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僕は黒幕になりたい〜戦うヒロイン育成計画!〜  作者: 少林 拳


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第六十一話 侵入と邂逅


リ・ヴァース。

そこは、常世の闇が支配する世界。

その中心に聳える岩山には、要塞と化した一つの城……魔皇城が存在する。


上層部分には、玉座の間や魔皇の居室、かつてルヴィアが裁かれた査問室など公的な場所が並ぶ。

中層部分に設置されているのは、主に魔導四妃や魔導十姫を始めとした幹部クラスの居室や、戦闘訓練用の施設などだ。


そして、下層部分。

ここの様子は、上階とはかなり趣が異なる。


優美な彫刻が施された上階の扉とは違い、下層部分の扉はいずれも無骨で、そして重厚だ。

二重三重のロックなど、厳重なセキュリティが掛けられている部屋も多い。


これは、下層に金庫や武器の保管庫などが多く存在していることによる。

ルーナが侵入し、【姫装神機】を盗み出した場所も、ここ下層にある宝物殿である。


そして、ここに存在するのはそれだけではない。


リ・ヴァースの叡智の結晶にして、知識の泉。

そして、リ・ヴァースの未来を担う、重要な施設がここにある。


すなわち……研究室だ。

そしてここ、今まさにオリヴィアが立ち入ろうとしている場所こそ、魔導十姫の第二席、モルガナ・スカルフォンの有する研究室だった。


(……ここに、死の呪いを解除するアイテムが……)


オリヴィアは、分厚く重い金属製の扉の前に立った。

そして、扉にかけられたセキュリティの解除に取り組んだ。


第一認証は、魔力を参照する計測器だった。

一定以上の魔力を持つ者にしか、扉に触れることはできない仕組みになっているらしい。

オリヴィアは魔法少女との交戦により疲弊していたが、幸い、ギリギリで通過することができた。


第二認証は、8桁のパスワード。

ここも、オリヴィアはなんとかクリアできた。


あの忌々しい道化師(クラウン)から渡されたカードキー。

その裏に、ご丁寧にもパスワードがメモしてあったのである。

入力するのを少しばかり躊躇したものの、心の中で舌打ちをしながら、オリヴィアはパスワードを入れ終わった。


扉にパスワードを打ち込むと、カシュンと小さな音が響き、カードリーダーが飛び出してくる。

おそらく、これが第三認証……最後のセキュリティだろう。


オリヴィアは、静かに息を吐くと、そっとカードキーを差し込んだ。

ブン! という微かな起動音と共に、扉に光の(ライン)が走る。


やがて、重々しい音を立てながら、扉が開いた。


***


モルガナの研究室は、かなり広大だった。

上階の大広間ほどではないが、数百人程度なら収容できるほどのスペースがある。


その広々とした空間には、さまざまな物品がぎっしりと詰まっていた。

実験器具やガラスケースに入ったサンプルなどが所狭しと立ち並ぶ様子は、ある意味、圧巻だった。


壁一面には膨大な量の書物が収められ、溢れた分が床にも積み上がっている。

あちこちに点在している檻の中には、実験動物の(たぐい)が詰め込まれており、侵入者であるオリヴィアに向かって、口々にギャアギャアと喚いていた。


(どこだ……? どこにある……!)


しかし、それらの見事な光景に、オリヴィアは目もくれなかった。

一心不乱に、道化師(クラウン)からの情報にあった解呪アイテムを探している。


幸いにも、モルガナの研究室は雑多ではあるが、きちんと整頓されていた。

希少なアイテムはガラスケースに収められており、丁寧に一つ一つラベリングされている。

うまくいけば、すぐにでも発見できるはずだ。


逸る気持ちを押さえつけ、捜索を始めるオリヴィア。

そして、彼女が探し始めてから、およそ15分が経過した頃のことだった。


(……! あった! これだ……!)


それは、わりあい小さなガラスケースに収められていた。

透明な六角柱の鉱物で、先端が鋭く尖っている。

大きさはオリヴィアの小指ほど。

何も言われなければ、単なる宝石のようだ。

死の呪いを解除するほどのアイテムには、とても見えない。


しかし、ガラスケースのラベルには、以下のように書かれていた。


『解呪結晶』


(これだ! 間違いない! でも……)


オリヴィアはガラスケースに手を出そうとして、ピタリとその動きを止めた。


彼女は、迷っていた。

ガラスケースを叩き割るのは容易い。

ケースそのものの素材は不明だが、オリヴィアが本気で攻撃すれば、破壊できないことはないだろう。

しかし、()()モルガナが、何のセキュリティもなくアイテムを保管しているとは考えられない。


彼女(モルガナ)は呪術の専門家だ。

特定の条件下で設置式の呪術を起動することぐらい、朝飯前だろう。

もし〈(モルス)〉のような術式が仕掛けられていたら、オリヴィアもルーナの二の舞になってしまいかねない。


考え始めればキリがないが……逆にオリヴィアの意思は、しっかりと固まった。


もし自分が死ぬとしても、それがなんだというのか。

ルーナが助かるなら、それで構わない。


覚悟を新たに、ガラスケースに手を伸ばすオリヴィア。


しかし、彼女はそれを中断せざるを得なかった。


「ーーッ!?」


背後で、とてつもない殺気が膨れ上がるのを感じたオリヴィアは、とっさに回避行動をとった。

振り返ることなく、全力で横へとジャンプする。


そして、それが幸いした。


オリヴィアの脇腹を、鋭利な刃物のようなものが掠めた。

身体にピッタリと密着したバトルドレスが切り裂かれ、薄く血が滲む。


凄まじい攻撃速度と切れ味だ。

もし回避していなかったら、彼女の身体は串刺しになっていただろう。


素早く距離を取って、敵の姿を視認する。

()()を視界に収めたオリヴィアは、ひゅっと息を吸い込んだ。

仮面のない素顔に、焦りと絶望が浮かぶ。


そこに立っていたのは、真紅のドレスを身につけた女だった。

褐色の肌に、ドレスに負けないくらい真っ赤な目と髪。

その手の甲には、髑髏を模した黒いタトゥーが刻まれている。

何よりも特徴的だったのは、尾骶骨(びていこつ)のあたりから飛び出している、巨大な尾だった。

赤銅色の装甲に包まれた、2m以上もある尾。

その先端からは巨大なナイフのような針が飛び出しており、蠍の尾節を思わせた。

先ほどオリヴィアを攻撃したのもこれだろう。


見た目は非常に美しい。

しかし、その雰囲気は毒々しく、迂闊に触れれば容易に死に至ることが想像できた。


彼女は、この研究室の主人(あるじ)

そして、魔導十姫の第二席にして、ルーナに死の呪いをかけた張本人。


モルガナ・スカルフォン、その人だった。


***


「ふふっ! 盗人の侵入を感じて、来てみれば……」


モルガナは妖艶に笑った。

形のよい唇が捲れ上がり、彼女の歯が露わになる。


その歯は、一言で言えば異形だった。

人間のように一本一本分かれているのではなく、昆虫のように、全てが繋がっている。

上下から生えるギザギザと鋭利なそれは、まるでノコギリのようだ。


「……とんだお客様ですわね?」


口調は優雅だが、そこには抑えきれないほどの赫怒(かくど)が滲んでいる。

その真紅の瞳は溢れんばかりの殺意を宿しており、今も燃えるように輝いていた。


「仮面はしていないけど……貴女、オリヴィアよねぇ?」


「……人違い」


「ふふっ。冗談が上手いのねぇ」


「……安心して。すぐに出ていく」


なんとかそう告げるオリヴィアだったが、モルガナは邪悪に嗤うばかりだった。


「そういう問題じゃありませんのよ? 貴女、自分の部屋にゴキブリが出たら、どうするかしら?」


「……逃してあげる」


「お優しいこと。でもねぇ、私は……」


モルガナの目がギラリと光った。


「……ブチ殺してしまいますわ!」


直後、再びモルガナの巨大な尾が、オリヴィアを襲った。

素早く刀を抜き、レイピアの刺突を思わせる鋭い一撃と切り結ぶ。


全力で刀を振るったにも関わらず、オリヴィアは刃先に凄まじい抵抗を感じた。

モルガナの尾を切断することは叶わず、叩き落とすのが精一杯だった。

ザグッという鈍い音を立てて、モルガナの尾が研究室の床に突き刺さった。


その隙に、オリヴィアはモルガナに接近した。

研究室の床を蹴り、全力で距離を詰める。


今の彼女に、瞬間移動(テレポート)は使えない。

魔法少女たちと戦ったことも一因ではあるが、この研究室自体が一つの結界なのだ。

壁を破壊するなどの物理的な侵入はもちろん、転移魔法や透過魔法さえも無効化してしまう。

そのため、外部から直接転移することができず、わざわざカードキーで侵入したのだ。


モルガナの研究室に限らず、重要な施設には大抵、こういった仕掛けが施されていた。

オリヴィアが結界のことを把握していたのも、そのためである。


(こうなった以上……ここでコイツ(モルガナ)を殺す!)


モルガナは、ルーナに〈(モルス)〉をかけた張本人だ。

解呪のアイテムを盗み損ねた以上、ここで術者である彼女を殺してしまうのが、最も手っ取り早い。


オリヴィアの戦略はシンプルだった。


先手必勝。


モルガナは呪術の専門家だ。

豊富な呪術を遠方から飛ばして相手を行動不能にし、じわじわとなぶり殺しにするのが彼女のスタイル。


ならば、遠距離戦を挑むのはナンセンス。

オリヴィア自身、遠距離戦よりも接近戦の方が得意だ。


そう考えたオリヴィアだったが、その儚い希望は、粉々に打ち砕かれることになる。


全力で振るった刀が、ガキンという音と共に受け止められたのだ。


モルガナの手には、先ほどまで存在していなかった武器が握られていた。


それは、巨大な鎌。

死神を思わせる、毒々しい血色の鎌だった。


「……邪戦鎌(じゃせんれん):ザ・デス。文字通り、命を刈り取る死の鎌ですわよ? 

 こんな風に、ねっ!」


「ーーッ!?」


モルガナが鎌を振るうと、鍔迫り合いしていたオリヴィアが吹き飛ばされた。

全力で刀を押し込もうとしていたにも関わらず、力負けしたのだ。


これは、接近戦でもオリヴィアに分が悪いことを意味していた。


(……マズい! 逃げるか……!? いや、でも……!)


焦りを露わにするオリヴィアを見て、モルガナは嘲笑した。


「ふふっ。焦ってますわねぇ? ……でも、最初からぜーんぶ、無駄ですのよ?」


「何をーーーーッ!?」


彼女がそういった途端、オリヴィアの身体からガクンと力が抜けた。

慌てて体勢を立て直そうとするが、全身を痺れと灼熱感が襲い、思うように体が動かない。


(なんだ、これ……っ!?)


「私の尻尾にはね、龍をも昏倒させる毒があるんですのよ? 初撃で、もう勝負はついてましたの」


オリヴィアの脇腹を薄く切り裂いた、モルガナの尾による攻撃。

その時に、既に毒が体内に打ち込まれていたのだ。


(……そん、な……!)


「お休みなさい、オリヴィアさん」


どさり、と音を立てて、オリヴィアが床に崩れ落ちる。

その様子を、モルガナは観劇でも鑑賞するかのように眺めていた。


「それにしても……」


モルガナは、倒れ伏したオリヴィアを嫣然(えんぜん)と見下ろした。

その目は、冷酷な嗜虐心に満ちていた。


「……ちょうどいいサンプルが手に入ったわねぇ?」

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