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僕は黒幕になりたい〜戦うヒロイン育成計画!〜  作者: 少林 拳


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第十九話 マギア・ローズ


「もうっ! ルーナってば、ひどいよ!」


「うっ……。わ、悪かったわよ! 朝ごはん、全部食べちゃって……」


「それもだけど! 一日中、話しかけて……くれるのは嬉しいけど、授業中はやめてよね!」


「もう! ごめんって言ってるじゃない!」


朝食をルーナに横取りされ、ぷんぷんと腹を立てている和花だったが、彼女がご立腹なのはそれだけが理由ではなかった。ただでさえ、寝不足と朝食抜きで朦朧としているところに、あちこちに目をやっては話しかけてくるルーナのおかげで、授業に集中できないわ、先生に指名されても答えられないわで、クラスメートにも心配される有様であったのだ。


世界中あちこちを逃げ回っていたルーナは、その見聞こそ広いものの、それはあくまで知識として。

和花にとっては日常である学校生活についても、ルーナにとっては未知の世界だったのである。


だからこそ、和花も一生懸命ルーナのために答えてやっていたのだが、何事にも限度がある。

周囲にルーナの姿が見えていないとはいえ……いや、見えていないからこそ……ルーナとの会話には、かなり気を遣う。虚空に向かって話しかけている姿を見られたりすれば、中学生にもなってイマジナリーフレンドと会話をしている可哀想な少女に見えること請け合いである。かといって、目をキラキラさせて話しかけてくるルーナのことを邪険にすることも和花にはできず、今日の彼女は友人たちから「独り言の多い子」認定されてしまう羽目になった。


とはいえ、和花も本気で腹を立てているわけではない。

短い付き合いとはいえルーナのことは大事な友人だと思っているし、最初はツンケンしていた彼女が不器用なやり方で距離を詰めようとしているのだということくらいは、和花にも分かっていた。

そして、ルーナも和花の気持ちに甘えているからこそ、照れ隠しのように謝っているのだった。


そんな調子で一人と一匹(?)がわちゃわちゃと帰路についていた、その時。



「――ッ! 来たわ!」


「……へっ?」


突然のルーナの裂帛に、目をぱちくりとさせる和花。

そんな様子の彼女に、ルーナはもどかし気に叫ぶ。


「だから! 奴らよ! この近くにいる!」


「えっ!? この間の……レヴィアさん? が、また来たの!?」


「……違うわね。この気配は、きっと魔獣兵だわ」


「マジューヘイ……?」


「簡単に言えば、リ・ヴァースの雑兵よ。と言っても、物理攻撃が効かない上に身体能力が高いから、この世界の戦士たちにとっては、かなり厳しい相手かもね」


「そんな……っ! ば、場所は!?」


「ここから400m先! 行くわよ!」

「ちょ!? ちょっと待ってぇ!」





「いやぁぁぁ!」

「なに、これ……」


今年で14歳になった若葉は、友人と帰路についている途中だった。

テストだの、嫌いな教員だの、気になる男子だの……。

そんな年相応の話に花を咲かせていたところに現れたのは、全身真っ黒の怪物だった。

大きな腕を引きずって歩く姿はゴリラのようだが、その大きな口と膨れた頭部は、巨大なカエルを思わせた。

しかし、3m以上もある大きさと、不気味に緑色に光る様子から、それが野生動物などではないことは明白だ。


薄暗い路地の向こうから現れた「それ」を見て、友人は腰を抜かしてしまっている。

早く逃げ出したいのに、友人がスカートにしがみついているため、走って逃げ出すこともできない。

それに、大切な友人を置いて逃げ出すことも憚られた。


「ゲッ! ゲッ! ゲッ!」


「ひ……」


ガマガエルのような皺がれ声で笑うように鳴く「それ」。

とうとう数m先にまで接近してきたそいつを、若葉は呆然と眺めていることしかできない。


「それ」は口元を醜く歪め、観察するように若葉を見る。

そして次の瞬間「それ」は……後ろ足を撓めて、若葉めがけて飛びかかってきた!


「きゃ――! ……へっ?」


「させないよ!」


「ゲェ……ッ!」


思わず悲鳴が口を突いて出るが、思いがけないことが目の前で起こり、若葉は思わず目を白黒させた。

飛びかかってきた怪物の前に、別の人影が割り込んできたかと思うと、「それ」が弾き飛ばされたのである。


その人影は、桜色の装束を纏った少女であった。

メタリックながらもふんわりと広がるスカートに、頑丈そうな手甲。

そして、衣装と同色に染め上げられた、美しく結い上げられた髪。



反射的に友人の方を見るが、彼女は相変わらず若葉のスカートにしがみついている。

それじゃあ、この人は……?


「ゲェェェーーッ!」


「おりゃーーっ!」


「ゲェェェッ!?」



再度飛びかかってきた怪物に、どこか可愛らしい掛け声で拳を突き出す、桜色の少女。

その細腕から繰り出されたとは想像もできないほどの威力で、3m以上もある怪物の巨躯が吹き飛んでいく。

数回バウンドした後、完全に動かなくなった怪物は、やがて姿を保つことができなくなったかのように、その場でドロドロと溶け出していった。

火で炙られた蝋燭のように怪物の姿は消え去り、わずか数秒後には、その場には何も残っていなかった。


若葉は、思わずその場にペタンと尻餅をついた。

いろいろなことが目の前で起こりすぎて、とうとう立っていられなくなったのである。


友人と帰宅途中に黒い怪物に襲われかけたところを、今度は桜色の少女に救われた。


言葉にすればそれだけだが、現実感がなさすぎて、まるで白昼夢を見ているかのようだ。

しかし、目の前でふわふわと佇んでいる桜色の少女の姿が、これが紛れもない現実なのだと囁きかけてくる。


「……大丈夫? 怪我はない?」


「はっ! はいっ!」


茫然自失といった様子の若葉に向けて、とうとう件の少女が話しかけてきた。

混乱の極みにあった若葉は、そう返事を返すことしかできない。

若葉のスカートに縋り付いていた彼女の友人は、驚きのあまり固まっており、再起動にはまだ時間がかかりそうだった。


「そう! よかった!」


若葉に向けてにっこりと微笑む少女は、心から嬉しそうだ。

その邪気のない姿に思わず肩の力が抜ける若葉だったが、今度はその少女がふわふわと宙に浮いていることに気づき、更なる驚きに身を包まれていた。


「魔法少女……?」


そんなふうに思わず口を突いて出てしまったのも、無理はないだろう。

それぐらい、目の前の少女の姿は、若葉が幼少期に見た特撮アニメのイメージにピッタリだったのだ。


それを聞いて、キョトンとした表情を浮かべる桜色の少女であったが、少し考え込むと、やがてコクリと頷いた。


「す……すごい! 本物だ! 本当にいたんだ!」

「無事でよかったよ! ……それじゃ!」


感動で目を潤ませる若葉に、少しだけ焦ったような表情を浮かべた少女は、ふわふわと上昇を始めた。

しかし、若葉はその少女に向けて手を伸ばす。


「あ、あの! お名前は!?」


若葉の言葉に少し考え込んだ桜色の少女は、やがてポツリと呟いた。


「……マギア・ローズ」


そして、そのままギュイン! と宙に浮かび上がると、そのままどこかへと飛んでいく。

その後もしばらく若葉とその友人は、桜色の少女――マギア・ローズが消えていった夕闇を見上げ続けたのだった。




***



一方、その頃。

いたいけな少女を魔獣兵から守った魔法少女マギア・ローズ……もとい和花は、ルーナと一緒に街の上空を飛行していた。勿論、行き先は自宅である。


「……マギア・ローズ?」


「べっ、別にいいじゃん! ちょっとぐらいカッコつけても!」


訝し気なルーナの視線に耐えきれ亡くなった和花は、ぷいと顔を背けた。

和花も既にルーナから色々と詳細を聞いているので、自分が天導衞姫という存在であることは認識している。

しかし、それとこれとは別なのだ。和花は天導衞姫なんてかわいくもない名前、ちょっと嫌だったのである。

そこで、助けた少女たちに名前を聞かれ、咄嗟に「マギア・ローズ」と答えてしまったというわけだった。


なお、マギア・ローズという名前については、かねてから「もし自分が魔法少女になったら」と妄想した時から温めていた名前なのだが……そのことを、和花は口外するつもりはなかった。

理由は簡単で、ルーナに知られるのは恥ずかしすぎるからである。


とはいえ、和花は自身で「マギア・ローズ」のデビュー戦に満足していた。

そこそこカッコいい登場ができたと自負していたからである。


助けた少女に涙ぐまれてしまった時は少し慌てたが、今回は力尽きて倒れることもなかったし、無事に敵――魔獣兵を倒すこともできた。特に、少女たちに怪我がなくて何よりだ……。


と、そこまで考えた時、和花の中にピンとくるものがあった。



「ねぇ、ルーナ」


「何よ?」


「ちょっと、寄りたいところがあるんだけど……」



少し寄り道した和花が到着したのは、とある病室だった。

勿論、今もなお意識を失ったままの和花の親友――琴音が入院している部屋である。


ルーナの【幻想】の力を借りて、病院のスタッフに見られないよう忍び込んだ和花は、そっと眠り続けている琴音の手を取った。そして、そこへ桜色のエネルギー……自分の魔素を送り込んでいく。


和花は、マギア・ローズに変身している今なら、昏睡状態の琴音を目覚めさせることができると考えたのである。

ルーナの怪我を治した時のことを、和花は感覚的に覚えていた。


あの時は上手くいったが、果たして……。


「んっ……」

「……! やった!」


琴音の身体が、ぽおっと柔らかな光に包まれていくと同時、うっすらと琴音の目が開いていく。

それを見た和花は、小さくガッツポーズをとった。


「……? 和花……?」


「ちっ! 違います! マギア・ローズです!」


「マギ……?」


「あはは……。それじゃっ!」


慌てて病室を飛び出す和花。

琴音の意識が戻ったことが看護師にも伝わったようで、「目覚めました!」「先生を呼んで!」と何やら慌ただしい声が聞こえてくる。その喧騒を背に、和花の顔は嬉し泣きでクシャリと歪んでいたのだった。


取り敢えず手元にある分はここまでです。

残りは不定期で更新していく予定です。

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