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僕は黒幕になりたい〜戦うヒロイン育成計画!〜  作者: 少林 拳


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第三十八話 転校


「オハヨー、琴音! 今日も暑いね!」


「おはよ。月曜日から元気だね……」


昨日あんなことがあったばかりだというのに、和花は元気いっぱいだ。

そんな彼女のことを、琴音は温かく見守っている。


ここまでは、普段の登校風景と同じだ。

ただし、今日は少しだけいつもと違うことがある。


「……おはよ、ルーナ」


『おはよう、コトネ』


そう、ルーナの存在だ。

琴音がルーナやリ・ヴァース、天導衞姫と言った存在について知ったのは、土曜日の話。

日曜日にヴェリエスと戦い、そして今日が3人揃って初めての登校日なのだ。


これまでもルーナは和花と一緒にいたのだが、【幻想】で姿を隠していた。

しかし、今は琴音も和花とルーナという秘密を共有する仲である。

もちろん、ルーナは今も【幻想】を使っているので、姿も声も、第三者から認識されることはない。

彼女のことを認識できるのは、この場にいる2人だけだ。


「昨日は大変だったね」


『……大変の一言で済ませていいものかしら?』


琴音の言葉に、顔を引き攣らせるルーナ。

彼女もルーナも、昨日は死にかけたのだから、その反応は妥当だろう。


「そうだよー! 昨日は帰るのが遅くなって、ママに叱られたんだから!」


和花の相槌も、どこかズレている。

それに対して、ルーナは諦めたように返した。


『……ホノカ、怒ってたわね』


「だから早く帰れって言ったのに」


琴音の言葉に、和花は口を尖らせる。


「でも仕方なくない? あんな放送もあったし……」


和花の言っている「あんな放送」とは、もちろん道化師(クラウン)の行ったゲリラ放送のことだ。

あの後、しばらく3人は今後のことを相談せざるを得なかった。

その理由は、もちろん放送の中身にある。


あの晩、なぜ和花と琴音が襲われたのか、和花はずっと疑問に思っていた。


ネットでは、全国的に少女の襲撃事件が発生したと話題になっていたので、自分たちもそれに巻き込まれたのだ、ということは何となく分かっていた。

しかし、なぜリ・ヴァースがそのようなことをしているのかが、どうしても分からなかったのである。


しかし昨晩、道化師(クラウン)が語ったところによれば、天導衞姫の素質をもつ者を狩るためだったという。

その是非はともかく、理由については納得せざるを得なかった。

実際、和花も琴音も天導衞姫として覚醒したのだから。


本当に和花がゾッとしたのは、その後の道化師(クラウン)の発言だ。


『念のため、生き残りの子たちも順次始末していくので、ご容赦を』


つまり、天導衞姫であるとバレていなくても、彼女たちはリ・ヴァースに狙われているということだ。

他の子たちがターゲットになっているのも問題だが、これは今後の生活にも大きく影響してくることである。

結局、昨晩は結論が出ず、帰りが遅くなったというわけだった。

(そして和花は(ほのか)にしこたま怒られた)


『今後のことは、これから考えていくしかないわ』


「そうだね。……それより、マギア・ローズの正体を探ろうとするヤツが出てこないか心配」


「ええ……大丈夫じゃない? (ローズ)のことを敵に売ろうなんて人、いないでしょ?」


「敵に売らなくても、自分の国に連れ去ろうとする人はいるかもね。ローズの存在は、昨晩の放送で、リ・ヴァースに対する強力な抑止力として認識されたはずだし」


『ライト・ヴァースも一枚岩じゃないのね』


「むしろ、こっちの方が仲間割れが激しいんじゃないかな」


「そんなことない……と思いたいけどなぁ……」


自信なさげな和花に、琴音が言った。


「ほら、そろそろ学校に着くよ。ルーナも、ちゃんと隠れててよね」


「はーい」


『分かってるわよ』



***



昨日あんなことがあったとはいえ、この学校は浅草とも新宿とも離れている。

そのため、学校も休みにはならず、普通に開校されていた。

とはいえ、完全にいつも通りではなく、緊急で1時間目に全校集会が行われた。

登壇した校長によって、ここ連日の事件について学校の見解が説明され、危険なことが起こった時の身の守り方など、注意喚起が成される。ルーナは大勢集まった生徒や教員を物珍しそうに眺めていたが、和花と琴音は当事者であるだけに、少しだけ気まずかった。


2時間目は自習だという言葉を持って締めくくられた全校集会が終わり、ゾロゾロと教室に帰る生徒たち。


和花と琴音も教室に戻ろうと歩き出したが、そこを担任の教師に呼び止められた。


「橋本さん、白石さん、ちょっといいですか?」


二人が振り返ると、そこには和花と琴音の担任が立っていた。

まだ2年目の、若い女性の教諭である。名前は北村といい、生徒からの愛称はキタちゃん。

教え方にもソツが無く、生徒からの評判も悪くないが、少し気が弱いのが玉にキズである。


「なんですか?」


和花が尋ねると、北村教諭は少し気まずそうな顔をした。


「……ちょっと、生徒指導室まで来てください」


和花と琴音は、思わず顔を見合わせた。

何か当別、呼び出されるような悪さをしたような記憶はない。

家庭環境が複雑な琴音はヒアリングのため何度か足を運んだことがあるが、品行方正な和花は生徒指導室に入ったこともない。


心当たりがあるとすれば、ここ土日で起きた事件のことだろうか。

パウークの出現した浅草にも、ヴェリエスの現れた新宿にも、2人は居合わせていた。

(新宿の場合は、自分たちの方から現場に向かったのだが)


ひょっとすると、マギア・ローズ関連の話だろうか?

もしかして、何かのきっかけで正体がバレたのだろうか。


少しだけ警戒しつつ、北村教諭の後ろについて生徒指導室まで歩いていく2人+1匹。

生徒指導室に入って皆が着席すると(ルーナを除く)、北村教諭は2人に話しかけた。

と言っても、視線は琴音ではなく、和花の方に固定されている。

琴音の父親がカタギではないと言うことを知っているため、やはり怖いのだろう。


「……最近、生活はどう? うまくやれてるかな?」


「……? うまくやれてると思いますけど……」


抽象的な北村教諭の質問に、和花は首を傾げながら返答する。

北村教諭の顔色は、何故かあまり良くない。


「……お友達とはどうかな? いい感じ?」


「いい感じ……だと思います」


「そう……。それは良かった」


生徒指導室まで呼び出しておきながら、曖昧なことばかりを尋ねる北村教諭。

それに対して痺れを切らした琴音が、単刀直入に質問を投げかけた。


「そろそろ教えて欲しいんですけど。いったい、要件はなんですか?」


キッパリとした琴音の言葉に、今にもめげてしまいそうな表情を浮かべる北村教諭。

しかし、わずかな沈黙の末、彼女はようやく口を開いた。


「……すごく、言いにくいことなのだけれど……」


北村教諭は口ごもった。


「……お二人には、転校していただくことになりました」


一瞬の沈黙。

数秒後に再起動した和花が、驚きの声をあげた。


「……ええ〜〜!?」


「…………」


口に出してはいないが、琴音も十分過ぎるほど驚いていた。

動揺しまくりの和花に代わって、なんとか声を絞り出す。


「……理由を聞いてもいいですか?」


「……政府からの要請です」


「具体的には?」


ズバズバと琴音に切り込まれた北村教諭は、目を泳がせながら説明した。


「昨日の……例の放送が主な理由です。……全国的に起こっていた、少女への襲撃事件はご存知ですか?」


「は、はい」

「知っています」


知っているもなにも、二人は当事者と言ってよい。

そんなことも(つゆ)知らず、北村教諭は説明を続けた。


「その襲撃事件の生存者である女の子たちを、国で保護するための方策だそうです」


「……私たちが入院したのは、自動車事故によるものですが」


琴音の言っていることは事実とは異なるが、警察が事故だと判断しているため、公的にはそうなっている。


「……私も、詳しいことは分かりません。ただ、本学からは、お二人が対象となっています」


「……そうですか」


この様子では、北村教諭も詳しいことは知らないだろう。

そう判断した琴音は、これ以上の追求を諦めた。


「ど、どこに転校になるんですか? 遠いところですか?」


不安そうな和花に、少し微笑みながら北村教諭が返答した。


「大丈夫、安心して。……お二人には、都内の全寮制の学校に行ってもらうことになります」


北村教諭の説明によれば、どうやら今の家からも、それほど遠いところではないようだ。


それを聞いて、ほっと一安心する和花。

一方、琴音は(顔には出していないが)かなり不機嫌だった。

彼女にとっては、余計なお世話でしかなかった。


「いつから通えばいいのですか? 引っ越しの準備もあるので」


「……一週間後です。……ご家族には、私の方から説明します」


琴音が気分を害していることが伝わったのか、北村教諭の顔色はますます悪くなっている。


その様子を見て、琴音は少し反省した。

彼女にも、別に北村教諭を責めるつもりはない。

むしろ和花との距離は近くなるからいいか、と思い直して、気分を切り替えることにする。


「それにしても、よく受け入れてくれる学校がありましたね」


「学校といっても、実は国家公務員の研修施設なんです。そこに教員を派遣する形で開校します」


なるほど、と琴音は頷いた。

襲撃事件の被害者を集めると言うことだから、生徒は全国から集められるはずだ。

既存の学校に転入させるのでは、明らかにキャパシティオーバーだろう。

そういった施設を学校代わりにするのは、確かに理にかなっている。


その後も北村教諭の説明は続いた。

学費や引っ越しにかかる費用は国から出ること、申請すれば外出も許可されること、そして寮の部屋は2人部屋であることなど。

琴音はいくつか質問したが、きちんと全ての疑問に答えが返ってきて、少し安心する。

なお、和花は「ほえ〜」といった感じで聞いていた。


2時間目終了チャイムと同時に、二人は教室に戻った。

まだ口外するなと念を押されていたため、クラスメートに「なんで呼び出されたのか」と口々に聞かれたが、誤魔化すのに苦慮する羽目になった。(質問されていたのは主に和花だが)


それにしても、と琴音は思った。

昨日の今日にしては、かなり対応が早いと言わざるを得ない。

腰の重い政府にしては、あまりに迅速である。

まるで、政府よりも上位の存在が、強引に計画を進めたかのような……。


そこまで考えて、琴音は内心で首を振った。

これではまるで陰謀論者だ。


気にするのはよそう。

そう考えた琴音であったが、実は彼女の想像が正しかったと言うことに、誰も気付くことはなかった。


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