立板一枚
250103
さあ進め。進め。ここに、黒でもなく、白でもなく、灰のような。未来を今。ここに刻め。
思い出したんだ。このネックレスの意味する答えを。
「最近川が澱んでますよね」
「そうかい?あー……言われてみればそうかもなぁ」
「そうですよ。魚が泳げば膜が張って……今度見て見てください」
「そうするよ。んじゃな。気をつけて」
「はい。ありがとうございました」
危うくおっちゃんに再配達をさせてしまうところだった。
カップうどんを手にして家へ登る。
私の家はこんなにボロい板だったっけ。
唯一はっきり覚えているのは、この街の川は澄んでいたことくらいなんだ。
家を登る。
突然、1階の板が吹っ飛んでいく。
大きな鰭。
泥の中からい出たそれは、トドのような。
ああ、わかった。わかった。こいつらのせいか。こいつらがいるから川があんなに。
とにかく急いで上へと登った。私に気付いていないからか、まだ2階までは壊して……。
気付かれた。
せせら笑うように私の家を壊していく。
いや違う、これは区画整理された部屋のひとつに過ぎないのか。
家から木へ、木から木へ跳び移る。
奴ら木は折らないみたいだ。でも揺らして落とそうとしてくる。
地に足はもうつけられない。地の全ては泥になった。
「無い、無い」
赤い髪の少女が家を破壊しながら喚いている。
ああ、あれが王なのか。
「私の は何処にあるの」
チャリ、と手の中で何かに気付いた。
そうだ、なんでかは分からない。
分からないけど私には沢山のネックレスがある。
母から分けられたものなのか、祖母からなのか、はたまた他人か。
レモンの形をしたペンダントトップが揺れている。
そうかレモンか。草花か。
枝の切られた大樹の上で、赤い少女の様を見る。食料なんてものは無い。
ここが何故こんなにも閉鎖的なのか。
ここが何故こんなにも狭いのか。
ここが何故こんなにも、
ここは実験されし箱庭なのだ。
ああ、かつての同胞よ。我が子らよ。
手にした力を食い荒らされた肉塊よ。
私がやらねば誰がやるというのだろう。
走れ、走れ。緑の王よ。
その足で残された木々を追え。
焼き付くされた同胞を見ろ。
黄金色の王となれ。
この地を消して、天の見座を撃ち落とすのだ。