あまりもの じゅはち
ワインの染みは落ちにくい
お前はずっと勇者のままで、英雄気取りの顔をして。
焼け落ちた薄衣を剥いだ。
誰も弔いはしないから。
魔王となった俺と燃えたお前は、誰にも弔われることの無いまま、この地で朽ちていく。
どうしてこんなことになったのだろう。
どうしてこんなことにしかならなかったのだろう。
俺はお前のことを誰よりも理解していたはずなのに。
その明るい性格も、自己犠牲も、はなから全てわかってここに来たことも。
君は生贄だ。お前はそう言ったな。
そうだ。俺もかつてはそうだった。
お前と同じ、英雄気取りの生贄だった。
でも俺はお前と違い、この土地に馴染んでしまったんだよ。
だから、俺はお前のようにはなれなかった。
なあ、答えてくれ。
どうして絶望せずにいられたんだ。
なあ、教えてくれ。
どうしてお前は勇者になれた。
なあ、なあ。
どうして、全てを理解したまま、俺の元へとやってきたんだ。
どうして。
「それで君を救えるのなら」
朽ちるはずだった死体は、金色を纏い立ち上がる。
「君を救いたかったんだ」
鈍い銀の輝きの手を取り、金と銀の王者は統べる。
誰も見た事のない楽園を、偽りのない結末を。
ワインの染みは落ちにくい。
ずっと心の中にいたから。