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スラップスティック

〈暖かき夜を彷徨ふいきすだま 涙次〉



【ⅰ】


 また私(作者)の話から。

 彼女と(彼女いるんスよ。濟みません←誰に謝つてる?)とデイトをしました。その折り、T武T上線・A台驛近くのブックオフに立ち寄つたのですが...

 そこで佐藤正午氏の『月の満ち欠け』と云ふ本を、¥220‐で購入。私てつきり、外装に騙されて、岩波文庫の刊行物だと思つて買つたのです。現代作家の作品が、岩波文庫に収録されてゐるなんて、珍しいな、と。だが、うちに帰つて見てみたら、「岩波文庫()」と脊にあり、だうやらこれは一般の文庫本らしい。

 皆さんの中にも騙された方、をられるかも知れません。でも、出版社は紛れもなく岩波書店で、私は「岩波の子飼ひ(と云つたら佐藤氏に怒られるかも)の作家が、直木賞を獲り、その本が10万部以上の賣り上げになる」なんて、出版社としてまあ健康な事だし、いゝんぢやないかな、と云ふ氣がしたのでした。オールスターキャストで映画化もされた、との事。

 私がそんなメジャーな本を買ふつて、滅多にない事。で、メジャーと云へば、直木賞などゝ云ふ大きな賞を獲つた小説なので、だうすれば賣れるものを書けるのか、さう云ふノウハウを學べるかな、なんて期待もある讀書がこれから始まる譯で、このカンテラ・シリーズにも影響を及ぼすかも知れません。そこら邊讀み取つて頂けるなら、幸ひです。

 もう一冊、『詩人オーデン』(橋口稔・著、平凡社、初版第一刷)と云ふ本も¥220‐でゲット。これは、英國の桂冠詩人、W.H.オーデンの評傳。函、帯付きで、所謂「当たり」の買ひ物でした。アマゾンでは¥6,000‐台の値段をつけて、賣つてゐる人もゐる。これは、詩人でもある(でもあるんスよ。濟みません←だから誰に謝つてる?)私としては当然・必然の書であり、このシリーズにはキックバックされないだらうな、とは思ふ。


 そんな他人の本について滔々と述べて、そこにそこはかとない純文學臭が漂つたのなら、これも陳謝。さて余談が長くなりました。カンテラ、行きませう。



【ⅱ】


 杵塚のインタヴュー、カンテラとじろさんの演武、小江戸川越での活躍報道、など、主に楳ノ谷汀の主導での、カンテラ一味啓蒙活動があり、大分世間が持つ胡散臭さが消えてきたやうだ。どこで住所を調べたものか、ファンレターが、每日山のやうに來る。それらはカンテラ秘書である、悦美がチェックしたのだが- 誰にどれだけファンが付いたか一目瞭然で、人氣投票の様を呈した。


 まづ、じろさんへの手紙が多かつた。渋い。もしもこんな強いお父さんがゐたならいゝな。などなど。「奥さんがゐらつしやらないのなら、私の再婚相手に」なんて、リアルな望みを書いた中髙年女性もゐた。これにはじろさん冷や汗。澄江さんに見られたらヤバい。

 次に、悦美。やはり美しさへの賞讃が目に付く。ボイン(失敬)と拔けるやうな白い肌。林檎病の如き赤いほつぺ... こんな叔母さんが慾しい、との、ティーンエイジャーのファンからの手紙もあつた。彼女は兎に角マニアごゝろをくすぐるキャラクターの持ち主。

 で、テオ。ペットにこんな天才猫がゐたら、と云ふ聲。これにはテオは少しむくれて、「ペットだなんて失禮な」とか申してをりました。

 杵塚。中年女性からは「セクシーだわ」、年若い女性からは、「爽やか。こんな兄さん、慾しいです。バイクの後ろに乘せて慾しい」etc, etc…


 で、肝腎のカンテラには、一通もファンレターが來ない。やはり、人を寄せ付けない何か、を世間も嗅ぎ取つた譯で、折角の私のヒーローも、立つ瀬がない有り様。

 あと、牧野は論外で、だうにも元ヤクザ、と云ふのがマイナス・イメージなのだらう。


 以上、ファンレターの集計。



【ⅲ】

 

 先日の川越喜多院での「鵺退治」、やはり牧野はオフを取つて、尊子に會ひに、彼女の四畳半にお邪魔してゐた。鵺、なんて云ふ化け物には、「龍」をぶつけるのが一番手つ取り早いのだが、カンテラ事務所は外資系企業並みに、オンとオフをはつきり分けてゐる。ので、彼は着いて來なかつた譯。

 そこで、ソープ嬢としての、ではなく、戀人としての尊子を、初めて抱いた牧野。所謂「素人童貞」である彼は、女つてこんなに良いものか、と仕合せを滿喫してゐた。こんなことR‐15指定なしの当シリーズで書いてよいものやら、分からぬが、射精の瞬間、「彼は昇天した」。すると...


 なんと、薄れゆく意識の中で、牧野の口から「龍」が飛び出てきてしまつた。一種の失神狀態に、彼はあつたのだ。

「龍」は、尊子の部屋があるアパートの屋根を突き破り、大空に立ち昇つた。

 丁度、カンテラ一味が川越での一件を濟ませた当夜。中野に戻ると、この騒ぎである。屋根修理をしなくてはならない羽目に陥り、さしものカンテラも苦衷の人。


「面目ねえつス」頭を掻く牧野であつたが、頭を掻いて濟む問題ではない。「まあいゝ。屋根修理代金は一味の金庫から出す。その代はり、フル、お前一年間たゞ働きな」


「龍」の遷姫は飛んだ恥をかいた譯で、怒つて牧野の體内には戻らなかつた。「龍」はどつかと事務所のポーチに居坐る事となつた。

 近隣の住民には眉を顰める者が多かつたが、事務所の「裏番」である悦美が、「遷姫ちやんの氣持ち、よくわかるわあ。女としては赤つ恥だもの」と理解を示したので、ポーチの「龍」はその儘放置される事となつた。ネガティヴ・アプローチは無論やめてくれ、との杵塚の要請があつたので、この事だけは楳ノ谷は取材しなかつた。



 ⁂  ⁂  ⁂  ⁂


〈氣をやるは女の専賣ではなくて素人童貞哀しかるかも 平手みき〉



【ⅳ】


 カンテラは、そんな「龍」が暇を持て余してゐるだらうとの事で、「久し振りに一手、對局つてのはだうだい、遷姫?」「イゝワヨ」

 鉄の鱗はなかなか眞剣を以てしても齒が立たない。「しええええええいつ!!」カンテラは(以前と同じで)苦戦した。だが、隙のないカンテラは、「龍」にしても好敵手。ちやんちやんばらばらの後は、これも(じろさんと同じく)カンテラ、「龍」とイーヴンと云ふ事で片が付いた。

「イイ汗掻イタラウ、かんてらヨ」「まあな。あんたはやつぱり強いよ」「弓、ヲ使ハレテハ、ワタシモ敵ハナイノダガナ」遷姫の美しい目を射つた咎が、カンテラにはある。


「なあ、遷姫よ。俺つてこの事務所の何なのかな?」カンテラにしては迷ひが出る今日この頃である。「ふぁんれたーナル物ノ件カ?」「まあな」「アンナノハ棄テ置ケ。男ナル者強ケレバイゝノダ」「さうか」「ダウカ武士(ものゝふ)ラシカラヌ事ハ云ハナイデオクレ」遷姫の頬が仄かに紅潮してゐたのは、あながち「手合はせ」のせゐだけではあるまい。


 そこで、「龍」はすうつと消えた。牧野の體内に帰つたのである。



 ⁂  ⁂  ⁂  ⁂


新草(にいくさ)や指輪を失くす脊の髙さ 涙次〉



 杵塚は、遷姫の事は、いつか映画に撮りたいな、と思つてゐた。特撮ではなく、實在の「龍」が大空を駆け巡る映画に。妖艶な遷姫は、さぞかしフィルムに映える事だらう...



 と云ふ事で、今回もしめやかに(?)終はりを迎へる。これからもカンテラ一味一堂應援を宜しくお願ひ致します。チャオ!!


 

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