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僕は黒幕になりたい〜戦うヒロイン育成計画!〜  作者: 少林 拳


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第二十三話 退院祝い


「琴音、退院おめでとう!」


「全く……大袈裟だよ、和花」


「そんなことないよ! 琴音が元気になってくれて、すっごく嬉しいよ!」


「……ふふ。ありがと」


にこにこと屈託なく笑う和花と、テーブルに頬杖を付いて少し恥ずかしそうに微笑む琴音。

ふたりは、病院を出てすぐのところにある喫茶店でコーヒーを飲んでいた。


生クリームたっぷりのラテと、よく冷えたブラックコーヒー。

どちらがどちらを頼んだのか、説明は不要だろう。

お茶請けには、チョコチップたっぷりのクッキー。

琴音はあまり甘いものは好まないが、これは和花たっての希望である。


中学生にしてはなかなか豪勢なティータイムだが、これは琴音が退院したことへの、ちょっとしたお祝いだ。


琴音が目覚めてから2週間。

その間、ルーナと出会い、天導衞姫(マギア・ローズ)として覚醒するなど色々なことがあったが、その間も順調に琴音はリハビリを続けており、今日何とか退院まで漕ぎ着けることができたのだった。


ただ、和花の時とは違い、琴音は身体を魔獣兵の攻撃によって負傷していた。

和花がマギア・ローズに変身している際に回復させていたため、見かけ上の怪我はすっかり完治している。

しかし、無理やり怪我を治した後遺症なのか、上手く四肢に力が入らない状態で、今も車椅子が必要な状態だ。


和花が入院していたのと同じ病院だったので、医者も看護師も琴音のことを普通の入院患者以上に把握していた。

元気いっぱいの和花と、涼しげな美少女である琴音のコンビは、院内でも有名だったのである。


退院時には、和花の時と同じく、大勢のドクターとナースが入り口まで見送りに来てくれた。

その中にはもちろん和花もいたので、そのまま喫茶店へ向かう運びとなったわけだ。


そして結局、琴音の両親は一度も顔を見せなかった。入院中も、退院後も。

和花は内心かなり腹を立てていたが、琴音が寂しそうな様子を一度も見せなかったので、彼女は自身の憤りを表に見せることはなかった。……もちろん、付き合いの長い琴音は、和花の気持ちに気付いていたが、親友さえいれば良いと考えている彼女にとって、両親の不在など、どうでも良いことだった。


とはいえ、和花にとっては、琴音が無事に退院した喜びの方が優っている。

琴音も、嬉しそうな和花を見て、頬を緩めていた。

彼女にとっては、自分が退院したことよりも、和花が喜んでくれることそのものが嬉しかったに違いない。


「そうだ! 退院のお祝いに、どこかお出かけしようよ!」


「……私、一応、病み上がりなんだけど?」


「うっ!? そ、そうだよね……」


琴音が腰掛けている車椅子に目をやり、しょげかえる和花。

それを見て、琴音は微かに笑みをこぼした。

もちろん冷笑ではなく、和花の気持ちに応えるような、温かな微笑だ。


「……嘘だよ、ばーか。行くに決まってるじゃん」


「ーーホント!? やったぁ!」


飛び上がって喜ぶ和花。

落ち着いた雰囲気の喫茶店の中で騒いだことで、店内中の客から視線が集まる。

それに赤面した和花は、すごすごと自分の席へと戻った。


「ばーか、はしゃぎ過ぎ。お出かけくらいでさ」


「だって、久しぶりだし!」


「私はほとんど意識がなかったしなぁ……って、あれ?」


「どうしたの、琴音?」


「……いつの間に全部食べたの? クッキー」


「えっ」


「ふふ、お腹空いてたんだ、和花。慌てなくても、取ったりしないって」


「ち、違うもん! ……もう!」


テーブルの片隅……ネコ一匹分ぐらい空けてあるスペースを軽く睨んだ和花をみて、琴音は首を傾げた。


***


リ・ヴァース、魔皇城。

巨大な山をくり抜いて作った、要塞としての機能を備えた城だ。

その中には、巨大な城にふさわしい広間がある。


天井を飾るのは、リ・ヴァースの中で最も高価な宝石を用いた、煌びやかなシャンデリア。

それを支えるのは聳え立つ14本の巨柱と、白亜の床、火龍の髭で編まれた真紅のカーペット。


大広間の最奥には、黄金に似た素材を用いた豪華絢爛な王座が鎮座しており、その前方には、先日レヴィアを処断した4人……【魔導四妃】が控えていた。


プラチナブロンドに蒼目、そして湾曲した角を生やしたジャンヌ・ポール・トロワ。

ふわふわの栗毛に垂れ目、泣きぼくろの、エクレシア・ヴァン・レゲストラ。

黒い肌に黒い軍服、黄金の瞳を持つ、ジュジュ・プルトロン。

そして、背中から黒翼を生やし雪のように白い肌の、エルフューザ・ナープトゥルース・ペンデュラム。


ただし、あの時とは違い、いずれも椅子には座っていない。

カーペットが敷いてあるとはいえ、直接、床の上に膝をつき、首を垂れている。

それは、彼女たちよりも上位の存在を敬い、奉るための姿勢だ。


「おーほっほ! それでは皆さま、お揃いですね?」


甲高い笑い声と共に姿を現したのは、ピエロ姿の怪人。

道化師(クラウン)と呼ばれている謎の人物である。


荘厳な大広間の雰囲気を壊すかのように、けたたましく哄笑をあげる道化師(クラウン)を見て、規律に厳しいジャンヌとジュジュが目つきを厳しくする。しかし、彼女たちは何も言わない。


道化師(クラウン)は魔皇陛下の側に仕える、最古の魔族のひとりと目されているからである。

魔皇陛下どころか、魔神様の言伝を運んでくることすらあり、【魔導四妃】のまとめ役であるエルフューザすら慎重な対応を見せるほどの人物なのだ。


「おーほっほ! それでは、魔皇陛下のご入室です!」


道化師(クラウン)の言葉に続いて、てくてくと入室してきたのは、幼い少女だった。

腰まである黒髪に、同じく黒い瞳。それとは対照的に、肌は病的なまでに白い。

外見上は、10歳にも満たないだろう。その小柄な体躯を見て、実力主義のリ・ヴァース、そのトップに君臨する人物だとは、誰も思うまい。しかし、首を垂れる4人には、彼女を軽んじる雰囲気は存在しない。


それもそのはず、この少女こそが魔皇陛下、すなわち魔神様から直接【神託】を賜ることの許された、リ・ヴァースの巫女なのだから。


玉座によっこいせと腰掛けた少女は、幼い声で4人に呼びかけた。


「おもてをあげよ」


その言葉に、4人は一斉に顔をあげ、玉座に座す魔皇陛下を見上げた。

畏怖、狂信、忠誠、慈愛……。

彼女たちの目には様々な感情が滲んでいるが、いずれも、目の前の幼い少女への強い想いを宿している。


「これより、まじんさまのおことばを、おまえたちにつたえる」


「「「「はっ!」」」」


「てんどうえいきは、にほんにいる。

 まぎあ・ろーずとなのり、われらのけいかくを、ぼうがいするだろう。

 まぎあ・ろーずをとうばつせよ。ただし、だいきぼなしんこうは、きんしとする。

 まずは、まどーじっきの、ぶかを、とうきょうに、おくりこめ。

 にんずうは、ひとりずつ。

 じゅんばんは、じょれつが、したのものからだ」


「「「「はっ!」」」」


「おーほっほ! 以上です! 皆さん、魔神様のお言葉に従いますように! ……魔皇陛下、退室です!」


道化師(クラウン)の言葉を聞いた魔皇は、よいしょと玉座を降りると、入ってきた時と同じように、てくてくと大広間から退室していった。


魔皇の後ろ姿を平伏して見送る魔導四妃たちに、道化師(クラウン)が声をかける。


「さぁて、皆さん! ご苦労様でした! 私も所用がありますので! それでは、アデュー!」


その場でパチンと指を鳴らすと、道化師(クラウン)の姿は煙と共に消え失せた。


それを見届けた四人は、しばらく平伏したまま待機していたが、しばらくしてまずはエルフューザが、ついで残りの3人が次々と立ち上がった。


エルフューザは自身の感情を見せていないが、残りの3人は、どこか不機嫌そうだ。

いずれも、敬愛している魔皇陛下の側で好き勝手に振る舞っている道化師(クラウン)への不満によるもの。


「……くそッ! なぜあんな軟弱者(クラウン)を、魔皇陛下はのさばらせておるのだ!」


ジャンヌが吐き捨てるようにそういうと、垂れ目を鋭く光らせたエクレシアが反論した。


「魔皇陛下のご判断は、魔神様のご判断よぉ? ……それに逆らうなんて、死にたいのかしらぁ?」


「そうは言っていない! エクレシア、貴様は自分よりもあの道化師が魔皇陛下の側仕えにふさわしいと考えておるのかッ!?」


「……そうは言わないけどぉ」


エクレシアも、軟弱者(クラウン)の存在自体は気に食わないようだ。

反論してはいるものの、その言葉に勢いはあまりない。


「……実のところ、私も彼奴(クラウン)は好かん。が、所詮は使い走りに過ぎん。目障りではあるが、気にするほどの者でもなかろう」


ジャンヌとエクレシアの会話に、ジュジュも加わった。

彼女も道化師(クラウン)のことをこき下ろしているが、その表情はどこか苦々しげだ。

軍規を重要視する彼女にとって、規律の外で好き勝手にやっている道化師(クラウン)の存在は、許容し難いものなのだろう。


「……お前たち、無駄口を叩くのはよせ。これより、各自に指示を与える」


これまで沈黙を貫いていたエルフューザが口を開いた。

【魔導四妃】のまとめ役である彼女の言葉に、ほか3人は一斉に姿勢を正す。


「エクレシア、転移隧道(ワープトンネル)の復旧にはどれほどかかる?」


「ルーナの小娘に軒並み破壊されてから、復旧の目処はたってないわぁ。今稼働できるのは転移門(ワープゲート)が一機だけねぇ」


「それでは、新たに送り込めるのは、一度に魔獣兵100匹程度か」


「単純に通過できる許容量だけなら、その10倍はいけるんだけどぉ……まぁ、一回の稼働時間を考えれば、そのぐらいかしらねぇ。それ以上になると……魔導戦姫クラスでギリギリひとり、それ以下の魔導戦士クラスはせいぜい10人までが限界ってところかしらぁ? それに、このレベルの魔族を通過させると、しばらく機能が麻痺しちゃうわねぇ」


「うむッ! やはり、ルヴィアのせいで遅延が生じておるなッ!」


「ひとまず、既にラサー共和国連邦に送り込んでいるコマを動かす他ないか」


「問題なかろうッ! 魔神様は、慎重な対応をご要望なのだからなッ!」


ジャンヌの言葉に、エルフューザが思案しつつ首肯する。


「……そうだな。エクレシア、ルーナめに破壊された機材の復旧に努めよ」


「分かったわぁ」


「ジュジュは、ニホンへ送り込む人員を選別せよ。現地における魔獣兵の増産も忘れるな」


「うむ」


「ジャンヌ、ライト・ヴァースへの進行計画の見直しと、それに伴う規定を再整備せよ」


「承った!」


こうして、魔神とその巫女である魔皇の言葉に従い、ライト・ヴァース全土への同時侵攻作戦は一時中断され、今後は日本……それも東京を対象とした作戦が進行していくこととなる。



次の話が短めなので、20分に次話も投稿します。

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