第三十五話 僕は再び喜びたい
「やっふぃーー!!」
僕はピエロ服姿のまま、部屋の中を飛び回った。
あちこち部屋のものが散らばるが、構いやしない。
ヒロインの目覚めイベント、その第二弾が成功したのだ。
とはいえ、この計画もかなり前倒しにせざるを得なかった。
本当は、マギア・ローズに何回か敵怪人をぶつけながら、世間に少しずつ魔法少女の存在を認知させていくつもりだった。
そのために、わざわざ魔導戦姫の参戦を禁じたり、序列の低い部下から一人ずつおくりこめって指示を出したりしたんだからね。
ルーナちゃんに壊させた転移隧道や転移門の修理も意図的に遅らせたし。あれは魔神様の残した遺物、って扱いだから、破壊されたら完全には直らない、という設定になっている。
(本当は、僕が修復すればすぐ直る)
ルーナちゃんに壊してもらったおかげで、使用できる転移門は1機だけだった。
だからこそ、「一人ずつ」手下を送り込むっていう魔神様の指示に信憑性が生じていたわけ。
でも、今回は全世界への同時侵攻っていう大作戦だ。
当然、転移門が1機だけでは、実施できない。
そこで、僕……つまり道化師が、魔神様に直訴して、限定的に転移門を使用できるようにしてもらった、ということにした。
つまり、故障しているけど、一時的に無理やり使用できるようにしたってわけだ。
実際には僕の発明品だから、故障も何も僕の匙加減なわけだけど、この間の指示との整合性をとるために、そういう感じに持っていくしかなかった。
まぁ、これなら、日常的に使用できる転移門は一つだけ、っていう前提が崩れることはないからね。
でも、やっぱりちょっと強引だったかな。
このせいで、道化師が魔神様と直接コンタクトできるってことを【魔導四妃】に知られてしまった。本当は同一人物なんだけど、それはエルフューザしか知らない。黒い翼の彼女ね。
他のメンバーにも怪しまれるきっかけになっちゃったかな。
加えて、転移門の修理担当にも嫌われてしまったと思う。
与えられた任務を、横から道化師が掻っ攫って行ってしまったわけだからね。
修理を担当してたのは誰だっけ?
ああ、エクレシアか。
ふわふわの栗毛に泣きぼくろという、おっとりお姉さん系の外見だけど、彼女の忠誠心はかなり高い。
というより、もはや狂信のレベルに達している。
だからこそ、彼女は道化師に強く嫉妬している。
実力も定かではない上に、敬意のカケラもないやつが魔皇陛下の側に仕えてるってのが、やっぱり許し難いみたい。
転移門の修理って大役を奪ったことで、エクレシアは相当ブチ切れたはずだ。
今回の件で、かなり嫌われたかな……。
まぁ僕の計画に差しつかえることはないだろう。多分ね。
そうそう、そもそも何で、いきなり全世界に侵攻するって話になったのか、そこからだよね。
いやぁ、朝令暮改とはこのことで、全世界への侵攻計画は、かなり強引に捩じ込んだものなんだよ。
【魔導四妃】を納得させるのに苦労した。【神託】と矛盾するからね。
でも、僕は魔神様の代理だぞ、ということを全面に押し出して、無理やり納得させた。
わざわざ、こんな手間をかけてまで、全世界への侵攻作戦を実施したのには、きちんと理由がある。
なんでかっていうと、ネットでマギア・ローズ……つまり和花ちゃんを叩く意見がちらほら見えたからだよ。
きっかけはパウーク戦だった。
タワージャックをした蜘蛛怪人と、タワーにひしめく魔獣兵。
それを蹴散らし、人質を解放してみせたマギア・ローズの活躍は、瞬く間に日本中でニュースになった。
ほとんどは賞賛のコメントだったんだけど、中には悪意あるコメントもあった。
まぁ、もちろん100%肯定される世界はあり得ない。否定の意見があって当然だし、僕だって、マギア・ローズという存在を批判的に見る人間がいてもおかしくないと思っていた。
ただ、実際に見たら、我慢できなかった。
特に癪に触ったのは、「マギア・ローズが東京にいたから、パウークが東京に出現したのではないか」という意見だ。つまり、マギア・ローズがいたせいでタワージャックが発生したんじゃないか、ってこと。
パウークのやつ、馬鹿正直に「マギア・ローズよ、我と勝負だ!」みたいなことを言っていたから、余計にそういう印象を受けた人もいただろう。
じゃあ、全部あいつのせいじゃね?
ふさけやがって。
何がパウークだよ、一話目でやられる役割ってだけのモブが。
パウークって名前も適当である。ラサー語でそのまんま「蜘蛛」だ。
蜘蛛怪人クモーンとか、地獄の使者ダーマッ! とかにしてやってもよかったが、ちょっと緊張感を削ぐだろうから自重した。
何が腹立たしいって、「マギア・ローズが東京にいたから、パウークが東京に出現したのではないか」って意見、これが間違いではないってこと。
当たり前だろ?
誰が敵怪人をヒロインからメチャ離れた所に出現させるんだよ。
戦うどころか、移動時間だけで1話潰れるわ。
実際パウークを北海道だの沖縄だのに出現させてみろ。
和花ちゃんがそこに行くまで被害は拡大し続けるだろうし、もしそうなったら事態を収集できても「なんで今頃来たんだ」みたいな批判に溢れるに決まっている。
だから、「マギア・ローズがいる場所に怪人が出現する」ことに整合性を持たせなければならない。
そしてそれは、和花ちゃんを批判するものであってはならないのだ。
それを解決するべく実行したのが、例の全世界侵攻作戦である。
まず、敵が首都に攻め込んでくるのには合理性がある。
普通は自分たちの陣地から攻撃を仕掛けるものだけど、リ・ヴァースに限っては、直接、国の中枢を攻撃可能だ。
転移装置があるからね。攻撃できるなら、どう考えても国の心臓を叩いたほうがいい。
今回の件があるまで、リ・ヴァースという存在は、影の存在だった。
だからこそ、「いきなり首都に攻め込んでくる奴らがいる」っていうのは、各国に大きな衝撃を与えただろう。
いやそもそも、「別の次元に侵略者がいる」という事実そのものがショッキングだったはずだ。
そして、日本ではまだニュースになってないけど、日本以外の都市は壊滅的な被害を受けている。
いくつかの大国、その首都に直接侵攻したわけだから、そりゃ被害甚大だよな。
向こうもそれなりに準備していたみたいだけど、全くの無意味だ。
だって、僕のヒロイン以外には対処できないように作ってあるんだもん。
銃で殺せるなら「魔法少女いらないじゃん」みたいになるでしょ?
それを回避するため、魔獣兵……つまり雑兵ですら、「物理無効属性」を有している。
つまり、強いのだ。
パウーク戦では、警官隊や自衛隊が登場する前に、マギア・ローズが事態を収集してしまった。
被害が出てからだと批判の声もあっただろうから、それ自体はナイスプレーなんだけど、その一方で、
「魔獣兵って弱いんじゃね」みたいなコメントも散見されたんだよね。
許せるかい?
確かに原材料は単なる人間だけど、僕が手塩にかけて作った魔獣兵のことをナメてるってことだよ?
はい、分からせないといけないね。
だからこそ、わざわざ大国に対して事前通達してまで攻め込ませたんだ。
魔獣兵って強いんだ、という認識を持ってもらうためにね。
各国も頑張ってはいたよ?
首都にあらかじめ軍隊を配備してあったり、スワットをパトロールさせていたりね。
でも、銃も爆弾もナイフも効かない相手に、どうやって戦うっていうんだ?
ほら、詰んでるでしょ。
だから他の大都市は、一度は陥落させることに成功している。
国のシンボルとなるような建造物や機関を徹底的に破壊することで、それぞれの大国は「異世界の脅威」をしっかり認識しただろう。
こういう状況で、唯一無事だった日本を見て、世界はどう思うだろう?
そして、絶対的な敵を撃退したマギア・ローズという存在に対して、どんな印象を抱くだろう?
もちろん、救世主、だよね。
それ以外にない。
他の大国には、「もしマギア・ローズがいなかったらこうなっていた」という見本になってもらったわけだ。
もちろん、それでもマギア・ローズを叩く風潮は残るだろう。
なぜライスやカイナに助けに行かなかったのか、みたいなトンチンカンな批判もあるだろうね。
日本には、日本以外の国への忠誠心を持つ者も少なくないから、国内でマギア・ローズを批判して、自分たちの国へ移住させようという、不届きなことを企てるやつも出て来るはずだ。
だけど、それは圧倒的に少数派になるはず。
普通の人間は、国の危機を救ってもらったら、感謝する。
そして、他の国には行って欲しくないと考えるようになるだろう。
マギア・ローズは、社会的に守られることになる。
加えて、東京に怪人が攻め込んでくることにも、整合性を持たせることができるはず。
敵……つまりリ・ヴァース勢力が、直接首都を叩けることは、今回の件で否が応でも理解できただろう。
そして、それを防衛できるのが魔法少女だけだってことも認識できたはずだ。
むしろ東京以外に敵に出現されると、日本も困ったことになる。
攻め込んでくるなら、魔法少女がいる東京の方が、被害は少なくなる。
マギア・ローズが東京にいる、そのこと自体が、国民感情を納得させる材料になるんだ。
まぁ、タイミング的にはもう少し遅くてもよかった気もする。
でもコメントを見てむかついちゃったんだもん。てへぺろ。
そして……そうそう、琴音ちゃんの覚醒イベントだ。
あれは熱かった。あんな大怪我しても和花ちゃんを守ろうっていうんだからすごいよね。
もちろん、ヴェリエスは捨て駒だ。失ってもまるで痛くない。
身体機能しか能のない獣魔族自体が失敗作なんだけど、彼女はその中で魔導十姫に加入するという快挙を達成した。だからこそ、今回のイベントに貢献するという花形をやらせてあげたわけ。よかったね。
最初は、琴音ちゃんを魔法少女にするつもりはなかった。
よくて魔法少女に理解のある親友ポジション、それだけのつもりだった。
だって彼女の生い立ち、ひどいよ?
彼女自身は和花ちゃんのおかげでかなりまともに育ったけど、ヤクザの父親、娼婦の母親。
どこにそんな魔法少女がいるっていうんだい?
でも、彼女の生き様を見て、心を動かされた僕は、琴音ちゃんをテストすることにしたのだ。
それがあの夜、魔獣兵に和花ちゃん共々襲わせた時のことである。
彼女が和花ちゃんを置いて逃げたりしていたら、もちろん死んでもらっていた。
しかし、逆に彼女は和花ちゃんを庇った。これだけで、かなりのレアだ。
そこで、魔法少女になってもらうことにしたのである。
予想以上にバトルドレスも似合っていたし、彼女も喜んでいるはずだ。
これからの戦いは、より一層激化していく。
どうなっていくかは、僕にも読めない。
いやぁ、楽しみだね。ワクワクが止まらないよ……。




