毎日は手作りだよね
「一塁、二塁、三塁、四塁??」
「四塁はないよ、本塁!!」
昨日の晩のうちに図書室で調べておいて良かったな、と僕は内心ほっとしながら呆れ顔で指摘する。
ゆらぎが笑った。手には古びたラインカー。
中身は石灰じゃなく、粉々にした貝殻を混ぜた白い砂。
「海まで行って拾ってきたの。どう? ちゃんと白いでしょ?」
僕は無意識に頷いた。
「海なんて近くにあったっけ?」
「うん!でも危ないから私が取ってきてあげるね!」
「危ないなら尚更着いてくよ?」
「そうだね!じゃあ次はゆらぎ姫をエスコートしてくれる?」
「姫様かぁ、その割には、僕のバットが掠りもしない豪速球をお持ちですこと」
彼女の笑顔は、午後の光に溶けているみたいだった。
僕も少し笑って、それ以上何も言わなかった。
ゆらぎは本気だ。
甲子園を“作る”ことに、何の疑いも持っていない。
僕は、彼女がそう言えば、それを信じる。
信じる以外の選択肢を、僕は知らない。
「ねえ」
彼女が呼んだ。
「この世界って、たまに音が止まる気がしない?」
「音が?」
「うん。風の音とか、鳥の声とか。全部、急に」
僕は耳を澄ます。
次の瞬間、どこか遠くでカラスが鳴いた。
「ほら、大丈夫。ちゃんと聞こえる」
「そっか」
ゆらぎは少しだけ微笑むと息を吸い込むと大きく振りかぶった。
彼女が空に向かって投げたボールは、
まるで時間の止まった映像みたいに、ゆっくりと上がって、
そして、落ちてきた。
僕はそれを受け取った。
指先に伝わる冷たさが、少しだけ痛かった。
「ねえ、明日ピッチャーマウンド作るから手伝って」
「うん」
「作るよ!本物の甲子園」
「アイアイサ」
ゆらぎは満足そうにうなずき、白線の端を指でなぞった。
「じゃあね、今日はもう帰ろ」
「うん、また明日」
そう言い合って、僕らは校舎へ戻る。
廊下の奥で、誰かの話し声がした気がした。
でも、振り返っても誰もいない。
夕陽が窓を照らして、ガラスの向こうの街を黄金に染めている。
僕は何も言わずに靴を履き替えた。
そのとき、靴箱の上の古い黒板に、
白いチョークでこう書かれているのが目に入った。
『夢の舞台まであと三日!!』
そんなこと、誰が書いたんだろう。
僕はふとゆらぎを見る。
彼女は靴を履きながら、そっと僕に言った。
「ねえ、私たち、ちゃんと間に合うよね」
彼女の声は、静かな祈りのようだった。
どなたか読んでくれてる人がいるようでありがたいです




