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僕は黒幕になりたい〜戦うヒロイン育成計画!〜  作者: 少林 拳


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第五十話 暴撃のスローン


ズシン、ズシンという轟音。


()()()が歩くたび、人々が、建物が、地面がグラグラと揺れる。


一歩踏み出すたびに道路が陥没し、自動車が踏み潰され、信号機や電柱が薙ぎ倒される。

人々が逃げ惑う中、そいつは悠々と歩みを進めていた。


ここ港区には、建物や人間が多い。

築地周辺に出現したそいつは、より被害の大きくなる場所を目指して進撃しているようだった。


10mを超える巨体。

分厚いグレーの皮膚と脂肪の層によって見えにくいが、盛り上がった筋肉からして、かなり逞しい体つきだ。

長く力強さを感じさせる鼻が、歩くたびにゆらゆらと揺れている。

その口からは、長大な2本の牙がニョッキリと覗いていた。


そいつを地球上に存在する生き物に例えるとすれば、明らかに象だった。

2本足で歩く、巨大な象の怪物だ。


「怪物が出現しました! 場所は港区、芝浦付近です! 近隣の皆様はすぐに避難をお願いします!」


いつもの女性レポーターが、カメラに向かって叫んでいる。

場所は怪物の後方だ。

かなり危険なポジションであるが、カメラクルー一行は決死の覚悟で着いていっている。

幸い、象の怪物が後方を気にしていないため、キャスターたちは被害を受けてはいなかった。

怪物が歩くたびに地面が揺れるため、かなり歩きにくそうではあったが。


突然、象の怪物が立ち止まって、大声で叫んだ。

まるで割れ鐘のような、悍ましい濁声である。


「吾輩はァ、暴撃のォ、スローンなりィ! 天導衞姫ィ! 出てこおォい!」


象の怪物(スローン)は大きく足を踏み鳴らすと、再び歩き出した。


「……この暴撃のスローンなる怪物は、どうやら誰かを呼んでいる様子です! 天導衞姫と言うのは、魔法少女のことでしょうか? 彼女たちが出てくるまで、怪物は進撃を続けると思われます!」


女性レポーターが、スローンの言動を視聴者向けに解説しながら、その後をついていく。


既にこの周辺には、スローンとカメラクルー一行しか残ってはいない。

そのはずだった。


「ウェーイ! ウェイウェイTVのチャラ男と!」


「チャラ子でーす! 怪物に逆凸かましてみた! いきまーす!」


いかにもチャラチャラした男女二人組が現れ、カメラをスローンに向けた。

それなりに距離を取ってはいるが、危険であることに変わりはない。


「ちょっ!? そこの貴方たち! ここは危険です! 今すぐ避難を!」


女性キャスターが叫ぶが、二人組は意にも介さない。

それどころか、女性キャスターを小馬鹿にした様子で、自身のスマホに向かって話しかける。


「なんかオバサンが叫んでっけどぉ、気にしませーん!」


「ほーどーの自由ってやつ? ウチらにもあるっしょ! キャハハ!」


「オッ、オバ……!?」


絶句する女性キャスター。


女性キャスターの年齢は、ここでは敢えて非公開とする。

しかし、すこーしばかり「オバサン」という言葉が気になりだすお年頃であることに変わりはなかった。


「ウェイウェイウェイ! そんじゃ、インタビューかましまーす!」


「おーい、そこのゾウさん!」


女性キャスターが絶句している間に、二人組はスローンの足元にまで接近していた。


「むゥ!? なんだァ、お前たちはァ!?」


足元に走り寄ってきた二人組をみて、スローンの足が止まる。


「おっ、コミュニケーション取れそうじゃね?」


「いーじゃんいーじゃん! ゾウさん、貴方はどこからきたのー?」


怖いもの知らずなのか、単なるバカなのか。

二人組は、恐れずスローンに話しかけた。


意外にも、スローンは二人組の言葉に返答した。


「吾輩はァ、リ・ヴァースの戦士ィ! 魔導十姫が一人にしてェ、今は亡きヴェリエス様のォ、第一の(しもべ)よォ!」


「あー? なんかムズいこと言ってんな?」


「もーいーや。じゃ、貴方の目的はー? 何しにきたのー?」


「無論、吾輩の目的はァ、天導衞姫を始末することよォ!」


「うっわ、声うるせー!」


「てんどーえーき? ってなんですかー?」


「知れたことォ! 当然、マギア・ローズどものことよォ!」


スローンの言うことを聞いて、二人組は色めき立つ。

口々に、勝手なことを叫び始めた。


「ってことは、やっぱマギア・ローズのせいじゃね!?」


「やっぱり! ……マギア・ローズがいるから、東京で暴れるんですかー?」


「むゥ!? そうともォ、言えるゥ!」


「やっぱりやっぱり!」


「ってことで、マギア・ローズを東京から……いや、日本から追い出しましょー!」


二人組が、好き勝手に叫ぶ。

それを驚いたように見下ろしたスローンは、どこか呆れたように言った。


「むゥゥ!? ヒトとはァ、実に愚かであるなァ!?」


「なんでなんでー? マギア・ローズのせいなんでしょー?」


「ウチらセンソウハンタイだし! ブリョクのホーキってやつじゃね?」


「自らの盾をォ、(うと)む馬鹿がおるかァ!?」


「はー? 何言っちゃってんのー?」


「なに言ってっか分かんないんだけどー?」


喚く二人組を見下し、スローンはその大きな鼻から、フンと大きく息を吐いた。


「もう()いィ! それではァ、吾輩は先を急ぐゆえェ!」


「はー? 勝手にどっか行くなし!」


「そーだ、そーだ! ほーどーの自由のシンガイってやつだし!」


「……心配いらぬゥ! ここでまとめて、踏み潰してやるがゆえェ!」


大声で叫ぶが早いが、スローンは大きく足を持ち上げた。


「……は? そんなことできるわけなくね?」


「サツジンミスイってやつじゃね? ようつべに晒してやるかんな!?」


「それではァ! さらばだァ!」


「危ない!」


遠方から様子を見守っていた女性キャスターが叫ぶ。


しかし、状況は好転しなかった。

ブウン! という空気を切り裂く音と共に、スローンが足を踏み下ろした。

その様子を、逃げる様子もなく、呆然と見ている二人組。


10mを超える怪物の体重が乗った一撃。

通常の歩行ですら、建物や自動車が踏み潰されたのだ。

そんなものを食らえば、ただの人間である二人組など、ひとたまりもなくぺちゃんこになるだろう。


しかし、そうはならなかった。


力任せに振り下ろされた足が、ズドン!と言う音と共に停止したのだ。


「セーフ! 間に合ったよ!」


そこにいたのは、ローズピンクのドレスを身に纏った少女。


マギア・ローズが、スローンの足を受け止めていたのである。

飛行魔法で飛んできたローズが、ギリギリのところで割り込んだおかげで、二人組は潰されずに済んだ。


「……ご覧ください! マギア・ローズが! マギア・ローズが来てくれました! クゥゥ! やっぱりローズなんだよなぁ! そこに痺れる! 憧れるぅ!」


興奮した様子の女性キャスター。

カメラクルーたちも興奮を隠せない様子で、文字通り必死に撮影を続けている。


そこへ、一人と一匹が空中をふわふわと飛行しながら現れた。

濃い水色のドレスを纏った少女と、ほのかな燐光を放つネコである。


「マギア・リリィに、妖精ルーナ! チーム魔法少女、勢揃いだぁ!」


「……〈凍結(フリーズ)〉」


「〈捕縛光鎖(バインドチェーン)〉!」


鼻息の荒い女性キャスターに構うことなく、マギア・リリィと、その肩に乗るルーナが術式を放った。

スローンの巨体を、氷と光の鎖が縛り上げていく。


「ぬゥゥゥ!? こんなものォ!」


しかし、スローンが身体を大きく揺すると、氷はバリンと音を立てて砕け、光の鎖も千切れとんだ。


「……身体が大きすぎる」


「縛りきれないわ!」


スローンの身長は10mを超える。

そこから繰り出されるパワーは、対人用のルーナの術式を容易に振り解いてみせた。

それに加えて、彼は分厚い皮膚と脂肪の層によって守られている。

そのため、リリィの凍結術式が身体の芯まで浸透しないのだ。


勝ち誇った様子で、スローンは足元のローズに向かって叫んだ。


「このままァ、踏み潰してやるぞォ!」


「ぐぐぐ……!」


マギア・ローズにかかる負荷が増し、その身体がわずかに後退する。


しかし、ここで回避するわけにはいかなかった。

なぜなら、彼女の背後には、例の二人組が腰を抜かしてへたり込んでいるのだ。

ここで逃げれば、二人組がぺちゃんこになってしまう。


しかし、ここに飛び込んできた新たな戦乙女(ヒロイン)が、この苦境をうち破った。


「……させるかよォ! オラァ!」


「グホォ!?」


空中から飛来した、黄色のドレスを纏った少女。

その少女が、ローズを踏み潰さんとしているスローンをぶん殴ったのだ。


100t近くあるスローンの巨体が、黄色い少女のパンチでわずかに浮き上がる。

その隙に、ローズは背後の二人組を抱え上げ、避難させることができた。


「ええええええ!? ここに来て、新メンバー!? 今度の魔法少女は黄色! 黄色です!」


ローズは、少し遠くから興奮した様子で実況を続けている女性キャスターの元までふわふわと飛んでいくと、腰を抜かしたままの二人組を預けた。


「この人たちをお願いします!」


「任されました! 頑張れマギア・ローズ!」


「えへへ、ありがとう!」


マギア・ローズはにっこり笑うと、ギュンとスローン目掛けて飛んで行った。


そして、その勢いのまま、スローン目掛けてパンチを繰り出す。


「おりゃあ!」


「グハァ!?」


頭部にパンチが命中し、スローンはたたらを踏む。

やがて、フラついたスローンは、近くの建物に向かって倒れ込んだ。


「あぶねえ!」


「ブホォ!?」


それを防いだのは、黄色の魔法少女だった。

倒れ込むスローンを下から打ち上げる形でパンチを放ち、怪物を道路側に押し戻した。


「気をつけろよローズ! コイツでかいんだからよ!」


「うわわっ! ごめんね、デイジー!」


そんなふうに会話をしながらも、二人はスローンに攻撃を仕掛け続けている。

スローンは攻撃を防ごうと腕を振り回しているが、リリィとルーナが凍結術式や拘束術式を同時に放ち、それを妨害しているため、上手く動けていないようだ。


「……せーの!」


「オラァ!」


やがて、ローズのパンチと黄色の魔法少女の拳が、同時にスローンの牙を叩き折った。


「ぐおおおおォ!? 貴様らァ! 許さんぞォ!」


激昂したスローンは、その長い鼻を使って、猛烈な勢いで空気を吸い込み始めた。

周囲に暴風が吹き荒れ、周囲にある家の屋根や自動車が宙を舞う。


「うわわっ! リリィ、ルーナ! カメラさんたちを守って!」


「分かった」


「分かったわ!」


ローズの言葉に、素早く対応する2名。

ルーナが結界を張り、リリィがその周囲で飛んでくる物体を撃ち落とした。


「デイジーも、自分の身を守って!」


ローズは電柱に捕まりながら、必死な様子で叫んだ。

しかし、当の魔法少女は、逆に生き生きとした様子で叫び返す。


「これは逆にチャンスだぜ!」


「デイジー!?」


驚くローズをよそに、黄色の魔法少女はギュンと飛び出した。

周囲のものを吸い込むスローンの息をも利用して、凄まじい勢いで飛行する。


やがて、黄色のエネルギーが、彼女の拳に集まり始めた。

鮮やかな黄色の光が収束し、その輝きを増していく。


黄の鉄拳(トパーズ・ナックル)!!」


「ブホォォォォ!?」


黄色に輝く拳が、スローンを直撃した。

魔法少女のパンチで吹き飛ばされたスローンは、その重量をまるで感じさせることなく、凄まじい勢いで空中に打ち上げられる。


ぐんぐん高度を増していくスローンの巨体。

やがて、街から数百m上空のところで、スローンが爆発した。


ズドンと言う轟音と共に、スローンは無数の粒子となって爆散した。



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