第五十一話 インタビュー
象怪人の巨体が上空に打ち上げられて、爆発四散する。
轟音が港区の住宅街に響き、窓ガラスがビリビリと揺れた。
「勝ちました! やったやった! 流石は魔法少女です!」
女性キャスターがぴょんぴょん飛び跳ねる。
カメラクルーたちも、嬉しそうにお互いの肩を叩き合った。
彼らを守っていたマギア・リリィとルーナも、ホッと身体から力を抜く。
「へっ……汚ねぇ花火だぜ!」
「……それ、有名な漫画のセリフだよね? パクっちゃダメだよ……」
スローンを撃破した黄色い魔法少女とマギア・ローズ。
二人は、ふわふわ浮遊しながら、カメラクルーたちの方へ向かってきた。
そして、リリィやルーナと合流する。
「みんなを守ってくれてありがとう、リリィ、ルーナ!」
「私は大したことしてないよ」
「私はちょっと疲れたわ」
ローズがリリィとルーナを労う。
そこへ、黄色い魔法少女が割り込んだ。
「なぁ、早く帰ろうぜ! 腹へったんだよ。リリィ、なんか用意しといてくれ」
「……デイジーに食べさせるようなものは、家にない」
「なんでだよ!?」
驚いたように叫ぶ黄色の魔法少女。
それを見て、ローズも甘えたようにリリィに言った。
「リリィ、私もお腹すいちゃった……」
「……仕方ないね。クッキーでも焼こうか」
「わーい!」
「アタシと対応が違いすぎんぞコラ!」
わちゃわちゃしながら、帰ろうとする4名。
それを見て、女性キャスターが必死な形相で引き留めた。
「待って! ちょっと待ってください!」
「なんだよ?」
不機嫌そうな黄色の魔法少女。
しかし、女性キャスターはめげずに話しかけた。
「少しだけ! 少しだけインタビューさせてください!」
「疲れてるんだっての」
「まぁまぁ……少しだけならいいじゃん。ね?」
あまりに必死な女性キャスターの様子に、ローズが気の毒そうな表情を浮かべて、そう言った。
「……まぁ、ローズがそう言うならいいけどよ」
「リリィとルーナも、ちょっとだけ!」
「……ローズがそう言うなら」
「まぁ、ニンゲンたちにも少しは情報共有しないといけないしね」
ローズの言葉に、黄色の魔法少女も、残りの二人も、インタビューを受けることを承諾した。
「ありがとうございます! ……まずは、守っていただき、ありがとうございました!」
女性キャスターの言葉に続いて、カメラクルーたちも一斉に頭を下げる。
それを見て、慌ててローズが手を振った。
「いいんですよ、別に!」
「それでも、きちんとお礼を言わせてください!」
「わかりましたから!」
「改めて、ありがとうございました! ……それではインタビューにまいります!」
女性キャスターのあまりの切替の速さに、ローズが目をパチクリさせる。
そんなローズのことを置いてけぼりにして、女性キャスターは言った。
「こちらは港区、芝浦付近です! 本日、象の怪物、スローンを倒した魔法少女たちに、インタビューを行います! よろしくお願いします!」
「ええと……よろしくお願いします……」
女性キャスターの勢いに押され気味のローズは、少し戸惑った様子である。
しかし、女性キャスターは元気よく質問を続けた。
「まずは、自己紹介をお願いします!」
「私は、マギア・ローズ!」
「ルーナ・ハイランダーよ」
「……マギア・リリィ」
「アタシは、マギア・デイジーだ」
「黄色の貴女は、マギア・デイジーというんですね! 新メンバーと言うことでいいのでしょうか?」
「おう、今日がデビュー戦だぜ」
「なんと! デビュー戦で敵を撃破したのですか! それはすごいですね!」
「ああ……まぁな」
照れくさそうに頭をかくデイジー。
そんな彼女に向けて、女性キャスターが質問を続ける。
「デイジーさんは、どこでローズさんやリリィさんとお知り合いに?」
「ああん? そりゃあ単なるクラス……あだっ!? 何すんだよ!?」
いきなり頭を引っ叩いたリリィに、食ってかかるデイジー。
それに対して、リリィは呆れたように言った。
「そんなことをホイホイ喋ってたら、正体がバレるでしょうが。
……すみませんけど、私たちのプライベートの質問はナシで。
それが無理なら、インタビューは……」
「わーっ!? 大丈夫です! プライベートにはこれ以上、踏み込みませんから!」
慌てる女性キャスター。
キャスターとして貴重なインタビューの機会を棒にふるつもりはなかった。
それに彼女としても、魔法少女たちの正体を暴いてやろうなどとは考えていなかった。
たまたま、質問の流れでそうなってしまっただけなのだ。
女性キャスターは気を取り直して、質問を続けた。
「おほん! それでは、質問を続けます!
……まずは、さっきの敵が喋っていた、天導衞姫とはなんでしょうか?」
「私たち魔法少女のことを、リ・ヴァースはそう呼ぶんです」
ローズの回答に、女性キャスターは更に食いついた。
「魔法少女と天導衞姫は同じものなのですね。それでは、魔法少女とは? 一体なんでしょう?」
「魔法少女は……えっと……」
「ライト・ヴァースを衛るための天から遣わされた使徒よ。この世界を防衛する最後の砦ね」
困った様子のローズに代わって回答したのは、その肩に乗っていたルーナだった。
女性キャスターは、ルーナにマイクを向けた。
「ライト・ヴァースとは?」
「この世界のことよ。リ・ヴァースは、この世界を侵略するつもりなの」
「そうなのですね。……それで、ルーナさんは……その。一体……?」
女性キャスターは、ルーナの存在にも興味津々の様子だった。
無理もないだろう。
光るネコというだけでも珍しいのに、それが人語を話すとなれば、気になっても仕方ない。
しかし、その質問はどこか歯切れが悪い。
「お前の正体は何なのか」とは聞きにくいだろうから、仕方ないかもしれないが。
そんな様子を気にすることもなく、ルーナは回答した。
「私は魔族よ。リ・ヴァースから逃げてきたの。脱走兵みたいなものね」
「魔族? 魔族とは、何なのですか?」
「リ・ヴァースの住人よ。悪魔族、獣魔族、妖魔族、その他大勢から構成される種族なの」
「ルーナは妖精さんなの! ね、ルーナ」
「まぁ、そうね。分類上は妖精、妖魔の類かしら」
女性キャスターは色々と一気に情報を与えられ、わずかに混乱した様子だった。
しかし、彼女特有の切替の速さを発揮して、更に質問を重ねる。
「なるほど、そうなのですね。それでは……リ・ヴァースとは、なんなのですか? 電波ジャックの際に、あのピエロの怪人もそう言ってましたが……」
「リ・ヴァースは……なんていうか……」
「リ・ヴァースは、もう一つの世界を指す言葉です。
奴らは、こちら側の世界を侵略しようとしているのです」
回答に苦慮している様子のローズを見かねて、代わりにリリィが言葉を紡いだ。
その回答に、女性キャスターは驚いたように言う。
「もう一つの世界!? それは、いわゆる異世界というものですか!?」
「そう考えてもらって結構です」
「そこが、なぜこちらに攻めてくるのですか? 新宿戦の時の転移装置や、あれだけの戦力がありながら……」
「向こうの世界は、すでに滅びかかっているそうです。
より暮らしやすい世界に移住するつもりのようですね」
「それは……この世界に受け入れてあげるわけにはいかないのでしょうか?」
その言葉に対して、ルーナが反応した。
「無理よ。奴らはニンゲンとは違うの。さっきのヤツを見たでしょう? 人のことを、何の躊躇いもなく踏み潰そうとしていたわ。あんな奴らと共生できるの?」
「……ですが、ルーナさんも魔族なのですよね?」
「それは……」
ルーナは言葉に詰まった。
それを見て、リリィが助け舟を出す。
「……彼女は特別だって思ってもらえればいいです」
「……そうなのですね。それでは、質問を変えます!」
リリィやルーナの表情から、この質問への深入りを避けた女性キャスター。
彼女は、インタビューを別の質問へとシフトチェンジさせようとした。
しかし、そこに乱入者が現れた。
「マギア・ローズ! お前のせいで死にかけたじゃん!」
「そーだそーだ! いしゃりょー払え!」
それは、ローズが助けた二人組だった。
「い、慰謝料!? どうして!?」
驚くローズ。
しかし、二人組は口々に喚いた。
「お前が早く来なかったから、死にかけたじゃねーか!」
「もっと早く助ければよかったんだし!」
「そんなぁ……」
ローズは眉をハの字にして、今にも泣き出しそうな声を出す。
それを見て、リリィが目を極寒の視線を二人組に向けた。
何か言ってやろうと、ずいと前に出る。
しかし、それよりも早く、デイジーがブチギレた。
「ああん!? 文句あんのか、テメエら!」
身体の大きなデイジーに凄まれ、二人組はわずかに萎縮した。
「な、何だよ! 魔法少女サマが俺たちを脅そうってのか!?」
「マギア・ローズがいるから怪物が出たんじゃん!」
「何様のつもりだよ! テメエらを助けたのはローズだろうが! コイツがいなかったら、てめーらぺちゃんこだったんだぞ! それを早く助けろだ!? 慰謝料だ!? ふざけたこと抜かしてんなよコラァ!」
「だから、もっと早く来ていれば、こんなことには……」
「そもそもテメエらがノコノコこんなとこまで来てんのが悪いんだろ! 助けて欲しかったのか、助けて欲しくなかったのか、どっちなんだよコラ!」
「助けるのなんて、当たり前……」
「じゃあ先にお礼を言うのがスジってもんだろうが! 違うか!」
「まぁまぁ、デイジー。ちょっと落ち着いて……」
「……ローズ、お前、ちょっとお人よしすぎるぜ?」
デイジーの剣幕に、なぜか非難されている側のローズが仲裁に入った。
ローズは、少し寂しそうに言った。
「確かに、もっと早く来ていれば、怖い思いをせずに済んだかもね」
「全部お前のせいだし!」
「そーだそーだ! 日本から出てけ!」
口汚く喚く二人組。
しかしローズは、二人のことを見据えると、キッパリと言った。
「でもね、私は後悔なんてしてないよ。この力を手に入れたその日から、みんなを助けるって決めたんだもん。
……大丈夫だよ。あなたたちのことも、守ってあげるから」
正面から、目を見て告げられた言葉に、さしもの二人組も言葉を失ったようだった。
しかし、気圧されたのを恥じるかのように、再び罵り始める。
否、マギア・ローズのことを、罵ろうとした。
「本当は怖かったです! ……!?」
「金目当てでそう言いました! ……!?」
言おうとしていた言葉が口から出なかったことに、驚く二人組。
そんな二人組に対し、ふんと息を吐いたルーナが言った。
「精神干渉魔法、〈正直〉よ。アンタたちは、術式の効力が切れるまで、本当のことしか話せないわ」
「……!? 実は脱税してます! ……こ、こんなこと……事実です!」
「……!? 実はクスリやってます! ち、ちが……本当です!」
話せば話すほど、二人の口からは意に沿わぬことが語られる。
二人は、口を押さえると、大慌てでその場から逃げ出した。
その様子を見て、デイジーがゲラゲラ笑う。
リリィも、いい気味だとばかりに微かに笑っていた。
逆にローズは憤慨した様子で、ルーナに詰め寄った。
「ちょっと、ルーナ! やりすぎ! 解除してあげて!」
「安心しなさい。半日で効果は切れるわ」
「そういう問題じゃないよ!」
「大丈夫よ。……ほら、帰るわよ。私もお腹が空いたわ」
「帰るよ、ローズ」
「ローズ、帰るぜ」
「ちょ、ちょっと、みんな! 待ってぇ!」
慌てて、皆の後に続いて飛翔するローズ。
その様子を、インタビューを打ち切られた形の女性キャスターたちは、呆然と見送るのだった。




