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僕は黒幕になりたい〜戦うヒロイン育成計画!〜  作者: 少林 拳


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第四十六話 甲殻のトルトゥーガ


「ねーね! こっち!」


「おーし、待ってろ!」


「ちいさいねーねも、はやく!」


「ちょっ! 美奈ちゃん、待ってぇ!」


その日、和花は、美香と、彼女の妹である美奈と一緒に、公園に出かけているところだった。

休日なので、二人とも制服ではなく、ラフな私服姿である。


まだ幼いのに、美奈は元気いっぱいだ。

麗らかな日差しの公園を、小さい足を目一杯動かして走り回っている。


その様子を慈愛に満ちた表情で眺めながら、美香は言った。


「……ありがとな」


「……何が?」


唐突な美香の言葉に、和花はきょとんと首を傾げた。

それを見て、ガリガリと頭をかく美香。

その様子は、どことなく照れくさそうだ。


「いや……こうやって、みぃと一緒に遊んでくれることが……さ」


「私も楽しいよ?」


「最初は……結構無理やりだったからよ。その後も、こうして遊んでくれるのが嬉しいんだ」


「まぁ、最初は強引だったけど……全然嫌じゃないよ。美奈ちゃん、いい子だし!」


「それでも、だ。……みぃがあんなに楽しそうなのは、お前のお陰だ。礼を言わせてくれ」


「そんな、お礼なんて別にいいよ! 友だちのためだもん! 気にしないで!」


和花の言葉に、美香が目を瞬かせる。


「友だちって……アタシのことか?」


それを聞いた和花は、不思議そうな顔をする。


「そうだよ? 美香ちゃんは、私のお友だち!」


美香は、その鋭い目を、大きく見開いた。

和花の言葉に、かなり驚いたようだった。


「友だち……」


「……違うの?」


しょんぼりと肩を落とす和花を見て、美香は慌てたように言った。


「ばっ、ばかやろ! ダチに決まってるじゃねえか! うん! アタシと和花はマブダチだ!」


「そうだよね!」


和花がにっこりと笑う。

その頭上で、ルーナが「またコトネの機嫌が悪くなるわ」と呆れたように呟く。




その時だった。


ドガン! と言う轟音と共に、公園に何かが降ってきた。

もうもうと砂煙が立ち込め、公園で遊んでいた子供達が悲鳴をあげる。


煙が晴れると、そこから現れたのは、巨大な怪物だった。

体調は2mを超えており、全身が鱗のような鎧に包まれている。

緑色の甲羅は、まるで鉄板のように分厚い。

鋭い(くちばし)は、まるでギロチンのようだ。


それは、人間と亀とを無理やり混ぜ合わせたかのような、グロテスクな怪物だった。

怪物は、金属音が混じったような耳障りな声で、激しく喚いた。


「ギャハギャハギャハ! 俺様は甲殻のトルトゥーガ! マギア・ローズよ! 俺様と勝負だ!」



「リ・ヴァース!? なんでこんなところに!?」


『……いや、これはむしろラッキーよ。被害が拡大する前に倒すチャンスだわ!』


狼狽する和花を、ルーナが冷静に諭した。

頼りになる相棒の言葉に、パニックに陥りかけていた和花の頭がスッと冷える。


彼女は、【姫装神機(トランス・デック)】を取り出そうとして……はたと気づいた。


「ーー美奈ちゃんは!?」


「ーーッ!? くそっ!! アタシとしたことが……!!」


悲鳴に近い声を和花が漏らすと、美香も激しく狼狽した声を上げる。


先ほどまで近くを走り回っていた美奈だが、なぜか姿が見えない。

公園の真ん中に怪物が現れたことで、意識が美奈から外れてしまったのだ。


滅多に妹から目を離すことのない美香にしては、致命的なミスだといえた。

そして、そのミスは、更なる事態の悪化を招いた。



「わるいことしちゃ、めっ!」


「……なんだぁ、このガキは?」


聞き覚えのある声。

その声が、怪物のすぐ近くから聞こえる。

和花と美香の顔から血の気が引いた。


公園の中央に出現した亀の怪物。

その足元に、美奈がいた。


二人が目を離した隙に、怪物の近くまで言ってしまったようだ。

それを見て、二人は慌てて駆け出した。


しかし、事態はより悪い方向へと動き出していく。


「わるいことしたらね、まぎあ・ろーずに、やっつけられちゃうんだよ!」


「悪いことをしたら……ねぇ」


ニヤリと亀怪人(トルトゥーガ)が嗤う。

爬虫類じみたその表情は、人間とは比べ物にならないほどに醜悪だった。


「じゃあこうすれば……マギア・ローズは来るのかなぁ!?」


そう言うが早いが、トルトゥーガが足を振り上げる。

そして力任せに、足元にいる美奈のことを、思い切り蹴り上げた。


「ーー危ねぇ!」


その瞬間。

横から飛び出したのは、美香だった。

美奈のことを庇った美香の身体は、数m以上吹き飛ばされた。

そして、腕の中に抱えた美奈ごと、公園の遊具に叩きつけられる。

美香の身体が金属製のジャングルジムに激しくぶつかり、ごきん、と言う鈍い音がした。


「ーー美香ちゃん!」


その光景を呆然と見ていた和花は、慌てて美香の元へと走った。

まるで、水中にいるかのように、足が重い。

何度も転びかけながら二人の元に辿り着く和花。


「ぐうう……! くそ、(いって)ぇ……!」


美香の白いシャツに、じわじわと赤いシミが広がっていく。

どうやら、脇腹を負傷したようだ。それだけでなく、遊具に激突した時にどこかの骨を折ったようで、立ち上がることすら難しい有様だった。


その腕に抱き抱えられた美奈には、目立った怪我はない。

しかし、ぐったりと意識を失っており、その小さな身体はぴくりとも動かない。

外傷はないとはいえ、美奈はまだ幼い子どもだ。

気を失うことによって、どんな影響があるかわからない。

今すぐ病院に連れていくべき状態なのは間違いないだろう。


ただ、見方を変えれば、これはある意味、幸運だったとも言える。

トルトゥーガの蹴りが直撃していたら、こんなものでは済まなかっただろう。

美香の常人離れした反射神経と運動能力のおかげで、美香も美奈も死なずに済んだのだ。


「変身しなきゃ! ……ルーナ!」


『任せて!』


阿吽の呼吸で、ルーナが和花に【幻想】をかけた。

これで、人前で変身しても、正体がバレることはない。


素早く変身を完了した和花は、急いで美香の身体に手を翳した。


「待ってて! すぐ治すからね!」


「ぐうう……! ダメだ……!」


「何言ってるの!?」


和花の治療を拒否しようとする美香に、珍しく和花が声が荒らげる。


「先に……みぃを、看てやってくれ……!」


「ーーっ! 分かった!」


自身も大怪我を負っていると言うのに、妹を先に治療するように、美香は言った。

和花はこの状況に歯痒い思いをしながらも、先に気を失っている美奈の方へ手をかざす。


しかし、それを邪魔する者がいた。


「見つけたぞぉ! マギア・ローズぅ!」


「危ない、ノドカ!」


「ーーッ!?」


マギア・ローズの背後から放たれた、トルトゥーガの攻撃。


ルーナの警告を聞いたローズは慌てて振り返ると、迫り来る拳を正面から受け止めた。


もし回避していたら、背後にいる2人に攻撃が当たってしまっていただろう。

その巨大な拳が直撃していれば、美香と美奈も無事では済まなかったはずだ。


「今は……それどころじゃないのっ!」


「うぬう!?」


思い切り力を入れて、トルトゥーガの巨体を押し返す。

ローズに弾き飛ばされたトルトゥーガは、地響きとともにひっくり返った。


慌てて振り返り、再び治療に専念しようとする和花。

しかし、敵はしつこかった。


「よそ見を……するなぁ!」


地面に倒れた体勢のまま、トルトゥーガは口をガパリと開ける。

そして、その開いた口から、凄まじい勢いで水球を発射した。


「うわわっ!?」


いくつも飛んでくる水球を、慌てて腕で弾き飛ばすローズ。


そのうち一つが和花から逸れて、背後にあるジャングルジムを粉砕した。

頑丈な鉄でできた遊具が、針金のように捻じ曲がり、へし折れる。


飛び散った鉄片が、地面に倒れたままの美香と美奈の近くに降り注ぐ。

美香は傷ついた身体を必死に丸めて、腕の中にいる美奈のことを庇おうとする。

その甲斐あってか、幸運にも、鉄片は二人に直撃しなかった。


しかし、鉄片が地面に突き刺さっているのを見たローズは、顔を青ざめさせた。

もし直撃していたら、酷い怪我を負っていたに違いない。


(ーーまずい! このままじゃ、二人を巻き込んじゃう! 敵を引き離さなくちゃ!)


「こっちだよ! ここまで来てみろー!」


「ぬうう!? 逃すか!」


激しやすい性格なのか、トルトゥーガはローズの挑発に簡単に乗ってくれた。

ドシンドシンと足音を立てながら、ローズの後を追っていく。


(十分引き離した! ここまでくれば……!)


公園にいた子どもたちや保護者も、トルトゥーガの姿を見て、既に逃げ出している。

今、ローズの周囲には、巻き込みそうな群衆や逃げ遅れた人々はいなかった。


「おりゃあ!」


追いかけてくるトルトゥーガ目掛けて、全力のパンチを見舞うローズ。

しかし……。


「ーーえっ!?」


ガキン! という金属音と共に、ローズの拳は、トルトゥーガの鎧皮に跳ね返された。


それを見て、トルトゥーガはいやらしく高笑いする。


「ギャハギャハギャハ! そんな拳では、俺様の甲殻は破れんぞ!」


「そんな……!」


ローズのメインは近接戦だ。

しかも、徒手空拳に頼った戦い方しかできない。

このような防御タイプの相手とは、致命的に相性が悪かった。


琴音(リリィ)がいてくれたら……!)


マギア・リリィの凍結魔法なら、トルトゥーガの甲殻に影響されることなく、ダメージを与えることができたはずだ。

しかし、今、この場にリリィはいない。

彼女は今日、七海と一緒に勉強すると言っていたので、まだ寮にいるはずだ。


まだテレビ局なども流石に来ていないため、この戦いを見ている者はいない。

騒ぎを聞きつけて救援に来てくれる確率は、あまり高くなかった。


だが、ここにはもう一人、頼りになる仲間がいた。


(のろ)いのよ! 〈月楔十字(ムーンクロス)〉!」


「……ぬうう!? なんだこれは!?」


月光のような、淡い金色の輝きを放つ十字架が出現し、トルトゥーガの身体をその場に縫い止めた。

和花と一緒にいたルーナが、拘束術式を発動したのだ。


「ありがとう、ルーナ!」


「ふん! こんなやつ、硬いだけの木偶の坊じゃない!」


「ぬうう!? 俺様を侮辱するな!」


「あら? 異論があるなら聞いてやるわよ。最も、動かせるのは口だけでしょうけどね」


「うぬぬぬ……!」


ルーナの挑発に、悔しそうな表情を浮かべるトルトゥーガ。

しかし、ルーナの拘束術式は、依然として彼のことを縛り続けている。

口ぐらいしか、既に動かせるものは残っていなかった。


「ローズ! 私が縛っている間に、ミカとミナを回復しなさい!」


「ーーっ! そうだ、回復しないと……!」


慌てて踵を返そうとするローズ。

それを見て、トルトゥーガは叫び声をあげる。


「戦いの最中に背を向けるなど、言語道断! 懲らしめてくれる!」


「何をする気……」


「くらえ!」


そう問いかけるルーナを無視して、トルトゥーガは大きく喉を膨らませた。

何かを吐き出そうとしているようだ。

ルーナとローズの脳裏に、先ほどの水球攻撃がチラつく。


「しまった……! ローズ、防御!」


ルーナの警告に合わせて、和花が防御体勢をとる。

しかし、トルトゥーガの大きく開いた口は、なぜか空中を向いている。


(いで)よ、魔獣兵!」


トルトゥーガが、巨大な黒い球体を吐き出した。

打ち上げられた球体は、花火のように空中で無数の小さな球体に分離し、四方八方へと散らばる。


やがて、散らばったピンポン玉サイズの黒球は一気に成長し、瞬く間に魔獣兵の群れが出現した。


「な……!?」


「そうら、早く全て倒さぬと、被害が広がるぞ! ギャハギャハギャハ!」


勝ち誇ったように笑うトルトゥーガ。


ローズは叫んだ。


「ルーナ! 魔獣兵のこと、任せていい!?」


「……私が離脱したら、こいつを抑えておけるのは貴女だけよ!」


「大丈夫! そう簡単にはやられないよ!」


「……信じてるわよ、ローズ!」


ルーナは、その場から駆け出した。

そして、周囲に散らばった魔獣兵を処理するために、感知術式を全開にする。

数秒後、ルーナの拘束術式が制御を失い、トルトゥーガが自由の身になった。


「行くぞぉ! マギア・ローズぅ!」


「ーーこい!」


再び、マギア・ローズとトルトゥーガが激突した。


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