第百一話 僕はちょっと休憩したい
「僕」視点です。
「よーしよしよし! いい感じだね!」
僕は道化師の格好のまま、自室のソファに倒れ込んだ。
最高級の素材で作られたそれが、柔らかく僕の身体を支えてくれる。
いやー最近は働き詰めでね。
時にはこういう休憩時間も重要なのさ。
特に先日の一件……動物園での戦いでは、結構張り切ったしね。
俺の身体はボドボドだ!ってな訳よ。
別にお前の身体じゃないだろって?
確かにこれは僕自身の身体じゃない。
そもそも僕に身体と呼べるものはない。
とっくの昔に肉体という枷を脱ぎ去っているからね。
だから道化師の身体も、いわば遠隔操作用の端末に過ぎない。
でもさぁ、どうしても精神的な疲労は溜まるんだよね。
特に七海ちゃん関連の調整には細心の注意を払っていたから、余計に疲れた。
そう、七海ちゃんだ。
「ふふ……」
思わず笑みが漏れる。
今回の一件で、魔法少女たちは新たな仲間を得た。
それがオレンジの魔法少女……マギア・メープルだ。
実のところ、五人目の戦乙女が誰になるかは、僕にもなんとなく分かってはいた。
だって、考えても見てほしい。
和花ちゃんのお友達グループ五人組のうち、既に四人が魔法少女なんだよ?
これで七海ちゃんがハブだったら、ちょっと可哀想じゃないか。
まぁ、理解のある現地協力者役とか、日常生活を彩る友人役とか、そういったポジションにつく可能性もあったけどね。とはいえ、寂しがりやの七海ちゃんなら、こういう結果になると踏んでいた。
実のところ僕は、誰が魔法少女の仲間になるかについて、無理に干渉するつもりはない。
もちろん、ある程度の構想はあったよ。
例えば、わざとルーナちゃんに裏切らせたり、リブちゃんを光堕ちさせる仕込みをしたりね。
そういった下準備はいくつかしていたけれど、最終的には成り行きに任せることにしている。
だから、主人公の親友枠とはいえ、クールビューティの琴音ちゃんが魔法少女になった時はびっくりしたし、ヤンキー少女の美香ちゃんが仲間になった時は、もっとびっくりした。
もちろん、ヤベー奴が仲間にならないように、最初の選別の時点でクズは弾いている。
そういう意味では、あの学校に集められた生き残りの子たちは、誰もが魔法少女になる資格があるとも言える。
だから、あの中で誰が魔法少女になるかは、僕にも分からない。
和花ちゃんが誰と友誼を結ぶか、それ次第ってわけ。
でもまぁ、こういう不確定要素が面白いんだけどね。
計画通りなのは喜ばしいことだけど、何もかも思い通りに進んでちゃ詰まらないだろ?
その気になれば、僕は登場人物たちの思考を自在に操れる。
だけど、そんなの人形遊びと変わらない。
彼女たちがどういうドラマを見せてくれるかは、完全に彼女たち次第だ。
そういう意味では、僕はイレギュラーな出来事を好んでいるとも言える。
あ、僕の計画を崩壊させるぐらいのイレギュラーはノーサンキューだよ?
……マジでノーサンキューだぞ。絶対だぞ!
話を戻そう。
僕は七海ちゃんが新たな仲間になると踏んでいた。
和花ちゃんとも友達同士だし、七海ちゃん自身も魔法少女に憧れている。
あのままいけば、特にトラブルもなく魔法少女になっていただろう。
だからこそ……僕は、その邪魔をすることにした。
一見、矛盾しているように聞こえるだろう。
でも、これはとても重要なことだったんだ。
だってさ、何の障害もなく魔法少女になるなんて……。
……面白みに欠けるよね?
僕が見たいのは、何の力もない少女が試練を乗り越えて覚醒するという熱い展開だ。
それなのに、とんとん拍子で魔法少女に変身されたら、見るべきドラマがなくなってしまう。
そこで、僕の方で盤面に干渉してあげたわけ。
具体的には、和花ちゃんと一時的に仲違いさせた。
ピンチを乗り越えて仲直りすることで、関係性が一層強固になることがあるだろう?
わざと仲違いさせることで、熱い友情ドラマを楽しめると思ったんだ。
といっても、やり過ぎは不味い。
マジで絶交とかになったら、見ているこっちがいたたまれないからね。
つまり、ガチ喧嘩をさせることなく、二人の心の距離を空けさせたかったわけ。
でも和花ちゃんのメンタルは安定しているし、何より友達思いだ。
優しい彼女なら、大体のことは許してしまうだろう。
よって、揺さぶりをかけるなら七海ちゃん一択。
実際、七海ちゃんのトラウマを刺激してやれば簡単だった。
それがスカイタワー水族館の一件である。
なんで七海ちゃんのトラウマを把握しているかって?
そりゃ、彼女にトラウマを植え付けたのが僕だからだよ。
僕は、最初に行った選別について、全てのケースを記憶している。
あ、選別っていうのは、僕が主導して行った全国ヒロインオーディションのことね。
主人公は和花ちゃんで決まったわけだけど、ユニットを組むなら仲間も必要だ。
もう一度オーディションを行うのはちょっと大変だから、そうなると自然と選別の生き残りから仲間を探すことになるわけ。つまり、僕は生き残りの子たち、全ての情報を把握している。
その中でも、七海ちゃんのケースは印象深かった。
もちろんギャル二人組だったってのもあるけど、それだけじゃない。
七海ちゃんと当時の親友ちゃんは、とても仲が良かった。
学校でもベッタリだったし、普段から距離も近くて、見ていて非常にてぇてぇ感じだった。
だからこそ選別の対象としたのだが……。
いやぁ、親友ちゃんがあんなにクズだとはね。
まさか、魔獣兵の前に七海ちゃんを突き飛ばすとは思わなかった。
要するに、七海ちゃんのことを囮にして逃げようとしたわけ。
てぇてぇ感じだったのに、そんなことするんだ……と唖然とさせられたよね。
あまりに解釈不一致だったものだから、逃げ出した親友ちゃんは魔獣兵に食わせちゃった。
最大限の苦痛と恐怖を感じるように、生きたまま、ボリボリとね。
後悔はしていない。僕を不快にさせたのが悪いよね。
まぁ、そんなわけで。
この経験から、七海ちゃんは「置いていかれること」にトラウマを抱えることになった。
まぁ、親友だと思っていた人に裏切られた挙句、目の前で生きたまま食われるのを見たらそうもなるよね。
……あれ?
これ僕のせいじゃなくない?
七海ちゃんを裏切ったのは親友ちゃんだし、その親友ちゃんを食ったのは魔獣兵じゃん。
うん、僕は悪くないな。
ともかく、七海ちゃんが「置いていかれる」ことを恐れているってことは、僕も把握していたわけ。
それを刺激してやるために、水族館で彼女をひとりぼっちにする必要があった。
まずは美香ちゃんの妹に仕込んだウィルスを起動して発熱させた。
そうすれば美香ちゃんも一緒に帰宅せざるを得ない。
ここで琴音ちゃんも釣れたのは大きかった。一気に二人が離脱。
で、タイミングを見計らって怪人を投入。
あの時、出撃可能だったのはリブちゃん……つまりコスモスだけだ。
直ぐに戻ってこられると困るので、スピード特化のコスモスと相性の悪いアルマジロ怪人を配置。
自然な流れで長期戦に持ち込ませた。
そうなれば、あとは和花ちゃんと七海ちゃんだけになる。
(まぁルーナちゃんもいたけど、姿を隠しているからノーカウントで)
あとは機を見計らって僕が暴れればいい。
もちろん、和花ちゃんは出撃せざるを得ない。
すると水族館には可哀想な七海ちゃんだけが残るってわけ。
まぁ、僕が和花ちゃんと戦いたかったってのもある。
道化師として会うのは初めてだったからね。
ついつい張り切ってしまった。
それに、これは伏線でもある。
最近は魔法少女サイドも慣れてきて、一般怪人との戦いもスムーズにこなせるようになっている。
もちろん、ルヴィアちゃんとかの戦いを通じて、きちんと敗北も味わせているよ?
でも、ルヴィアちゃんは強敵だけど、決して勝てない相手ではない。
今後は怪人も強化していくつもりだし、魔導十姫の上位層や、四天王枠の魔導四妃なんかも残っている。
だからこそ、圧倒的な強者たる道化師と戦わせて、危機感を煽ろうとしたのさ。
まぁそんなわけで、和花ちゃんと七海ちゃんを一時的に仲違いさせることに成功。
でも友達思いの和花ちゃんはそれを良しとしない。
直ぐに関係修復に動くだろうっていう読みは見事的中。
想像通り、二人は動物園に出かけることになった。
ここで僕は少し悩んだ。
どんな怪人なら丁度いいかってね。
弱すぎると琴音ちゃんたちが直ぐに倒しちゃうだろうし、逆に強過ぎたら和花ちゃんも出撃せざるを得なくなる。
この段階で出せるレベルの敵だと、その辺の塩梅が難しい。
そこで、僕も出撃することにした。
魔法少女たちは僕が足止めし、怪人には七海ちゃんを襲ってもらう。
こうすることで、何か面白いドラマが見られるかもって思ったわけ。
えっと……ティーグルだっけ、あのカス。
あんなどうしようもないやつでも、流石に撤退している最中に人間で遊んだりするほど愚かじゃない。
……愚かじゃないよね?
まぁ、そう思ったから、ちょっとだけ身体に働きかけて、狩猟本能を刺激してやった。
ついでに七海ちゃんの隠れている場所まで誘導してやったりもした。
こうなれば、自然と七海ちゃんはトラカスとぶつかることになる。
最初は、七海ちゃんの目の前で和花ちゃんが変身するっていうパターンを考えていた。
目の前で友人が魔法少女に変身!
え、貴女が魔法少女だったんだ……!
みたいな展開が見てみたかったんだよね。
で、強い怪人VSマギア・ローズに持ち込む。
あのカスが強い怪人かどうかは議論が分かれるところだけど、最悪ローズを弱体化させるか、カス怪人を理不尽強化するかして、彼女を劣勢に追い込む。
そこで和花ちゃん……つまりローズを守るために七海ちゃんが覚醒!みたいな流れを想定していた。
だからこそ、和花ちゃんが身を挺して飛び込んできた時は焦ったよ。
彼女は回復魔法を使えるんだから、変身してから傷ついた七海ちゃんを回復させていても間に合ったんじゃないかな。
それなのに、反射的とはいえ、生身のまま友達を庇うなんて……。
やっぱり彼女は、ある意味では狂人である。
だからこそ、メインヒロイン足り得るんだけど。
まぁそんなわけで、全ては七海ちゃんに託された。
ここで無様を晒すようなら、ここで彼女を退場させることも検討していた。
例えば、傷ついた和花ちゃんを放置して逃げ出すとかさ。
でも僕の目論見通り、七海ちゃんは勇気を示してみせた。
うんうん、これだよこれ。
僕が見たかったのはコレなんだよ!
そんなこんなで、魔法少女たちは新たな仲間を得たってわけ。
実際のところ、七海ちゃんは非常に素晴らしい素質を秘めていた。
だってギャルだよ?
ギャルが魔法少女に変身する展開って燃えるよね。
武器がでっかい棍棒っていうギャップもいい。
それに友達思いだ。ここ大事。
教育ママの影響で友達の少なかった七海ちゃんは、友情に飢えていた。
前の学校でも、当時の親友ちゃんとベッタリだったし。
まぁその親友ちゃんに裏切られたんだけど、今度は和花ちゃんっていう新たな友人を得て、完全に持ち直した。
今後は彼女も含めて、てぇてぇ感じで新たな物語が進んでいくだろう。
実のところ、次の仕込みはもうしてある。
六人目の魔法少女についてはアタリをつけているし、七人目についても目星はついている。
あとは、どういうふうに僕が楽しめるようにしていくかだ。
そんなふうに、今後の展開について思いを巡らせていた時だった。
コンコン、とドアをノックする音がした。
何だろう? 誰か来たのかな。珍しい。
「道化師様、いらっしゃいますか」
魔皇城の召使いだ。
一体なんの用事だろう。
僕が返事をすると、召使いは要件を告げた。
「道化師様、第一号査問室までお越しください。魔導四妃の皆様がお呼びです」
まさかの呼び出しだと!?




