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香る柑橘
250207
あなたはいつだって気高く美しく笑っていた。
黒曜の魔女、派手なオレンジと共に。
ガスランタン、廃工場。有限な大地は肥沃を満たすことがなく。常灰色に染っている。
真っ赤な看板のそれは二階建て。鉄パイプと蛇腹のアルミ。モードな赤は鮮烈に。
「なんだい。何か用かい」
オレンジの髪を浪漫に刈って、その方は私の背を押した。
中には薄布、重ねの曰く。駆り立てる黒、黄泉の空蝉。私の心は明け染り。
「なんだい。面白い子だねえ」
窓枠の向こうに映す辺境は、どこか煙と雨の中。
「早く逃げて下さい!ここにいてはあなたまで」
「煩い小娘だ。あたしゃここを動かないよ」
かつての幻想は無く、水に沈む台地を見ていた。
私は、あの頃に落ちて消えていく。
鋏の音がする。
嗚呼、ここにいらっしゃった。
「一体全体何のようだね」
「なんでもないんですよ」