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僕は黒幕になりたい〜戦うヒロイン育成計画!〜  作者: 少林 拳


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第二十話 魔導刀姫

少し遅くなりました。

すみません。


夕日の差し込んだ白い病室に、二人の少女がいた。

片方は大きなベッドで半身を起こしており、もう一人はその傍に用意された椅子に腰掛けている。


「全く……今日も来たわけ? こんな毎日来なくっても……」


「いいの! せっかく琴音が目覚めたんだもん! 毎日だって来るよ! ……それとも、迷惑だった?」


しょんぼりとした和花の様子に、琴音が顔を背けながら照れくさそうに返す。


「……まぁ、別に迷惑じゃないけどさ。……ありがと」


翌日からは、和花の日常はより一層賑やかになった。

言うまでもなく、琴音が目を覚ましたからである。


マギア・ローズに変身していた和花の魔法によって目を覚ました琴音は、ぐんぐん快方へと向かっていた。

その速度は、一時は昏睡状態だったとは思えないほどで、医者も目を丸くしていたほどだ。


とは言え、まだまだ安静が必要で、少しずつリハビリを重ねながら、琴音は病院での日々を過ごしていた。

こうして和花が毎日のようにお見舞いに来るので、少しでも元気な姿を見せてやりたい、と言う気持ちもあった。


「それにしても……不思議だよね」


「何が?」


ベッドの側に腰掛けていた和花が不思議そうに尋ねると、琴音はやや逡巡しながら言った。


「いや、私がいきなり回復したことがさ。だって、意識不明だったんでしょ?」


「そ……そういうこともあるんじゃないかなっ!」


やや焦り気味にそういう和花。

そんな不自然な容姿の親友に、琴音は胡乱げな目を向けた。


「……それに、目覚めた時に、和花の姿を見た気がするんだよね」


ぎくぅ! と和花の身体が揺れる。

彼女に注がれる琴音の視線は、ますます胡乱げな色を帯びていく。


「き、気のせいだよ! 私が夜の病院にいるはずないよ!」


「……夜の病院? 何で私が目覚めた時のことを知ってるの?」


「えっと……! お、お医者さんに聞いたの!」


「……ふぅん? ……まぁいいけど」


「……ほっ」


胸を撫で下ろす和花に対して、琴音はまだ何か言いたそうな顔をしていたが、結局それ以上言葉を重ねることはなかった。もちろん、和花が何か隠し事をしているのは間違いない、と彼女は確信していた。その生い立ちから、琴音は他者の感情の機微には敏感だったし、嘘や隠し事を見抜くのも得意だった。


そして何より、和花は致命的に嘘や隠し事が下手だ。

付き合いの長い琴音には、当然ながら和花が何かを隠していることに気がついていた。

和花を追求しなかったのは、彼女が嘘をつくときは大抵の場合、何か大切なものを守ろうとしている時だというのを、琴音はよく知っていたからだった。


調理実習でクラスメートの失敗した料理を食べて「美味しい」と言ったり、虐められていた子の落書きされた机をこっそり掃除したり……。和花が嘘をついたり誤魔化したりするときは、大体の場合、何かしらの利己的でない事情がある。


今回は何を守ろうとしているのかは、琴音にも分からなかった。

ただ、いつものような単純な事情でないことだけは、彼女にも何となく察しがついていた。


(……まぁ、いいか)


琴音は少しだけ寂しい気持ちになりながらも、取り敢えず疑問を棚上げしておくことにした。

家族は一度も見舞いに来ていないが、こうして親友と過ごせるだけで、彼女には十分だったから。


その時、突然、和花がビクンと飛び跳ねた。

そして、自分の肩に向けて、ヒソヒソと何かを囁いている。


「……何してんの?」


イマジナリーフレンドでも見えているのかと怪訝そうな目を向ける琴音に対し、和花は焦りながら返事をした。


「なっ、何でもないよ! ……ちょっと急用ができちゃったから、今日は帰るね! また明日! それじゃっ」


「病院で走るんじゃないよ……って、もう聞いてないか」


パタパタと忙しなく駆けて行った親友の背中を、琴音はため息を吐きながら見送った。



***



「それで、場所は!?」


「すぐ近く! こっちよ!」


琴音の入院している部屋を出た和花は、急いで病院を抜け出し、薄暗くなった上空を飛翔していた。

既に変身は完了しており、ローズピンクのバトルドレス姿になっている。


和花は病室で姿を隠していたルーナから「敵勢力(リ・ヴァース)」が現れたと聞き、慌てて現場へと向かっているところだった。普通なら、薄暗くなったとはいえ、空をドレス姿の少女が飛んでいたら大騒ぎになったかもしれないが、ルーナが固有魔法である【幻想】を使用しているため、誰もそれを気にすることはない。


そのお陰で、和花は全速力で現場に向かうことができていた。

かなり急だったせいで琴音には怪しまれたかもしれないが、人命には代えられない。

(実際のところ、かなり怪しまれていたのだが、和花は気付いてなかった)


ぐんぐん空中で加速しながら、和花は内心こっそり首を傾げていた。


(……普通に空を飛んでるけど、これってどうやってるんだろ? ルーナは【飛行術式】って言ってたけど……)


ルーナを救うためにルヴィアと対峙した時もそうだったが、まるで生まれた時から身につけていたかのように、自然と魔法を扱えている。この間までは、魔法という存在すら物語の中の存在だと思っていたのにも関わらず。


魔法だけではない。身体を使った戦い方だってそうだ。

普段の和花は、実のところあまり運動神経がいい方ではない。

体力テストでもギリギリ平均値といった程度だったし、球技なんかはハッキリ言って不得意だ。

多少得意と言えるのは水泳ぐらいのものだが、どう考えても戦いが得意になる類の技術ではない。


ルヴィアとの格闘戦にしても、勝手に身体が動いていた。

パンチやキックなど、どう考えても日常生活で使用したことのない技術を使って、ルヴィアを撤退させることに成功した。まるで、自動で戦闘プログラムが脳と身体にインストールされたかのように。


それはあまりに不自然で、どこか不気味だった。


「そろそろよ! 準備して!」


「うん! わかった!」


(……まぁ、いっか! きっとこれも、魔法のおかげだよね!)


少しだけ何かに気付きかけた和花の思考は、すぐにルーナの言葉に押し流されていった。



***



わずか数分で到着した場所は、人気のない廃工場だった。

シンと静まり返っていて、何の気配もない。

床にも埃が分厚く積もっており、ここ最近、誰かが入ったような形跡すらない。


夕方ということもあって、雰囲気はかなり不気味だが……。

こんなところで、誰かが襲われているというのだろうか。


「……本当にここなの?」


「……ここのはず……なんだけど……」


薄暗い廃工場の雰囲気にちょっとだけビビりながらも、肩に乗ったルーナに尋ねる和花。

それに対するルーナの返答も、どこか自信なさげである。


暗闇で光るルーナを懐中電灯代わりにして、和花は恐る恐る廃工場の中を捜索し始めた。

確かに夕方の廃工場は怖いが、もし誰かが助けを求めているなら、それに応えたい。

そんな意気込みと共に奥へ奥へと進んでいくが、やはり誰もいない様子だった。


「……おーい! 誰かいますかー!?」


「ちょっ、バカっ! 大声出さないでよ!」


取り敢えず大声で呼びかけてみる和花に、慌てた様子で噛み付くルーナ。

それに対し、和花は困ったように眉を下げながら言った。


「でっ、でも、誰かが困っているかもしれないし……」


「それにしたって、もっと方法があるでしょ!」


敵がいるかもしれないのに大声を出した和花は、確かに一見かなり迂闊に見える。

ただし、彼女にとっての優先事項は、あくまで人命救助。

もし助けを求めている人がいるならば、放って置けない性分なのだ。



そんな彼女たちに、前方の暗がりから声をかける者がいた。


「……緊張感がない」


「だ、誰!?」


「ーーッ!?」


やや低めの、どこかくぐもった響きの女性の声。


暗闇でいきなり声をかけられた和花は、飛び上がって正体を誰何する。

一方、ルーナは聞き覚えのある声に息を呑んで固まっていた。


その声は、かつて耳にしたものと同じだった。

こちらの世界(ライト・ヴァース)に来てからではない。

ルーナがリ・ヴァースで暮らしていた頃に聞いたことのある声だ。


コツン、コツンと音を立てながら、暗がりから姿を現したのは、一人の少女だった。

身長は160cm半ば。

艶やかな黒髪をポニーテールに結い上げており、見るものに全体的に引き締まった印象を与える。


しかし、普通の少女でないことは明白だった。


彼女のしなやかな身体を包んでいたのは、先日戦ったルヴィと似たバトルドレス。

ただし、こちらは黒曜石(オブシディアン)のように煌めく黒色である。

所々に鈍いエメラルドグリーンのラインが光っており、どこかサイバーパンクな印象を見るものに与える。

腰に巻かれているベルトとバックルも同じ配色で、和花やルヴィのものと酷似していた。


和花のバトルドレスとは異なり、パニエによって広がるスカートではない。

もっとスマートな、身体にピッタリとフィットしているデザインで、一番近いのはスーツのタイトスカートだろうか。ただ、こちらには鋭い切れ目(スリット)が入っており、かなり動きやすそうだ。

そして腰には、一本の刀を佩いていた。その刀は、いわゆる日本刀に酷似している。


何よりも印象的だったのは、その顔だろう。

いや、顔を覆っているもの、と表現するのが正しいか。


それは仮面だった。

ドレスやベルトにも負けないぐらい、真っ黒な仮面。

顔全体を包み込んでいる仮面は、何かを模しているというわけでもなさそうだ。

ほとんど起伏のない、のっぺりとしたマスク。

しかし、表面に刻印されたエメラルドの装飾(ライン)が、どこか表情のようなものを作り出している。

その表情は、どこか怒っているようにも、悲しんでいるようにも見えた。


「や、やっぱり……アンタ! なんでここにいるのよ!」


狼狽した様子のルーナが、焦りも顕に叫んだ。


「え? し、知り合いなの?」


「あ、アンタねぇ! 普通わかるでしょ!? あれは敵! リ・ヴァースからの刺客よ!」


どこか呑気な和花の言葉に、ルーナが苛立ちを滲ませながら叫び返す。


「その通り」


仮面の少女は言った。


「魔導十姫が一人、オリヴィア・ユースティティア。序列は九位、陛下から与えられた銘は【刀】。


 ……それでは、お手合わせ願いたい」





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