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僕は黒幕になりたい〜戦うヒロイン育成計画!〜  作者: 少林 拳


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第五十九話 離反


「ーーリブ!」


ルーナの叫びに、オリヴィアが顔を歪める。

その表情を彩るのは、焦りか、それとも動揺か。


数秒の間、オリヴィアは躊躇していたようだったが、やがて、彼女の姿が掻き消えた。

瞬間移動(テレポート)したのだ。


「ーーリブ! 待って! ……リブ!!」


「動いちゃだめ! ルーナ!」


オリヴィアの姿が消えると同時に、ルーナが絶叫した。

そして、重傷を負っているにも関わらず、無理やり立ちあがろうとする。

ローズが慌てて抑えこんだが、ルーナはジタバタと(もが)き、その度に血が道路にこぼれ出した。


リリィとデイジーは素早く周囲を見回したが、見える範囲にオリヴィアの姿はなかった。


ルーナが刺されたことで、瞬間移動(テレポート)を阻んでいた結界は消えた。

そのため、今のオリヴィアを制限するものはない。

やろうと思えば、次の瞬間にも背後に転移してくるかもしれないのだ。


しばらく警戒を続けていた二人。

しかし、オリヴィアが攻撃を仕掛けてくる様子はない。


「……気配がない」


「チッ! 逃げやがったか」


リリィとデイジーは周囲を見渡すが、オリヴィアの気配はどこにもなかった。

おそらく、長距離転移でリ・ヴァースまで撤退したのだろう。


強敵を取り逃してしまったが、こうなってしまったら仕方がない。

リリィとデイジーの警戒心が、わずかに緩んだ。


「ーーゲホッ!」


その時だった。

ルーナが、ごぼりと血を吐いた。

コンクリートの上に、赤黒いシミが広がっていく。


「……ッ! ルーナ!」


「大丈夫か、おい!」


見るからにルーナは重傷だった。

何せ、身体を日本刀で突き刺されているのだ。


加えて、今のルーナの身体はネコのもので、体長はわずか30cmほど。

人間と同じ傷であっても、サイズの小さいルーナにとってはダメージが大きくなる。

急所は外れているとのことだが、危険な状態であることには変わりない。


リリィとデイジーは慌てて駆け寄ろうとしたが、それをローズが制止した。


「待って! 二人は周りを警戒してて! 私がルーナを治すから!」


「分かった」


「頼んだぜ、ローズ!」


ローズの言葉に従って、二人は周囲への警戒を続けた。


「リブ……お願い、行かないで……!」


ルーナは、すでに意識が朦朧としているようだ。

熱に浮かされたように、リブの名前を呼ぶものの、次第にその身体から力が抜けていくのが分かる。


ローズは、ルーナに手を翳した。

掌からピンク色の光がこぼれ出し、ルーナの小さな身体を包み込んでいく。


「待ってて、ルーナ! 今、治してあげるからね……!」


***


「はぁ……はぁ……!」


魔皇城の一角で、オリヴィアが荒く息を吐く。

魔法少女たちとの全力戦闘に加え、後半は瞬間移動(テレポート)ばかりか、身体機能にまで制限がかけられた状態で戦っていたのだ。無理やり身体を動かし続けていたせいで、彼女は疲弊していた。


それに加えて、終盤には結界に逆らって強引に瞬間移動(テレポート)を行った。

そのせいで魔力をほとんど使い果たし、リ・ヴァースまで撤退してくるのが精一杯、という有様だった。


肩で息をするオリヴィア。

そんな彼女の背後に、怪しげな影がチラついた。


オリヴィアが慌てて振り返る。

そこにいたのは、例の怪人……道化師(クラウン)だった。


「おーほっほ! おんやぁ? いつもの仮面はどうしたんですか〜?」


「……チッ! 道化師(クラウン)……!」


「素顔は素朴な感じなんですね〜! 可愛らしいですよ! おーほっほ!」


オリヴィアは顔を歪めると、道化師(クラウン)から顔を背けた。

そんな彼女に向かって、ピエロ姿の怪人は更なる言葉を投げかけた。


「【神託】に逆らって、単身でライト・ヴァースに乗り込んで行ったくせに、このザマですか〜?」


「……だまれ」


「せっかくルーナさんの解呪方法を教えてあげましたのに〜! 弱いですねぇ、オリヴィアさん!」


「だまれ!」


ヒュン、と空気を切り裂く音がする。

オリヴィアが抜刀し、道化師(クラウン)に切り掛かったのだ。


しかし、道化師(クラウン)はそれをひらりと躱した。


オリヴィアの攻撃速度は、ヴェリエス亡き今、魔導十姫の中でもトップレベルに近い。

疲弊しているとはいえ、そんな彼女の全力の攻撃を容易く回避する道化師(クラウン)は、やはり油断のならない相手だった。


「おーほっほ! 容赦ないですねぇ〜!」


「……くそ! 殺してやる!」


「おーほっほ! いいんですかぁ? 今日も、とっておきの情報を持ってきてあげましたのに〜!」


「ーーッ!?」


オリヴィアは歯軋りした。

この怪人の手のひらで踊らされているのは間違いない。


しかし、今の彼女には(あと)がなかった。

【神託】に背いたと知られれば、彼女は間違いなく粛清の対象になる。

そして、それを道化師(クラウン)が知っている以上、魔導四妃が知るのも時間の問題だ。


オリヴィアは、歯を食いしばるように言った。


「……分かった。教えて」


悔しそうなオリヴィアの顔を見て、道化師(クラウン)はニヤニヤと笑った。


「ルーナさんに掛けられた呪い、〈(モルス)〉。


 ……その解呪方法は、実は他にもあるのですよ〜!」


「ーーッ!?」


オリヴィアは息を呑んだ。

先日、道化師(クラウン)から(もたら)された情報を頼りに、彼女は魔法少女たちに戦いを挑んだ。


その情報とは、ルーナを死の呪いから救う方法。

そして、その方法は、ルーナを仮死状態にすることだった。


一度でも仮死状態にしてしまえば、〈(モルス)〉が誤作動を起こして停止する。

オリヴィアは、道化師(クラウン)からそのように聞かされた。


オリヴィアがライト・ヴァースに攻め入ったのは、ルーナを仮死状態にするためだったのだ。

そのためには、ルーナを本気で攻撃しなければならなかった。

彼女のことを刀で刺したのは、そのためだ。


幸い、相手サイドには回復魔法を使えるマギア・ローズがいる。

例え致命傷であっても、すぐに回復して貰えば問題なく復活できるはず。


そう目論んでのライト・ヴァース侵攻であったが、オリヴィアは失敗してしまった。


人質を早々に解放されてしまったのは誤算だったし、ルーナの移動阻害結界も想定外だった。

しかし、様々な障害を潜り抜け、オリヴィアはルーナに接近することに成功した。

実際、刀を突きつけるところまでは、上手く行ったのだ。


しかし、その瞬間が訪れたとき、オリヴィアは躊躇してしまった。

手元がわずかに狂い、ルーナの急所を外してしまったのである。


そのため、ルーナは重傷を負ったものの。状態としては中途半端なものになってしまった。

あの場にローズがいた以上、ルーナが命を落とすことはないだろう。

しかしあれでは、仮死状態になるかは怪しいところだ。


あの場で追撃すれば、ルーナにダメージを与えることはできたかもしれない。

しかし、その場合、今度こそルーナを(あや)めてしまうリスクがあった。

そのためオリヴィアは、撤退せざるを得なかった。



そもそも、ルーナを刺すという最悪の手段を取らざるを得なかったのは、「解呪方法は一つだ」と聞かされていたからだ。

【神託】に(そむ)き、粛清の対象になるリスクを負う羽目になったのは、(もと)はといえば、目の前の怪人のせいだとも言える。


その上、ここにきて「別の方法がある」などと抜かすとは……。


今すぐ目の前の道化師(コイツ)を切り捨ててやりたいという衝動に駆られるが、オリヴィアは耐えた。

彼女の目的のためには、今はまだ道化師(クラウン)が必要だった。


「おーほっほ! あの呪術は、第二席のモルガナさん、第三席のレイナさん、そして第十席のルーナさんによって共同開発されたものですよね?」


「……それが、どうしたの」


()()モルガナさんが、“自分を殺しうる術式”を他者が知っていると言う状況に、耐えられると思いますか〜?」


「……!」


「おーほっほ! 流石はオリヴィアさん、理解が早い! 

 モルガナさんは、あるアイテムを保有しています!

 ……〈(モルス)〉を解呪するためのアイテムを、ね!」


「……それは、どこにある?」


「おーほっほ! もちろん、モルガナさんの研究室にございますよ〜!」


なぜ道化師(クラウン)がそんなことを知っているのか。

そしてなぜ、それを自分に話すのか。


オリヴィアの頭の中で様々な疑問が渦巻くが、口をついて出たのは、別の質問だった。


「……どうすればいい?」


「おーほっほ! 分かっているくせに〜!」


「……私の能力(テレポート)では、あの研究室には入れない」


「そこは考えてありますとも! ……はい、どうぞ!」


道化師(クラウン)が差し出してきたのは、赤銅色のカードキーだった。

おそらく、モルガナの研究室に通じる鍵だろう。


オリヴィアはすぐには受け取らず、訝しげに道化師(クラウン)のことを見た。


……準備が良すぎる。


いくら道化師(クラウン)が序列外の影響力を持っていたとしても、あのモルガナが素直に鍵を渡すはずがない。

つまり、道化師(クラウン)は無断で研究室の鍵を盗み出してきたことになる。

モルガナがそこらへんに鍵を置いておくとは思えないから、間違いなく非合法な手段で手に入れたものだろう。


オリヴィアには、道化師(クラウン)が自分のためにそこまでする理由が思いつかなかった。


「……どういうつもり?」


「いや何、親愛なるご友人のオリヴィアさんの助けになりたくて〜」


「…………」


「おーほっほ! 信用されていませんねぇ! 


 ……では、少しだけ素直になりましょうか」


道化師(クラウン)の気配が変わった。

どこかふわふわとした芯のない雰囲気が、急にリアルなものへと変わる。

これまで存在しなかった幻影が、突如として実体化したかのようだった。


道化師(クラウン)の変化に息を呑むオリヴィアに対し、怪人は言った。


「その方が、()()()()()ですよ」


何を言われたのか理解できなかったオリヴィアが、呆然と問い返す。


「……は? それは、どう言う……」


「そのままの意味ですよ。貴女が離反した方が、物語が面白くなりそうだからです」


「お前……何を、言ってる……?」


混乱するオリヴィアに、道化師(クラウン)はニヤリと笑いかけた。


「意味は理解できなくて結構。取り敢えず、私は貴女の味方ですよ。……今のところは、ね」


「…………」


「おーほっほ! 余計に警戒されてしまいましたねぇ!

 鍵は、ここに置いていきますので、後はご自由に! ……それでは、アデュー!」


道化師(クラウン)が姿を消してからも、しばらくオリヴィアは動けずにいた。

道化師(クラウン)が見せた、濃密な狂気に当てられたためだ。


しかし、しばらくの後、オリヴィアは再び動き出した。

そして彼女は、床に落ちていたカードを拾い上げると、急いで駆け出すのだった。

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