永遠なんてないとおもうよ
『ゆらぎを甲子園に連れてって』
彼女は両手を空に掲げ、僕に背を向けそう言い放った。
やたらと眩しい夕焼けが空を鮮やかなオレンジ色に染め上げ、その眩さは彼女のねだる様な、それでいていたずらな笑顔をより一層魅力的に写していた。
制服の袖は日焼けしてほつれ、少しみすぼらしいと言ってもオーバーではないその制服を彼女はとても気に入っていた、まるで子供がオンボロのぬいぐるみをずっと抱えてる様に、ライナスの毛布のように。
「また始まった」
「甲子園なんて、もうないよ」
僕は空を見上げて言う。
昔の地図で見た兵庫のあたりは、今はもう海の底だ。だけど、ゆらぎは頬をふくらませて、少しだけ笑った。
「じゃあ、作ればいいじゃん」
「何を」
「甲子園を」
その声の冗談のような軽さと、真剣な眼差しは今この世界に存在する人間の意志の中で1番強いんじゃないか、ってそんな事すら思わせてくれる。
僕は二つ返事で同意したい気持ちを抑えて彼女に一言告げた。
「野球できるの?」
僕らは次の朝、通っている高校に向かった、高校と言っても名ばかりの教師が2人、生徒は全校で7人らしい、僕自身そこに足を踏み入れるのは久しぶりで、その事は彼女が教えてくれた。全員集めればなんとか1チーム作れるか、なんて事を考えていた。
風が通り抜ける。
ずっと遠くでドローンが瓦礫を運び、廃墟の影を長く引きずっている。
この世界は、もうすぐ終わる。誰もが知っている。
でも僕たちは、その話をしない。
「ねぇ、バットってまだある?」
「体育倉庫見てくるよ」
こんなご時世でもご丁寧にに扉の鍵と南京錠で二重に施錠してあるガラクタ置き場を見渡すと端のところに更にご丁寧に並べてあるバットを掴みまじまじと眺めた。
「めっちゃ錆びてない??」
「それでいいじゃん。ね、練習しようよ」
「誰と?」
「私と」
そう言って、ゆらぎは腕まくりをした。
バットと一緒に保管されていたボールは一見とても状態の良いように思えた、中身の素材なんて検討もつかないけど2人の余興に使うならば多少中身に劣化があろうと文句をつけてくるヤツもいやしない、
そして彼女の白く細い腕が、しなやかにボールを握った手を胸の前へと持っていった。彼女はそのまま少し空を見上げた。
瞬間、僕の目にその姿が焼き付く。
祈りを捧げるような、神かなにかにすがるような、その姿に目も心も、気づけば三振も奪われている自分がそこにいた。
僕自身どこかで分かっていたんだ、きっとこんな不安定な世界に大した時間は残されてないと、明日が来るかどうかさえ危うい事を、彼女が必死になって僕に生きる意味を与えてくれてる事を。
でも、それでも、ボールを投げる音だけは、やけに澄んで聞こえた。
続きはちょこちょこ書いていきます




