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僕は黒幕になりたい〜戦うヒロイン育成計画!〜  作者: 少林 拳


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第十八話 ルヴィアの処罰

明けましておめでとうございます。

今年もどうぞよろしくお願いいたします。

カツカツと魔皇城の廊下を早足で進むルヴィア。

しかし、その足取りはどこか重い。

それも当然のことで、今は【魔導四妃】直々に呼び出されている状況なのだ。

しかも、その目的は褒賞などではなく、おそらくは処罰。

ルーナを取り逃し、おめおめと配送してきたルヴィアに対する、糾弾の場となるだろう。


(ーーくそッ! 天導衞姫さえ現れなければ……ッ!)


相手がルーナひとりだけであったなら、ルヴィアは問題なく任務を遂行できただろう。

確かに、ライト・ヴァースでの活動限界に達していたことに加え、しぶといルーナの反撃で消耗していた。

しかし、相手は手負い。しかもルーナは実力でルヴィアに劣る。

加えてルーナは、魔導十姫の一人、それも序列二位の()()()によって呪いをかけられており、万全のコンディションとはとても言えない状態だったのだ。


それにも関わらずルヴィアが撤退してきたのは、ひとえに天導衞姫の存在による。

魔皇陛下の【神託(オラクル)】によって、その存在が明らかとなった天導衞姫。

ライト・ヴァースを守護し、リ・ヴァース勢力の侵略を阻むために存在する、まさに天敵。


その実力は未だ不明で、下手をすればルヴィアのそれを軽く凌駕していた可能性もあった。

ルヴィアは激しやすい性格ではあったが、こと戦闘面においては冷静な思考力を持っていた。

天導衞姫の出現と、その実力。そして、ルーナがそれと手を組んだという状況。

それらを報告することなく自分が撃破されてしまったら、リ・ヴァースはこの事態を把握することができなくなってしまう。そのためルヴィアは、戦闘を続行することなく、屈辱を飲んで撤退してきたのだ。


魔族特有の優れた回復能力により、傷ついた腕はすでにほとんど回復している。

しかし、桜色の天導衞姫によって蹴り砕かれた腕の痛みは、今なおルヴィアを苛んでいた。


(今に見ていろ、天導衞姫! この恨み、必ず返す!)


怒りに震えるルヴィアであったが、それも、これから訪れる処断の場を上手く切り抜けられればの話だ。


ルヴィアは息を大きく吐くと、目の前に聳え立つ第1号査問室の扉に向かって、声を張り上げた。


「魔導十姫が一人、ルヴィア・マルストゥルム! 只今参上いたしました!」


「――入れ!」


「はっ」


巨大な石造りの扉を、傍らに控えていた獣魔族の従者が、それぞれ左右へと押し広げていく。


簡素な作りの巨大な部屋と、その中央に聳え立つ豪奢な法壇。

その上から、4人の女がルヴィアのことを睥睨していた。


「さて、弁明を聞こう!」


真っ先に口を開いたのは、ルヴィアから見て左から2番目の女だった。

プラチナブロンドのショートカットの間から突き出しているのは、牛のような歪曲した角。

涼やかな蒼い目と対照的に、その巨躯は巌のようにたくましい。

吠えるような彼女の声は、ルヴィアの立たされている場所は愚か、査問室の外にまで轟きそうだ。


彼女の名前は、ジャンヌ・ポール・トロワ。

魔都の【法】を司る【魔導四妃】のひとりである。


ルヴィアは、事態を全て説明した。

幻想を操って逃げに徹するルーナに苦戦しながらも、ニホンと言う国まで追い詰めたこと。

そして……そこで覚醒した天導衞姫に撃退され、撤退してきたこと。


勿論、ルヴィアの知っていることは、四妃もおおよそ把握しているだろうが、改めて当事者から聴取したかったのだろう。


簡潔な説明であったが、【魔導四妃】にとっては十分であったようで、思い思いの反応を返してくる。


「うむ! 委細承知した!」


ここでも口火を切ったのは、やはりジャンヌだった。


「裏切り者を取り逃したばかりか、覚醒したての天導衞姫に怯えて逃げ帰ってくるなど、許し難い失態だ!」


「お、お待ちください!」


ルヴィアも必死である。

魔都の中枢である【魔導四妃】が揃ったこの会議で決定した懲罰は、まず覆ることはない。

ここで弁明できなければ、レヴィアの未来は明るいものにはならないだろう。

下手をすれば、死罪さえ有り得た。


「ルーナのやつを追っている間に、ライト・ヴァースでの活動限界を迎えかけていたのです!」


ルヴィアは叫ぶ。


「加えて、覚醒したてとはいえ、天導衞姫に一撃でこちらの外装を破壊されました! ルーナの潜伏範囲と、天導衞姫の情報! あの場は、撤退して情報を持ち帰るのが得策と判断したのです!」


「黙れ! 無様を晒したことには変わらん! 貴様は……」


「まぁまぁ。少し、落ち着いてはいかがかしらぁ?」


ジャンヌの叱責を遮ったのは、ルヴィアから見て左端に座す女だった。

彼女の名前は、エクレシア・ヴァン・レゲストラ。

【魔導四妃】の一員にして、魔都の信仰と宗教を司る存在である。

その外見は、一言で言えば妖艶。

ふわふわの栗毛、垂れ目に泣きぼくろと、どこか柔和な印象を与える彼女であったが、その目元は冷ややかだ。

魔都の宗教関連を一手に取りまとめる彼女は、法を絶対視するジャンヌと相性が悪いのである。


「いつまでも頭でっかちなことを言っていると損するわよぉ? それにぃ、逃げ帰ってきたわけではなくてぇ、報告のために撤退してきたって言ってるけどぉ? これで罰したりしたらぁ、軍規が乱れるのではなくてぇ?

……ねぇ、ジュジュもそう思うでしょお?」


言い返そうとするジャンヌを尻目に、今度は法壇の一番右端に向かって話しかけるエクレシア。

そこには、深淵から闇をくり抜いたような女が座っていた。


黒い肌に、黒檀のような髪、そして漆黒の軍服。

唯一の例外は、丸メガネ越しに光る黄金の瞳ぐらいのものだ。

いかにも厳格そうな雰囲気であるが、その瞳には確かな知性の光が宿っている。


彼女は、ジュジュ・プルトロン。

魔都における魔導十姫の管理も含めた軍事部門を、その圧倒的な戦闘力で治める女傑である。

エクレシアに話しかけられたジュジュは、丸メガネをクイっと持ち上げると、落ち着いた声で言った。


「確かに。罰を恐れて報告が滞るようでは、軍規も乱れよう」


「そうでしょお?」


しかし、ジュジュの言葉はそこで終わりではなかった。


「だが、そもそも本件は、序列三位のレイナに命じてあったはず。それをルヴィアが自ら立候補したから任せたのだ。ジャンヌが論点としているのは、そこであろう」


「然り!」


鼻息も荒く賛同してみせるジャンヌを見て、苦々しい表情を浮かべるエクレシアだったが、やがて興味を失ったかのように、自身の爪を弄り始める。

結局のところ、ジャンヌの揚げ足を取ろうとしただけで、エクレシアにとってルヴィアの進退などどうでも良いことであったのだ。


しかし、ルヴィアにとっては溜まったものではない。


「しかしながら! 申し上げ……」


「黙れ」


慌てて反駁しようとしたルヴィアであったが、黙らざるを得なくなってしまった。

これまでの3人とはまるで異なる、冷たい声が査問室に響いたために。


その声は、右から見て2番目に座る女から発せられていた。

ジュジュも黒い印象だったが、この女もまた黒い。

艶やかな黒髪も、背中に蓄えたカラスのような羽も、黒曜石のような瞳も、吸い込まれそうな黒。

ただし、こちらの肌はジュジュと正反対で、まるで雪のように白い。

絶対零度の白と、深淵を思わせる黒が織りなすコントラストが、彼女の鋭い美貌を構築している。


エルフューザ・ナープトゥルース・ペンデュラム。

魔都の行政を司る、最古の魔族の一人である。


エルフューザが発言したことにより、査問室の空気は一変した。

それは一重に、彼女の発言力が非常に重いからである。


ジャンヌやジュジュは、【魔導四妃】に就任して300年〜400年程度。

エクレシアはそれよりも古株であるが、それでも就任期間は600年程度である。


しかし、エルフューザは数千年をはるかに超える年月を魔皇陛下とともに生き、また魔神様と直接話したこともあるという、リ・ヴァースの歴史の生き証人でもある。


そんな彼女に対しては、いかに【魔導四妃】が名目上は対等とはいえ、他の3名は畏怖と尊敬の念から、特にその発言に重きを置いていた。

彼女の言葉が、実質的にルヴィアの今後を決定することになるのだ。


「ルヴィア」


「は、はっ!」


「情報を持ち帰ってきたことは、褒めてやろう」


「あ! ありがたき幸せ!」


ルヴィアは、自身のプライドをかなぐり捨てて平伏する。

どうやら、最悪の事態は避けられたようだと判断したためである。

しかし、エルフューザの沙汰は、まだ終わっていなかった。


「しかし、自ら名乗り出ておいて、この失態は、看過できぬ。今日をもって、ルヴィア・マルストゥルムの位階を降格とし、魔導十姫の第八席とする」


「な……ッ!? は、ははぁーーっ!」


一瞬、顔を上げかけたルヴィアであるが、他3人から殺気にも似た強い視線を受け、再度首を垂れた。

魔導十姫の第七席という誇りを奪われ、屈辱に顔が歪むが、絨毯に顔を押し付けてそれを誤魔化す。


「同時に、現在の第八席を七席へ繰り上げよ」


「承知した」


エルフューザの言葉に、魔導十姫の管理を担うジュジュが首肯する。

これで名実ともに、ルヴィアは魔導十姫の位階序列を交代させられたことになる。


「それでは、これをもって閉廷とする! ルヴィア・マルストゥルムよ、退廷せよ!」


「……はっ」


ジャンヌの声が轟き、ルヴィアが査問室を退廷する。

魔都の中枢たる4人に背を向ける彼女の顔は、憤怒と屈辱に歪んでいた。


「くそ……ッ! 天導衞姫めッ! この恨み、決して忘れはせんぞ……ッ!」



***



「……それでぇ? どうするのぉ?」

「知れたこと!」

「うむ。違いない」


「魔皇陛下のご指示を仰ぐ。次の【神託】が降りるまでの間に、ルーナめの潜伏範囲を絞り込め」


「はぁい」

「承知!」

「了解した」


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