戦うヒロイン育成計画!〜  作者: 少林 拳


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第六十二話 月と獣


「はぁ……」


ルーナは、大きくため息を吐いた。

彼女は今、寮室の窓際に座り、ぼんやりと外を眺めているところだった。


今夜は雲ひとつなく、煌々と輝く満月と、それを取り巻く星々がよく見える。

しかし、ルーナの瞳は、それらの景色を映してはいなかった。


物思いに沈むルーナ。

その様子を、この部屋の住人である和花が、心配そうに見つめていた。


「ルーナ、大丈夫かな……」


「さぁな。アタシにゃ分かんねえよ」


和花の言葉に、ルームメイトの美香が肩をすくめながら答える。

その反応を見た和花が少し膨れるが、しかしすぐに目線をルーナに戻した。


その視線の先で、ルーナが再びため息を吐いた。



オリヴィアが幼稚園の送迎バスをジャックしてから、一週間が過ぎた。

そこでオリヴィアの素顔が明らかになってから、ルーナはずっとこの調子だった。


彼女の素顔を見たルーナは、オリヴィアのことをリブと呼んだ。

それは、かつてルーナが失った少女の名だ。


ルーナはかつて、リ・ヴァースに連れ去られ、そして奴隷にされた子供たちの教育を請け負っていた。

そんなルーナに特に懐いていたのが、リブである。


リブは実験奴隷として魔導十姫の第一位に連れ去られ、それ以降は消息を絶っていた。

人体実験のサンプルとして買われたという話だったから、てっきり彼女は死んだのだとばかり思っていた。


しかし、リブは生きていた。

魔導十姫の序列九位、オリヴィア・ユースティティアと名を変えて。


リブが生きていたこと自体は喜ばしいことである。

しかし、彼女が自身の生存をルーナに伝えていなかったという事実が、ルーナを曇らせていた。


一時期とはいえ、リブとルーナは同時期に魔導十姫を務めていたこともある。

あれだけ懐いてくれていたリブが、その時に何も言ってくれなかったのは、少し不自然だ。


何より……ルーナは、オリヴィアに刀で刺されている。

和花(ローズ)の治療の甲斐あって、なんとか命を繋ぎ止めたが、あれは致命傷だった。


これらのことからルーナは、自分がオリヴィアに恨まれているのではないか、と感じていた。

当時は抗えなかったとはいえ、ルーナがリブを序列一位に売り飛ばしたのは事実なのだ。

そして、売られた先で、どのような酷い目に遭ったのかは、想像に難くない。

恨まれていても仕方ない、とルーナは思っていた。


実際のところ、それは大きな間違いなのだが……。

オリヴィア……即ちリブからルーナへ向けている感情は、むしろ真逆と言ってよい。

しかし、ルーナから見える事実を繋ぎ合わせていくと、自然と“恨まれている”ことになってしまう。


ルーナがもう一度ため息を吐いた、その時だった。


「ーーリブ!」


ガラス越しに満月を見上げていたルーナが、いきなり大声をあげた。

同じ部屋にいた和花と美香の身体が、ビクッと震える。


「おいおい、びっくりさせんじゃねーよ。オリヴィアは、ここには……」


呆れたような口調でそう言った美香の言葉を、ルーナが遮る。


「違うわ! リブが来てるの! 場所は、ここから南に15kmよ!」


「オリヴィアさんが!?」


「マジかよ!?」


驚く和花と美香。

和花が慌ててスマホで琴音にも連絡をとっていると、ルーナがくしゃりと顔を歪めた。


「何これ……気配はリブのものだけど、何かが違う……」


「違うって、どう違うんだ?」


聞き返す美香に、困惑しながらもルーナが返答した。


「何か変なの……リブの気配にしては荒々しいし、どこか(いびつ)だわ。

 それに、魔力反応が不自然に強い……。

 ……リブ、貴女、一体どうなっちゃったの……!?」


「琴音も行けるって! ……って、どうしたの?」


きょとんとした表情で尋ねる和花。

それに対して、ルーナは迷いを振り切るように言った。


「……何でもないわ。行くわよ!」



***



渋谷。

満月の光も届かないほど、夜でも光に溢れたこの街は、今や大混乱に陥っていた。


人々の悲鳴と怒号。

車が横転し、ガラスやコンクリートが砕ける音が響く。

あちこちで火の手が上がり、混乱に拍車をかけていた。


「うわぁぁぁ!?」


「こっちに……こっちに来る!」


「くそ……! 邪魔だ! どけよ!」


誰もが自分のことで精一杯で、他者を押し除けながら必死に逃げ出そうとしている。

そんな大混乱の中、まだ小学生になったばかりくらいの女の子が、交差点の真ん中で泣き叫んでいた。


「うわぁぁぁん! おかあさぁん!」


しかし、誰も助けようとしない。

皆、自分のことで精一杯で、他者のことを思いやる暇などなかったのだ。


その時だった。


「大丈夫だよ!」


大混乱の渋谷。

その交差点に、一人の少女が降り立った。


その少女は、白とピンクを基調としたドレスを身に纏い、所々に優美な意匠の装甲を身につけていた。

目の色も、髪の色も、ドレスと同じローズ・ピンクに輝いている。

ふわふわと宙に舞う彼女の耳には、きらりと揺れる四葉のイヤリングがキラリと揺れていた。

その肩には、淡く光るネコが乗っている。


突然の出来事に、女の子だけでなく、周囲の人々も呆然とその様子を見つめていた。


「大丈夫、私が助けるよ! 一緒にお母さんを探そ?」


「まぎあ・ろーず……?」


「そうだよ! 私はマギア・ローズ! だから安心してね!」


マギア・ローズがにっこりと笑うと、先ほどまで泣いていた女の子も、自然と笑顔になった。


「ああっ! マナ! 探したんだから!」


「おかーさん!」


そこへ、女の子の母親が駆けてきた。

慌てて女の子を抱き抱え、ローズにお礼を言う。


「ありがとうございます! うちの娘を……!」


「いいんだよ! もう、手を離しちゃダメだからね?」


イタズラっぽく笑うローズに、ペコペコと頭を下げる母親。


「ばいばい、まぎあ・ろーず!」


「じゃあね!」


足早に立ち去る母子を、ローズは手を振りながら見送った。


そこへ、さらに二人の魔法少女が降りてくる。

それぞれ、青と黄色のドレスを身につけた少女だ。


「リリィ、デイジー、周りの人はどうだった?」


「もう大丈夫」


「大怪我してるヤツはいなかったぜ!」


「よかった! 二人とも、ありがとう!」


手分けをして人命救助にあたっていた魔法少女たちが、再び合流する。

いつの間にか避難を終えたようで、渋谷の交差点からは人がすっかりいなくなっていた。



無人となった夜の渋谷。

その闇の向こう側から、何者かがフラフラと近づいてくる。


やがて、ルーナがポツリと呟いた。


「……リブ」


その視線の先。

そこには、一人の少女が立っていた。


オリヴィアだ。


否、それは本当にオリヴィアなのだろうか。


彼女は、仮面をしていなかった。

だからこそ、その異形と化した相貌がよく見える。


彼女の元の素顔は、低い鼻にそばかすの散った頬と、どちらかといえば朴訥な印象だった。

しかし、今や元々の顔立ちがわからないほど、オリヴィアの顔は醜悪なものへと変化していた。


それは、一言で言うなら獣だった。


歪んだ頬。

まるで犬科の獣のように、口全体が前方に迫り出している。

いわゆるマズルというものに近い。

そこから無数の尖った牙が突き出しており、口元は涎でテラテラと光っていた。


頭の上からは、ぴょこんと三角形の耳が突き出している。

しかも、不思議なことに、オリヴィア自身の耳も残っているため、耳の数が4つになっていた。


ポニーテールにまとめていた黒の長髪はバッサリと切り落とされ、荒々しいショートカットだけが残っている。


いつものバトルドレスや、トレードマークの刀は身につけていない。

まるでボロ切れのような、汚らしい布を身につけているだけだ。


そこから覗く素肌もまた、少女のものではなくなっていた。

ゴワゴワの体毛に覆われたその姿は、まさに獣そのものだ。

お尻からは、もふもふの尻尾まで生えていた。


手袋も靴も身につけておらず、その歪んだ手足がむき出しになっている。

綺麗に切り揃えられていた爪は、長く、そして鋭く伸びており、禍々しい鉤爪と化していた。


そして、その目。

特徴的だったエメラルド色の瞳は、どこか(くす)んだものへと変化していた。

鈍く光る、病んだような緑色。

それが闇夜の中で仄かな燐光を帯びており、いかにも不気味な印象を周囲に与える。


「なんだ、こりゃ……?」


デイジーが顔を顰めて言った。

それに対し、ルーナが顔を青ざめさせながら返す。


「この姿……人狼(ワーウルフ)だわ!」


「オリヴィアさんって、狼女(おおかみおんな)だったの!?」


「元々は、純粋な人間だったはずよ! ……いったい、どうなってるの!?」


「落ち着いて、ルーナ。今は、目の前のことを考えよう」


取り乱すルーナに向けて、リリィが鋭い声を発した。

それを聞き、パニックになりかけていたルーナの目にも、理性の色が戻ってくる。


「……そうね。ごめんなさい」


「取り敢えず、コイツはオリヴィアってことでいいんだな?」


デイジーの疑問に、ルーナは躊躇いながらも返事をする。


「……ええ、そうよ。姿は変わっているけど、この魔力は間違いなくリブのものだわ」


「オリヴィアさん、どうしちゃったんだろ……?」


不安そうに呟くローズ。

実際、オリヴィアの様子は一週間前とは異なりすぎている。

その姿は半人半獣といった様子で、まともな意識があるかどうかさえ怪しい。


「……分からないわ。この姿といい、歪な魔力反応といい……言ったい、どうなってるの……?」


「取り敢えず、オリヴィアを止めなくちゃね」


リリィの言葉に、魔法少女たちは背筋を正した。

かつてオリヴィアがルーナの友人であったとしても、渋谷を大混乱に陥れたのは彼女なのだ。


リ・ヴァースとして暴れるのなら、魔法少女たちは止めなくてはならない。


その時だった。



「グルル……!」


これまで無言だったオリヴィアが唸った。

見た目通り、獣のような声で。


そして、元の声とはかけ離れた歪んだ声で、ボソボソと呟く。


「テンドウ……エイキ……。マホウ、ショウジョ……」


「……意識は残ってるのかな」


リリィの疑問に答えるように、オリヴィアは独り言を続けた。


「グルル……マギア・ローズ。リリィ、デイジー……ルーナ」


ルーナに目を留めたオリヴィアが、急に苦しみ出した。

頭を抑え、唸り声を上げる。


「ルーナ、ルーナ、ルーナ……! ミンナ、テキ! ワタシ、コロス!」


直後、凄まじい勢いで、オリヴィアが突進してきた。

足元でコンクリートが砕け、破片が周囲に飛び散る。


弾丸のような速度で突っ込んできたオリヴィアを、魔法少女たちが迎え撃った。

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