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編光炉  作者: Nox
71/165

母さんが、

230517

「祈ってくれ。雨降りの巫女。そうでなければ、彼もまたその氷雨に刺され死んでしまうだろう……あの、御伽噺のように」


赤い巨人の死体に乗った彼女に叫んだ。

この凍った世界の中で、動けるのは僅かだった。

彼女は動揺している。


「頼む」


私が、彼に好かれていて。

彼女は、彼が好きで。

絶望の中で彼が彼女に一緒になってしまおうかなどと口遊んだことを。


時間が無い。


赤い海の中で白装束の人々は神への叫びを口にしていた。

祭囃子、人々は皆それを眺めていた。

誰も気がついていなかった。

私は叫び、駆け出し。

テント事赤い巨人の口の中に収められる所だった。

彼女の力は本物だ。

凍った。

それが真実。


包丁を持った黒い服の男がいる。

私は駆け出して、人々が傷つかないように、彼女が殺されないように男を倒さねばならない。


龍の着ぐるみを着た、言葉も話さぬ幼子に手を引かれて。私は黒い男を探す。

虎の姿。その状態で尚包丁を手放さないのは滑稽な話だ。

男もまた私を探していたのだろう。私を見るなり襲いかかってきた。

裂かれた二の腕が痛い。腹も刺されている。

長くないのはわかっている。


それでも必死に虎の身体の男を殴り付けた。

祈りは成功したのだろうか。


いあ、いあ。


雨が降っている。


きゃっ、きゃ。


幼子は雨にはしゃぎ、喜んだ。


もう動けないな。

ああ、泣きそうな顔をしないでおくれ。

君のお陰で助かったんだ。

だから大丈夫。大丈夫。


赤い海の中で鮫を倒した時よりも、融けた肉片を倒した時よりも、ずっと。


ずっと、幸せに終われる気がするんだ。


裂かれた腕の熱さに紛れて、誰かが呼ぶ声がした。



雨降りの巫女

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