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僕は黒幕になりたい〜戦うヒロイン育成計画!〜  作者: 少林 拳


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第十一話 変身

闇の中。

しばらく夜道を走っていた和花は、ようやく彼女を見つけた。

ぼんやりと淡い金色の光を放つ姿は、遠目からでも見間違いようもない。


「――ルーナ! 大丈夫!?」


慌てて駆け寄ってみれば、彼女は、初めに会った時とは比較にならないほど酷い有様だった。

身体の半身がひどく焼け焦げ、前足が変な方向に曲がっている。

それだけでは飽き足らず、その小さな背中には深い切り傷が走っていた。

そこから、ダラダラと際限なく血液が溢れ出してきている。


「こんな……酷い! ルーナ! ルーナ! 返事をして!」


「……ぐぅ」


「ルーナ!? 生きてるんだね!」


ここで、ようやくルーナは弱々しく目を開けた。

やがて、うつろな視界の中に和花の姿をとらえると、驚愕から大きく目を見開く。


「――な!? バカっ! なんでアンタがここにいるのよっ!」


「よかった、まだ意識はある! 待っててね、今、救急車を……」


安堵と焦りとで混乱していた和花は、動物に対して救急車を呼ぼうとしているようだ。

だが、そんなことはどうでもいいとばかりに、ルーナは絶叫した。


「今すぐ失せなさいっ! 助けなんかいらないからっ!」


「そ、そんなわけないじゃん! こんなに酷い怪我をしてるのに!」


「この、分からず屋……!」


和花と言い合っていたルーナは、次の途端、その表情をこわばらせた。


――まるで、何かに気が付いたかのように。


「……もういいっ! とにかく、ここから逃げなさいっ!!」

「だめだよ! 怪我してるもん!」

「この馬鹿! 私は、アンタのために……!」




「――ここにいたのか」




その声は、ルーナの声ではなかった。

もちろん、和花のものでもない。


先程までここにいなかったはずの、第三者によるものだ。

冷たく硬質な、女の声。

それも、その声は上空から発せられていた。


弾かれたように、一人と一匹は、すっかり夜の帳が降りた暗い空を見上げた。



そこには、女が浮かんでいた。

年のほどは、和花よりも少し上ぐらいだろうか。

高校生か、いっても大学生ほどだろう。

顔立ちはややキツめだが、かなりの美人だ。

身長は160cmと少し。それに加え、かなり整ったプロポーションでもある。

モデルや女優として、テレビに出ていてもおかしくないほどの女の子だった。

しかし、それ以外の装いが、彼女を恐ろしく、艶かしく、そして――ひどく邪悪に見せていた。


真紅の長髪を夜空に棚引かせ、こちらを睥睨する少女。

髪と同じ紅の軽鎧を纏っているが、頑丈そうなガントレット、レガース、ブレストアーマー、赤く輝くバックル、それから腰に提げた軍刀を除けば、軽く広がったメタリックな素材のスカートや、肩口の空いたデザインのドレスなど、およそ戦闘には似つかわしくない装いであった。

また、街中で見かけるような格好でもない。

和花も、彼女が空中に浮かんでいなければ、単に色気のあるコスプレーヤーだとでも思ったかもしれない。


だが、もちろん違う。

これまで荒事とは無関係に過ごしてきた和花にも、頭上で滞空している紅い少女が放っている異様な雰囲気は、はっきりと感じ取ることができた。

そればかりでなく、彼女のこめかみから突き出した巨大な巻き角や、ガーネットのように輝く瞳、背後に広がるコウモリのような翼、そして形のいい尻から飛び出したトカゲのような長大な尾が、彼女を人間ではなく、もっと別の、より恐ろしい存在だと告げていた。


「随分と手こずらせたな。……コソ泥めが。国家反逆罪だぞ。この【魔導焔姫】が直々に処断してやろう」


「誰が、大人しくやられるもんですかっ!」


「威勢のいいことだ。畜生に身を落としてまで、よく吠えるな」


「……ウルサイわねっ! アンタたちが、私をこんなにしたんじゃないっ! 戻しなさいよっ!」


「ふん。馬鹿か、貴様。戻すわけがないだろう? 獣程度の貴様には、その姿がお似合いだ。……それに、呪いをかけたのは私ではない。どうにかしたければ、ヤツに相談するのだな。まぁ尤も、そんな機会はもうないだろうが」


「くうっ……!」


悔しげな顔をするルーナを、轟然と見下ろす紅い少女。

やがて、その視線はルーナから、その側にいる和花へと移った。

その表情の中に、はっきりと侮蔑の色が混じる。


「――それに、なんだ、その猿は? 貴様、魔族としての矜持も失ったか。ヒト如きに守ってもらうなどとはな。情けなくて、涙が出るわ」


「違うわよっ! こいつは無関係なんだから! ……さっさと消えろ、人間!」


地面に倒れたまま、和花に向かって乱暴に叫ぶルーナ。

そんな彼女に対して、反射的に和花は叫び返した。


「……できるわけないでしょ!? あの人がなんなのか分からないけど、このままじゃ殺されちゃうんでしょ! 見捨てていけるわけ、ないじゃない!」


「バ……っ!」


「――やはりな。そいつが、貴様の現地協力者というわけだな。安心しろ。そいつごと、焼き払ってやる」


「――なんでよっ! 関係ないって、いってるでしょ!」


「どちらでもいいことだ。わざわざ逃してやる義理もなかろう」


「このっ! ……アンタねぇ! さっさと空気読んで、どっか行きなさいよ!」


「だから、そんなことできないって……!」



「五月蝿いぞ、消えろ。――《獄炎(インフェルノ)》!」


言い合いを続ける和花とルーナ。

直後、その頭上から、巨大な火炎が激流となって降り注いだ。

それは、恰も瀑布の如く。

闇夜に真紅の閃光が瞬き、一瞬にして周囲が昼間のような明るさへと変わる。


空から降ってきた火柱が、周囲にあった建造物ごと空間を焼き払い、和花たちを飲み込んだ。

あまりの熱にコンクリートが融解して赤く熱を放ち、吹き飛ばされた建造物の破片と灰燼が、雪のように辺り一面を覆い尽くしていく。


しかし、宙に浮かんでいる少女の顔は無表情である。

自分が引き起こした惨状を見ても、なんとも思っていないかのようだった。


実際、この程度の攻撃は彼女にとって何でもなかった。

極端に魔力の薄いこの世界においては、多少の負担はかかるものの、炎の魔術に対して高い種族適正をもつ彼女ならば、《獄炎》の1発や2発ならどうということもない。


だが、紅い少女の顔には、達成感や愉悦の色はなかった。

それどころか、油断せずに眼下の凄惨な光景を眺めていた。

まるで、少女たちの生存を確信しているかのように。


普通に考えれば、ルーナはおろか、和花までもが形すら残らないだろう。

実際、周囲の建物は高温と爆風とで完全に破壊されており、そこには生命の気配はない。


だが、しばらく時間が経過し、視界が晴れてくるにつれて、紅い少女の確信は間違いではなかったと分かる。

濛々と立ち込める粉塵と煙の中からは、傷ひとつついていない和花と、苦しそうながらも無事な様子のルーナが現れたのだから。



「――やはり、このぐらいは防ぐか。とはいえ、往生際の悪いことだな」


「……はぁ、はぁ……。アンタの、攻撃……ちょっと、ヌルいんじゃないの? はぁ……」

「……あまり、図にのるなよ。裏切り者の、ゴミ虫めが……!」


和花は、ぎゅっと閉じていた目を開けた。

周囲は、頭上の紅い少女の攻撃によって、ひどい有様になっていた。

瓦礫と灰とが周囲に降り積り、所々に赤熱化した箇所や燃え移った火などが瞬き、夜空を煌々とを照らしている。

しかし、和花を含めたルーナの周囲3mほどは、完全に無傷だった。

どういう仕組みでそうなったのかまでは分からなかったが、ルーナが和花のことも守ってくれたのだろうということは、そんな彼女にも容易く想像がついた。


しかし、ルーナは疲弊しきっているようだった。

今の一撃を防ぐのに、かなり力を使ってしまったらしい。

そのうち息も絶え絶えといった様子で、地面に倒れ伏してしまった。


「ようやく力尽きたか。これで、ようやく……」


地面に降下しようとしかけていた少女は、その動きをピタリと止めた。


和花が、ルーナを庇うように抱き上げて、こちらを見上げていたからである。


「邪魔をするな、能無しの猿め。そいつの身体は、お前ごと焼き尽くすわけにはいかん。この裏切り者を、生きたまま本国に持って帰らねばならんのだ。盗み出されたものも、どこに隠してあるのか聞き出す必要がある」


「させない。絶対、ルーナは渡さないよ」


和花の毅然とした言葉に、紅い少女は顔を歪める。

それを聞いたルーナが、和花の手の中でぐったりとながらも、弱々しく呻くように言った。


「アンタ……バッカじゃないの……さっさと、どっか行きなさいよ……!」

「――できないよ。ルーナを置いて、逃げることなんて」

「アイツに、殺されないと……思ってるなら……! それは、間違いよ……!」

「思ってないよ、そんなこと。――でも、できないんだもん。私には、できない」

「なんなの……なんなのよ、アンタ……!」


その時、痺れを切らしたように、頭上の紅い少女は、二人の会話を断ち切った。


「――もういい。私の前から消えろ、人間!」


引き抜いた軍刀を煌めかせ、その両翼で急降下する、紅い少女。

和花は、ルーナを抱き抱えた手に力を入れると、毅然とした表情で相手を見返した。


軍刀が和花の首に迫った、その時である。


「――何ぃ!?」

「――はあっ!?」


バチィィィィィィッ!!


軍刀が、紅い少女ごと弾き飛ばされる。

空中で僅かに体勢を崩した少女は、憎々しげな表情の中に確かな驚きを込めて、和花を見返した。

腕の中のルーナも、大きく目を見開いて、和花を見上げている。

その表情は、一人の向こう見ずな小娘のものではなかった。

それは、まるで……。


「――させない。私の目の前では、もう、誰も、傷つけさせないっ!」


一方、和花はというと、強烈なデジャブを感じながらも、どこかこうなると分かっていた自分に驚いていた。


死なないなどとタカを括っていたわけでは、もちろんない。

今も怖くて、足が震えている。

心臓は気持ち悪いほど激しく脈打ち、今にも気を失いそうだ。

それでも、引くわけにはいかなかった。


――ルーナを、守る。


琴音には守ってもらった。

ならば、自分だって!



驚愕する周囲を他所に。

和花の右手が、彼女の想いに呼応するように、光を放ち始めた。

溢れ出すのは、濃い桃色の光。

和花を守るように周囲を囲う、濃密なエネルギーが空間を焼く。

それらの全ては、手の甲に刻まれた紋章から溢れ出ていた。

四葉が環形に並んだ、白い紋章である。


頭上の紅い少女が、衝撃に喘ぐ。


「――《邪痕(スティグマ)》だと……!? いや、これは……《聖痕(スティグマ)》……!? ――そうか、貴様ッ!!」


「――アンタ、まさか……!!」


しかし、和花は周囲の驚きの声に耳を貸している暇はなかった。

手のひらに浮き上がってきた紋章を見た瞬間、曖昧だったあの「事故」の記憶が、一気に鮮明に蘇ったからである。和花は全てを思い出した。怪物から自分を守ってくれた琴音の姿も。


――いつまでも守られているわけにはいかない。


あの時の大怪我をした琴音と、ボロボロにされたルーナとが重なる。

そして、「怪物」と、夜空に浮かぶ紅い少女も、また。


感情に突き動かされるまま、和花は叫んだ。


「私が、守るっ!! 貴女も、琴音も……!!」


和花からほとばしる光は荒れ狂い、一層その勢いを増していった。

風も吹いていないのに周囲の砂塵が巻き上げられ、和花の衣服や髪が激しくたなびく。



その時、和花の腕に抱かれていた傷だらけのルーナが、弱々しく声を上げた。


「――ノドカ……! これを、使いなさい……っ!」


――ルーナから差し出されたそれは、一見すると、小型の電子機器のようだった。

某メーカーの電話とパソコンとが一体化したデバイスを思わせるが、それよりも頑丈そうで、一回り大きい。

それに液晶画面もない。和花が受け取ると、ずっしりとした金属質な重さを掌に感じた。


全く見慣れない道具だったが、和花はそれに見覚えがあった。

ついさっき上空を見上げた時、真紅の少女が腰につけていたバックルにそっくりだ。

あれは赤かったが、ルーナが差し出してきたそれは無機質な灰色である。


「腰に当てて!」


その言葉に従って、慌てて和花はルーナから手渡されたデバイスを腰に当てた。

すると、即座に光の粒が集まって、ぐるりと和花の腰回りに巻き付いていくではないか。


次の瞬間には、そのデバイスはベルトのような形になって、和花の腰に装着されていた。

それを見た和花は、思わず目を丸くする。


「うわわっ! ナニコレ!?」


それだけでなく、和花の手には、いつの間にか一枚のカードが握られていた。


紙製ではない。

ひんやりとした硬質な感触を返してくるそれは、高価な金属製のクレジット・カードにも似ている。

違いは、そういったカードと比べてやや分厚く感じることと、のっぺりとした灰色で、表にも裏にも、何も書かれていないことぐらいだ。



それを見た真紅の少女が、慌てたように叫ぶ。


「――させるかッ!」

「ああもう、ウザいのよっ! ――【魔払結界(アンチサークル)】!」

「……ちぃッ! 邪魔ばかりしてくれるなッ!」


突進してきた紅い少女が、ルーナの放った「何か」に阻まれて、空中でジタバタともがく。

それを確認するや否や、ルーナは和花に向かって叫んだ。


「長くは保たないわ! 叫びなさい! 符号(コード)は……」


「――大丈夫。わかるよ。理由はわからないけど……私、知ってる!……《機構(システム)認識(リーディング)》!」

「なっ!?」


驚くルーナに構わず、和花は叫ぶ。


「《光よ(ライト・アップ)》!」


和花の一言に、彼女の周囲を浮遊していた濃いピンク色のエネルギーが、轟々と音を立てて渦を巻く。

そして、腰に装着したデバイスもまた、じわじわと同じ色へと変化していった。

今は元の無骨な灰色から、美しいプラチナピンクへと変化しており、柔らかな美しい光を放っている。


和花の手に出現していたカードも同じだ。

いつの間にか、その色はバックルと同じプラチナピンクへと変化していた。

それだけでなく、表面には、先ほどまでは無かった四つ葉の紋章が刻印されている。

それは、和花の手の甲に浮き出ていたものと同一のもの。


明らかに不自然な光景ではあるが、和花はそれを当然のものとして受け入れた。

そして、それを不思議に思うことも、また無かった。


「《魔素(マギ・マテリアル)収束(パイル)》!」


周囲で唸りを上げていたピンク色の粒子が、和花の身体へと集まってくる。


「《装束(バトルドレス)展開(スプレッド)》!」


収束した光の粒が、和花の身体を暖かく包んでいく。

まるで絹で出来た、柔らかいベールのように。


そして……。


「《変 (トランス・カード)》!」


和花が手にしたプラチナピンクのカードを、腰のバックルに装填する。

カシュン!! という小気味の良い音が響き、激しくベルトが発光した。


やがて、その凄まじいエネルギーの本流は、和花の身体に纏わり付き、形をとって具現化し始めた。


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