第五十七話 再戦
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「なんということでしょうか! 先ほど、スクールバスがジャックされました!
現在は国道に停車しておりますが、中の様子はカーテンで隠されて見えません!
バスの中では、まだ二十人余りの子供たちが人質となっています!
また、犯人は……これ、本当なの?
……失礼しました!
犯人は、黒い仮面? を被った少女とのこと!」
いつもの女性キャスターが、カメラに向かって捲し立てる。
象怪人と魔法少女の戦闘を中継後、食事をとった後、自分たちの局に戻っている最中だったカメラクルーたちは、偶然、新たな事件に出会していた。
彼女たちの運が悪いか、はたまたテレビマンとして“持っている”のかは、賛否の分かれるところだろう。
「犯人の要求は未だ不明!
立てこもってから、なんの声明も出ていません!
単なる犯罪者なのか、はたまた昨今、世間を騒がせているリ・ヴァース勢力なのかは、未だ不明です!」
女性キャスターが実況する中、バスから一人の少女が降りてきた。
黒い仮面。
それに刻まれた怪しげな紋様は、泣いているようにも怒っているようにも見える。
全身を包む黒い装甲には、エメラルドグリーンのラインが走っている。
そして、腰に佩いた一本の刀。
「……こ、これは! ご覧ください!
止めたバスから、一人の少女が降りてきました!
黒い仮面を被った少女……! この人物が、バスジャックの犯人なのでしょうか!?
少女は、凶器を持っている模様! あれは……日本刀でしょうか!?」
カメラの先で、黒い仮面を被った少女は、そっと自らの喉に手を当てた。
すると、まるでマイク越しに喋っているかのように、声が大きくなった。
「私は、リ・ヴァース魔導十姫が第九席、オリヴィア・ユースティティア!
天導衞姫……魔法少女に、取引を申し込む!
即座にルーナ・ハイランダーを引き渡せ!
そうすれば、子供たちを解放してあげる!」
「……みなさん、お聞きになりましたでしょうか!?
仮面の少女はやはり、リ・ヴァース関係者でした!
犯人の要求は、ルーナさん……魔法少女の仲間である妖精を引き渡すこと!
魔法少女は、果たしてそれに応じるのでしょうか!?」
マイクに向かって声を張りあげる女性キャスター。
周囲には、遠巻きにではあるが、野次馬も集まっていた。
それらを興味なさげに眺めていた仮面の少女。
やがて、彼女は何かに気づいたかのように、ピクンと身体を震わせた。
「……きた」
オリヴィアがつぶやいた直後。
ゴオオッ! っと勢いよく地面から迫り出してきた氷壁が、オリヴィアとスクールバスを分断した。
「……マギア・リリィか」
数十mはある高さの、分厚い氷でできた壁。
それは、凍結術式を操るマギア・リリィの魔法に違いなかった。
オリヴィアは振り返って、氷壁を破壊しようと腰の刀に手を伸ばす。
「〈月楔十字〉!」
「……ルーナ」
しかし、彼女の身体は、淡く金色に輝く十字架によって、その場に縫い留められた。
ルーナの使用した拘束術式が、オリヴィアの動きを封じたのだ。
かつては、亀怪人を封殺した魔法。
しかし、その魔法も、オリヴィアの前では、わずかな時間稼ぎにしかならなかった。
「……むん!」
オリヴィアが、思い切り四肢に力を込める。
すると、光の十字架は一瞬で砕け散り、そのまま虚空に消えていった。
改めて氷壁を攻撃しようとするオリヴィア。
しかし……。
「ーーさせないから!」
「……むっ。マギア・ローズ!」
ゴガン! という轟音。
空中から放たれたローズの一撃を、オリヴィアが迎え撃ったのだ。
お互いの手甲がぶつかり合い、周辺の空気がビリビリと震えた。
ローズが、氷壁の向こう側に向かって叫ぶ。
「デイジー! 子供たちをよろしく!」
「おうよ! 任せとけ!」
ローズの言葉に、氷壁の向こうでデイジーが答える。
「……させなーーッ!?」
転移魔法を使用して氷壁の向こう側へ跳ぼうとしたオリヴィア。
しかし、いつの間にか、その足が氷によって地面に縫い止められていた。
オリヴィアが視線を向けたその先には、マギア・リリィの姿があった。
彼女が地面に触れている箇所から氷が広がっており、それがオリヴィアを物理的に拘束したのだ。
(……しまった!)
オリヴィアの転移術式は、目的地を直接目視しなくても瞬間移動できるというメリットがある一方、物理的に拘束されている場合は発動自体できない、というデメリットを持つ。
普段なら移動しにくいというだけのリリィの氷魔法も、この状況では厄介極まりない。
バキバキという音を立てながら、慌てて氷から足を引き抜くオリヴィア。
自由になった瞬間、デイジーの元へ瞬間移動するつもりだったが、ローズが放つ連撃に邪魔されて、転移術式を使用する暇がない。
その隙に、デイジーがスクールバスを持ち上げて飛翔し、現場から遠くへ運んでいった。
通りを曲がった向こう側にバスを抱えたデイジー消えていくのを、オリヴィアは歯噛みしながら見送るしかなかった。
「すごい! 流石は魔法少女! 見事なチームワークで、子供たちを救い出しました!」
ぴょんぴょんと飛び跳ねてはしゃぐ女性キャスター。
そんな彼女を尻目に、オリヴィアはローズを睨みつけた。
実際には仮面を被っているから素顔は見えていないが、ローズはそう感じた。
「……この! よくも人質を……!」
「そんな卑怯なこと、許さないんだから!」
「許さないのは、私のほう!」
オリヴィアは思い切り地面を蹴ると、ふわりと浮き上がった。
氷の束縛から逃れたオリヴィアは、ローズと同じ目線の高さまで上昇する。
獲物を逃したリリィが、小さく舌打ちした。
「ローズ……貴女と戦うのは、2度目」
「そうだね。……今度は逃がさないよ!」
「……それは、こちらのセリフ」
オリヴィアは、そういうと腰の刀を抜いた。
スラリと伸びた刀身が、わずかに陰ってきた太陽光を反射して、ぎらりと輝く。
それは狼の牙のように美しく、そして凶悪な輝きだった。
その怪しい気配に、ローズは思わずごくりと唾を飲み込んだ。
「……今度は、本気で行く」
オリヴィアがそういった瞬間、その姿がかき消えた。
(ーー瞬間移動!)
この瞬間、ローズはオリヴィアの姿を見失った。
しかし、ローズは焦らなかった。
ガキン!
オリヴィアが振り下ろした刀とローズの手甲が、火花を散らしてぶつかり合う。
視界のどこにもいないなら、死角に転移しているはずだと読んだローズが、見事に攻撃を防いだのだ。
「……やるね」
「2度目だもん! そう簡単には、喰らわないよ!」
「……なら、これはどう?」
再び、オリヴィアの姿が消滅した。
そして、ローズの視界の端に、彼女の姿が出現する。
(……左! ……違う、今度は右……!?)
左から右へ、右から左へ。
高速で入れ替わるその姿は、さながら忍者の分身のようだ。
瞬間移動を短いスパンで使用することで、オリヴィアは自身の所在を掴ませない。
高速で自身を左右にシャッフルしながら、オリヴィアがローズに迫った。
「ーー左っ!」
「……残念、はずれ」
オリヴィアが出現したのは、右でも左でもなく、ローズの後方だった。
無防備なローズの背後に向かって、オリヴィアが刀を振り下ろす。
もらった、とオリヴィアが考えたその時。
「ーーッ!?」
無数の氷の礫が、オリヴィアを襲った。
それぞれが流線型をした氷の弾丸は、まともに喰らえばそれなりのダメージになるだろう。
オリヴィアはローズへの攻撃を中止し、飛んでくる氷の礫を迎撃せざるを得なかった。
オリヴィアが向けた視線の先では、マギア・リリィが掌をこちらに向けて構えている。
その手の先からは、次々に氷の粒が生み出され、オリヴィアに向かって射出されていた。
(……しまった! リリィもいるんだった……!)
オリヴィアの近くにいたローズも、当然その射程範囲に入っていた。
しかし、ローズの周囲には金色のバリアが展開されており、氷の弾丸を阻んでいる。
おそらく、ルーナの結界魔法だろう。
厄介なコンビネーションに、思わず舌打ちが漏れるオリヴィア。
先に邪魔なリリィを片付けようと、その背後に向かって瞬間移動する。
「ーー!? しまっ……!」
「先に貴女から片付ける」
オリヴィアは、刀をリリィめがけて振り抜いた。
しかし、オリヴィアは自身の攻撃を、再び中断せざるを得なかった。
「ーーオラァ!」
「……チッ!」
オリヴィアの頭上から、黄色いドレスの少女が流星のように落下してきたのだ。
上空から現れたマギア・デイジーの拳を、オリヴィアは空中でバックステップして回避した。
「忘れんなよ! アタシもいるんだぜ!」
「……ありがとう、正直助かった」
「いいってことよ!」
「正直、私も忘れてた」
「なんでだよ!?」
リリィの言葉に目を剥くデイジー。
そこへ、ローズも加わった。
「からかっちゃダメだよ、リリィ……」
「からかってない。マジで忘れてた」
「なおさら悪いだろうが!」
漫才を繰り広げる三人のことを、忌々しげに睨んだオリヴィア。
彼女は改めて瞬間移動を使うと、魔法少女たちから距離をとった。
「……流石に手強い」
「えへへ……三人いれば、貴女なんて怖くないもん!」
にっこりと笑うローズを、リリィが嗜めた。
「ローズ、油断しすぎ」
そこへ、デイジーが大きな胸を張って言う。
「ローズのいうとおり! 三人よれば、もんじゃの杖だぜ!」
そんなデイジーを、ローズとリリィが呆れたように見た。
「デイジー、それをいうなら、文殊の知恵……」
「使い方も間違ってるし」
「う、うるせえな! 気合いが入りゃなんでもいいんだよ!」
ローズとリリィに同時に突っ込まれたデイジーは、顔を赤くして叫んだ。
「うるさいなぁ……」
わちゃわちゃと会話する魔法少女たちを、どこか呆れたようにオリヴィアがみた。
そして、刀をヒュンと軽く振ると、改めて正眼に構え直す。
「……そろそろ、行く」
気配が真剣なものに変化したオリヴィアを見て、魔法少女たちも背筋を正した。
「……来るみたい」
「私たちも行くよ」
「おうよ!」
ローズ、リリィ、デイジーが拳を構える。
「……それじゃ、第二ラウンド」
再び、オリヴィアと魔法少女たちが激突した。




