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僕は黒幕になりたい〜戦うヒロイン育成計画!〜  作者: 少林 拳


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第五十六話 ルーナの罪


「それにね。これは、私の犯した罪に対する、正当な報いでもあるの」


「報い……?」


和花は、伏せていた顔を上げた。

その泣き腫らした目を正面から見据えながら、ルーナは語りかけた。


「そうよ。さっきも言ったけど、私はライト・ヴァースの捕虜を管理していたわ。

 老若男女に関わらず、収容所で教育するの。


 ……奴隷として、ね」


「奴隷!?」


驚いて声を上げる和花。

この世界には、公的には既に奴隷という概念は存在しない。

少なくとも和花にとっては、教科書で習う歴史の一部でしかなかった。


「ええ、その通り。

 リ・ヴァースには、大勢の奴隷がいたわ。

 捕獲された人間は、有用な資源として利用されていたの。

 戦闘奴隷や愛玩奴隷……。

 もっとひどい場合は、食用や実験用の奴隷として」


「そんな……」


ショックを受けたような表情で、和花が絶句する。

それを見て、ルーナが自虐的に微笑んだ。


「……ふふ。ショックだったかしら?

 でも、本当に(おぞ)ましいのはこれからよ。


 奴隷の価値は、年齢や体格で決まったわ。

 特に好まれたのは健康な成人男性ね。

 戦闘用としても、実験体としても有用だったから。

 

 ……でも、特に重要だったのは、幼い子供たちよ」


「……なんで、幼い子共が重要なんだ?」


顔を思い切り顰めながら、美香が聞いた。

幼い妹を持つ彼女からしてみれば、他人事ではないのだろう。


そんな美香を見ながら、ルーナは決まり悪そうに言った。


「幼いうちから教育して、奴隷としての作法を叩き込むの。

 リ・ヴァースへの忠誠心をすり込んで、何でもいうことを聞く人形を生産する計画だった。

 もし失敗しても構わない。……彼女達の()()は、他にも色々とあったから」


「胸糞(わり)いな……」


嫌そうな表情を浮かべる美香。

そんな彼女をよそに、琴音はルーナに尋ねた。


「……ルーナは、それが嫌になって逃げ出したの?」


ルーナはしばらく黙っていたが、やがて口を開いた。


「……ええ、そうよ。

 最初は、何とも思わなかったわ。

 これもリ・ヴァースのためだって、信じていたから。

 でもね……子供達と接しているうちに、私の気持ちが変化してきたの」


「情が湧いたってこと?」


琴音の質問に、ルーナは目を伏せながら返答した。


「……その通りよ。

 全く、ちゃんちゃらおかしな話よね。

 奴隷を管理する立場の私が、奴隷に絆されるなんて……。


 ……でも、侵略者である私に対して、あの子たちは懐いてくれた。

 私が部屋に入るとね、一斉に寄ってくるのよ。

 あの子たちは、私に笑顔を向けてくれた。

 時には、ライト・ヴァースの遊びや、歌を教えてくれたりしたの。

 私が、あの子たちを“出荷”しようとしているとも知らないで……。

 ほんと、バカみたい。


 ……でも、一番バカだったのは、きっと私よね。


 いつの間にか、私はあの子たちのことを、大切に思うようになっていたわ。

 生まれて初めての感情だったから、戸惑ったものよ。


 この子達が将来どうなるかを想像すると、憂鬱になったわ。

 いずれは、奴隷として手放さなくちゃならないことも分かってた。

 でも、それまでは、幸せな生活をさせてあげようって、そう思ったの。

 

 ……でもね、ある日……それは終わったのよ」


「……何が起きたの?」


和花が、悲しそうな顔で尋ねた。


「……魔導十姫の第一席が、サンプルを寄越せ、って言ってきたの」


「……サンプル?」


恐々(こわごわ)と和花が問い返すと、ルーナは答えた。

その表情は、悲しみと苦悩に満ちていた。


「そう、サンプル。

 アイツは魔導実験が趣味の、狂ったやつだった。

 その時は、捕虜を使った実験に凝っていたわ。

 つまり、人体実験のための被験体が欲しかったのね」


「人体実験……」


「私も必死に抵抗したわ。色々と理由をつけて、引き渡すのを拒もうとした。

 でも、私の権力では、抗いきれなかった。


 ……結局、子どもを一人、引き渡すことになったわ」


ルーナは、くしゃりと顔を歪めた。


「最年長の子だった。

 私にいちばん懐いていた子よ。

 自分から、『私が行くから、安心して』って……。

 リブって名前の、女の子だったわ。

 まだ9つになったばかりの……」


ルーナは、震える声で言葉を紡いだ。


「その時は、なんとか自分を納得させようと思ったわ。

 これは任務なんだ、リ・ヴァース繁栄のための使命なんだ、って……。


 でも、できなかった。


 ずっと、リブの顔が脳裏にチラつくの。

 あの子の笑顔や、翡翠のような緑の目が、頭から離れなかった。


 笑っちゃうわよね。

 これまで、大人は何人も奴隷として送り出してきたっていうのに。

 偽善もいいところだわ。

 

 この時、ようやく私は気付いたのよ。


 こんなこと、間違っているって。

 もう、終わりにしなきゃって……。

 そう思ったの。


 それから5年かけて、私は脱走計画を練った。

 魔皇陛下に直訴して、奴隷の供給も一時的にストップさせたわ。

 奴隷の教育に専念したい、5年後にその成果をお見せしますって言ってね。

 あっさり許可が降りたのには驚いたけど、好都合だった。

 

 そして、1年前、私はリ・ヴァースを抜けたの」


和花も、琴音も、美香も、ルーナの話に聞き入っていた。

彼女達の顔は、苦しそうで、そして悲しそうだった。


しかし、最も苦悩に満ちた表情を浮かべていたのは、ルーナ本人だった。


「この世界に逃げてくる時に、捕まっていた奴隷たちは全て解放したわ。

 壊す前の転移隧道(ワープトンネル)を使って、

 攫ってきた場所から、そう遠くない場所に転移させたの。

 あの子たちとも、それが最後だったわ。

 きっと、うまくやっているはずよ。


 奴隷を収容していた施設も破壊してやったわ。

 ついでに、実験設備や材料の保管庫も燃やし尽くしてやった。

 もう2度と、奴隷を産業にしようなんて考えられなくなるくらい、徹底的に……。


 ……でも、こんなことで私の罪が消えるわけじゃない。


 消えていいはずがないのよ。

 

 だから、この“死の呪い”は、むしろ当然の罰なの。

 私が死に追いやってきた人々の苦しみは、私自身が背負うつもりよ。


 心残りなのは、貴女たちを残して死ぬことだけど……。

 新しく仲間(ミカ)も加わって、安定感が出てきたわ。

 この三人なら、きっと大丈夫。 

 

 私は、自らの死を持って、奴隷たち……そして、あの子(リブ)に謝罪する。

 これが、私なりの贖罪よ」


ルーナの話が終わってからも、誰一人として口をひらこうとしなかった。

沈黙に耐えかねたように、ルーナは慌てて口を開く。

 

「つ、つまりね! 貴女たちが悲しむ必要は、全くないのよ! だから……」


「ーーばか!」


ぺち、という音が琴音の部屋に響いた。

和花が、ルーナの頬を張ったのだ。


それは、はっきり言って、へなちょこな一撃だった。

しかし同時に、ルーナの目を覚ますには十分な一撃だった。


驚いたように、ルーナが和花のことを見上げる。

そんな彼女に向かって、和花は涙を流しながら叫んだ。


「ルーナのばか! どうして、そんなこと言うの!?」


「だ、だって! 私が死んでも、誰も……」


「ーー私が悲しむもん!」


「……えっ?」


ポカンとした顔で、ルーナは和花のことを見た。


「私、ルーナが死んじゃったら悲しいよ! だって……だってルーナは、私の大事な友達だもん!」


「ノドカ……」


ルーナは、ひどく驚いていた。


「自分が死んだら悲しい」と言う言葉を、彼女は生まれて初めて耳にした。

それほどまでに彼女のことを思い遣ってくれる存在は、これまでいなかった。

実際、もしまだ彼女がリ・ヴァースにいたならば、絶時に聞くことのない言葉だっただろう。


しかし同時に、納得してもいた。


彼女がどんなに良い子か、ルーナは知っている。

和花とこれまで一緒に過ごしてきた思い出は、紛れもない本物だ。


だからこそ、和花の言葉は、ストンとルーナの胸に落ちてきた。

素直に、「ああ、自分は大切に思われているんだな」と納得できた。


ルーナの目に、じわりと涙が浮かぶ。

和花の頬にも、溢れ出た涙が伝った。



「……そういうことなら、私も悲しいかな。折角、友達になれたんだから」


「おいおい、アタシだけ除け者にすんなよな。 もちろん、アタシも悲しいぜ!」


「コトネ……! ミカ……!」


ルーナが潤んだ目で二人のことを見上げる。

琴音が微笑し、美香はニッと笑った。


和花は堪えきれなくなたのか、ルーナにガバッと縋りついた。


「……大好きだよ! ルーナ、大好き!」


和花が泣きながら、ルーナのことをギュッと抱きしめた。

ルーナもまた、小さな前足で、そっと和花の頭を抱え込む。


そこへ、琴音と美香も加わった。


四人は、しばらくそうやって、団子になって固まっていた。


***


ルーナは、少し恥ずかしそうに目をこすると、三人のことを見上げた。


「……私は、良い友人を持ったわ。

 それだけでも、リ・ヴァースを抜けた意味があったと思える。


 ありがとう、ノドカ。


 コトネに、ミカも。


 私、死ぬのが少し嫌になったわ。


 ……ううん、きっと違うわね。


 私は、生きたい。

 貴女たちと一緒に、生きたいわ」


ルーナの言葉に、和花はしっかりと頷いてみせた。


「うん! ルーナのことは、死なせないよ。絶対、助けて見せるから!」


「ありがとう、ノドカ。

 私……嬉しいわ。

 死にかけてるのに、なんだか変よね。

 でも……」


ルーナは笑った。

先ほどまでの、自虐的で、自暴自棄な笑い方ではない。

喜びと嬉しさに彩られた、心からの笑顔だ。


「……貴女たちと出会えて、私は幸せよ!」


先ほどと同じ言葉。

だが、そこに籠っている感情は、先ほどとは全く違っている。

それは、純粋な喜びだった。

生きるということへの喜び。


ルーナの「死ななくてはならない」という強い思い込みが、完全に払拭された瞬間だった。


四人は、お互いに顔を見合わせて、微笑みあった。



その時だった。


ルーナがピクンと反応する。

そして、パッと顔をあげ、慌てたようにある方向へと視線を向けた。


「……これは……敵よ!」


「はあ!? さっき象のバケモンを倒したばっかだぜ!?」


驚いたように叫ぶ美香。

ふんふんと空気を嗅いでいたルーナは、大きな声を上げた。


「これは……反応が大きいわ! さっきのやつ(スローン)とは、比べ物にならない!」


「……これまでの敵とは違う、ってこと?」


琴音の質問に、頷くルーナ。

やがてルーナは、何かを感じ取ったのか、大きく目を見開いた。


「……ちょっと待って。もしかして、この魔力反応は……!」


「知ってる人!?」


和花の問いに、ルーナは答える。


「ノドカは一度、戦ったことのある相手よ。

 黒い仮面をつけた、【刀】を冠する魔導十姫の一人……」


和花の脳裏に、ある人物の姿が閃く。


「……間違いないわ。オリヴィアよ!」

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