第四話 僕は計画を進めたい
……まぁ、いきなり世界に攻め込むのは無理だけどね。
いや、単純な軍事力だけで考えるなら可能だよ?
世界中の主要機関をハッキングして麻痺させるなり、核爆弾を都心部に降らせたりすればいいんだから。
というかそもそも、まだこの世界の人々は、剣や槍を持って戦うのが主流である。せいぜい、馬に乗って戦えればいい方だろう。下手すれば、戦車や戦闘機が一機あれば、それだけでことが済みそうだ。
でも、ちょっとそれでは圧倒的すぎるというか、確実に世界征服できてしまうんだよね。
そうじゃないんだよ。
世界征服を仕掛けてきている敵に立ち向かうヒロイン、という構図が良いんだよ。
それに、今の段階で攻め込んでも、誰にも分からないし、伝わらない。
何せ、インターネットどころか電話も無線もないんだから。
少なくとも、情報端末を一般市民が持てるようになるまでは、準備期間になるかな。
では、準備期間に何をするのか、というところだけど……。
最強に近い力を手にした僕だが、僕単体でヒロインたちと戦うわけにもいかない。
RPGとかでも、序盤はザコ敵と戦ってレベルを上げていくだろう?
それに、それじゃ「黒幕」じゃなくて「当事者」でしょ。
黒幕が最初から表舞台に出てきてるなんて、そんなことある?
やっぱり「組織」あってこその「黒幕」だよね。
であれば、まず必要なことは何か? 決まっている。
僕の手足となって働く、「悪の組織」を作るのだ。
僕が思うに、悪の組織に必要な要素は4つ。
「武力」、「拠点」、「財力」、「構成員」である。
このうち、武力は問題ない。長年かけて蓄積してきた技術に加え、魔術という僕だけの心強い味方もある。
財力は、侵略時に貨幣や貴重品を奪えばいいだろう。これまでも、必要なものはこっそり掻っ払ってきていたわけだし。現状でも、魔術を使ったハッキングで電子マネーを生み出す技術を覚えてからは、特に金銭に困っているということもない。新しい世界には、まだ電子マネーのような技術は存在しないが、金銀の類は手元にいくらでもある。ミスリルとかオリハルコンとかの素材を作るための材料だけど、あの世界では貴重みたいだから、きっといくらでも使えるだろう。そこらへんの適当な石ころを金塊に変えてもいい訳だし。
拠点についても大丈夫。
今、僕のラボが置いてある地下を拡張してやればいいだろう。
これまでは、実験や開発のための必要最低限のスペースしか設けていなかったけれど、巨大な空間を作って居住区や城なんかを作る。これなら、多少は格好もつくというもの。
もしくは、地上に結界を張って、そこに拠点を造るのも良いかな。
これなら、周囲をうろつく怪物や、汚染され切って澱んだ空といった毒々しい光景も相まって、「悪の組織の拠点」っぽさが出るだろう?
これも、わりかしすぐに終わる作業である。
となれば、早急に取り掛かる必要があるのは、「構成員」。これに尽きる。
先に挙げた3つは、それを使う構成員がいてこそ。
だって想像できる?
誰も使わない武器に魔術、無人の拠点、死蔵されている貨幣。
荒廃し切った僕の世界と何が違うっていうんだ?
世界を構成しているのは人間である以上、どんな組織であろうと「人」が必要なのだ。
「構成員」を分類するなら、これも4種類。
それぞれ「戦闘員」、「怪人(あるいは怪物)」、「幹部」、「総帥」である。
まず「戦闘員」は言わずもがな。
ただし、世界に敵になる以上、半端な能力の戦闘員では意味がない。
初代マスクドライバーの戦闘員なんて、甲高く叫びながらぶっ飛ばされるだけの、一般人にも劣る存在である。
世界に攻め入れば、誰も容赦などしてはくれないだろう。
インターネットが発達した頃に攻め込むつもりだから、反撃もそれなりのものが飛んでくるはず。
あんな雑魚で攻め入って、ライフルだの戦車だので応戦されればひとたまりもない。
そこにスキーマスク黒タイツ集団を投入してみろ。いい物笑いの種である。
下っ端戦闘員とはいえ、相応の能力を身につけさせる必要があるよね。
次に「怪人」、もしくは「怪物」。
これは地味に重要である。
ヒロインたちが戦うことになるのは、もちろん戦闘員だけではない。
ニチアサであれば、ほとんど毎話、新しい敵キャラが現れ、それを倒すというのがお約束の流れである。
ただ、こいつらの造形をどうするかは迷いどころだ。
スーパーレンジャーズやマスクドライバーなら、「怪人」タイプ。
基本的には人型であり、背丈もそれ相応で、それぞれ戦闘員にはない固有の特殊能力を持つこともある。
また「怪人」タイプにも色々ある。
マスクドライバーの怪人はオーソドックス。モチーフはたいてい動植物で、普通の武器なんかは効きにくく、原則としてマスクドライバーの必殺技でしか倒されることなはない。少なくとも、僕は普通の銃とかで倒されるシーンなど、数えるほどしか知らない。バラ怪人が刑事に撃たれるシーンぐらいじゃないか?
スーパーレンジャーズの場合は、実はもっと凶悪である。
5対1でしか倒せない程の高い戦闘能力を持つことに加え、一度倒されると巨大化して復活するのだ。
こういう場合は巨大ロボットや巨大マシーンで応戦し、敵を倒すのがお約束である。
このパターンの場合、用意するモノのコストも大変な事になるので、悪の組織サイドにも相応の覚悟がいるね。
マジカル・キュアーズやウルトラ・ジャイアントならば「怪物」タイプだ。
この場合は、必ずしも人型とは限らない。ただし、大抵は最初から巨大である。
その大きさや戦闘力はまちまちだが、少なくとも数メートルから数十メートル程度はあると考えた方がいい。
身近なものに「邪悪なエネルギー」を注入して怪物にするタイプや、人間や怪人が変化して巨大化するタイプ、最初から巨大な化物として存在するタイプなど、様式はさまざま。
その敵の大きさゆえ、マジカル・キュアーズではこのタイプが多かった。
あと等身大の敵を女の子の集団でボコっている様子は、あんまり情操教育によくなさそうだし。
というか、「結束」や「友情」「愛情」がテーマだから、強大な敵にみんなで力を合わせて立ち向かう、という構図がわかりやすいんだろうね。まあ主人公が女の子なら、こっちの方がいいかな。
そして、なんといっても重要なのは「幹部」である。
戦闘員や怪人・怪物とは一線を画す程の実力があり、大抵は主人公サイドよりも強い。
人間態と怪人態を自由に行き来し、思考能力を持っていて、作戦立案や実行を任せられている。
拠点に何人か控えていて、交代で新しい作戦と怪人とを携えて攻め込んでは、主人公サイドに反撃を受けて撤退する、というのがお約束だ。あと大抵はあんまり仲が良くない。まあ、これは協力されると主人公サイドが苦労するからだろうなぁ。いっぺんに出てこいよ! などというツッコミは、それこそ野暮というものだ。
また、戦闘能力が高いとはいえ、新技や新武器なんかで倒せることも多く、中盤で倒されて交代したり、新メンバーが後半で登場することも多い。それでも人数は一桁に納まる場合が多いね。一年間という短いスパンでやってくわけだから、あんまりいると主人公サイドが倒しきれなくなってしまうからだろう。
この「幹部」にも、色々なタイプがあるわけだけれど……これらをカテゴライズするのは非常に難しい。
作品ごとに特色があって、一概に「これ」と分類できないためだ。とはいえいくつかテンプレートはある。
例えば、多いのは乱暴で頭の足りない脳筋。主人公を逆恨みしていたり、中盤で退場したりする。
他には、けたたましく笑う狂人。バカっぽいのに大抵強い。終盤に主人公サイドを苦しめる、準ボス級の強大な敵として立ちはだかることも多いな。
それから、実力を隠している面倒臭がり。普段はコミカルな癖に、実は裏ボスだったりする。
忘れちゃならないのは、やっぱり宿敵キャラ。所謂ライバル枠だろう。
敵の中でも主人公に執着していたりして、終盤で雌雄を決したり、時には仲間になったりすることもある。
これは非常に重要なポジションである。うんうん、とっても大事だね。
他にも、正々堂々とした武人、おっちょこちょいな発明家、色っぽい美人、クールな無口など、羅列していけばキリがない。「悪の組織」の魅力は、これらの幹部連中によって決まると思っていい。
最後に「総帥」である。
まあ、僕を「黒幕」とするなら、表向きのボスのことだね。組織のリーダー。
当然、幹部たちよりも強く、圧倒的な力を持つけど、最終的には主人公サイドに敗れることになる。
ちなみにそのキャラクターは、幹部勢とは違って限られてくる。
ニチアサに登場する「総帥」は、乱暴で気性の荒い唯我独尊タイプか、もしくは合理的かつ残虐な冷酷非道タイプのいずれかだった気がする。明らかに「悪」の方が、倒すなり封印するなりしやすいからね。
そうじゃないパターンもあったけど、そういう場合は和解するケースが多かった印象だ。
まあ深夜アニメ枠だと、一概にそうはいえないんだけどね。
とまあ、ここまで語ってきたものの、悪の組織に所属するメンバーは、別に誰でも良いってわけじゃない。
まず大前提として、僕の思い通りに動いてもらわなくては。
好き勝手されてはたまらないし、仮に離反でもされたら目も当てられないよね。
裏切り・光堕ちイベントとかは大歓迎だけど、組織全体が僕の制御下から離れてしまうのは困る。これについては対策が必要だよね。
実の所、長年の人体実験の成果によって、脳改造のノウハウは既に習得済みだ。
これによって、ある程度は叛逆のリスクを防げるわけだが、強引に施術を行うと人格がバグることもある。
例えば、僕に敵愾心を持った相手の脳みそを弄って、僕に服従するようにプログラムするとしよう。
その場合、確かに僕の命令には従うようになるよ。
ただし当然というべきか、命令したことしかやらない。しかも手を抜く。
まあ、当然だよね。嫌いな相手のために、進んで働こうとする奴はいない。
しかも、やりたくないことを命令によって無理やりさせようとした場合、若干だけど抵抗して、その際のストレスによって心身に悪影響が出るケースもあった。無理やり僕に好意を持たせたり、あるいは外科的に僕への敵愾心を排除したりもしてみたけど、結局、あんまり上手くはいかなかった。
ちなみに僕の開発した洗脳魔法で操ることも可能だ。だけど、その場合は情動が極端に制限されて、反応が鈍ったり、知能指数が極端に落ちたりして、とてもではないが戦闘に耐えうるものにはならなかった。
こういったことは困る。多少手間ではあるが、恩を売るなりして、僕に協力的な人間を集めるしかない。これが、今のところ一番の課題かな。
そして次に、高い戦闘能力を持っていること。
悪の組織の幹部たるもの、例えばそこら辺のチンピラの銃撃如きで死んでるようじゃ……ねぇ?
あくまで僕の方で御しきれる程度の能力でなくてはならないが、少なくともこの世界の人間には魔術を扱えないし、科学技術も原始的にすぎる。その辺は特に心配していない。それに、本人がどんなに弱かろうが、僕の方でそれなりに仕上げることも可能だし。これについては、この荒廃し切った世界で見つけた少女たちを改造することで、確証を得ている。まず問題ない。
最後に、この世界に絶望し、そこに住む人間を憎んでいること。
世界征服に乗り出す過程では、多くの虐殺や非道の限りを尽くしてもらうつもりだ。
苦しむ人間を見て、間違っても可哀想などと思ってほしくはない。悪の組織の幹部ならば、そんなことに心を揺らしてはならないのだ。
……まあ、人間味のある悪役も、それはそれで素晴らしいので、この辺は要検討かな。
これらを満たすような人材を収集する方法は……
となれば……うん、やっぱり、この方法が一番いいかな。
僕は頭の中に浮かんだアイデアを実行するために、早速、計画を進めることにした。




