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愛を知らない魅了の魔女は、王太子に復讐する  作者: ぷよ猫


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23 結びの魔女

 次の逢瀬が最後だ――と決意して二週間が経っても、アリーにまだそのときはやってこない。

 眠るように死ねる毒というものがあるとリオネルが言うので、その毒の調達と身辺整理をする時間を与えたのだ。

 精々、本当の愛人(ローラン)と最後の別れを惜しめばいい。

 

「もう秋なのねぇ」


 のんびりとくつろぎながら、庭先で温かな紅茶を一口。

 ついぞ今世では誕生日パーティを開くことなどなかった、と十七年間の短い人生に思いをはせた。憧れはある。しかし、あれは生まれた日にするものなのだと思うと、正確な日にちを知らないアリーはその気になれなかった。


(ま、招待するような人もいないんだけど)


 今のアリーに友はいない。だから、ダヤンが焼き立てのアップルタルトと一緒にお茶会の招待状を運んできたときは、またミシェルがくだらない嫌がらせを企んでいるのだと思った。

 しかし、封蝋印はアルエ公爵家のものだ。アリーは一瞬、ひやりとする。とうとうアルエ公爵夫人が、王太子の火遊びの後始末に乗り出したのかもしれない、と。

 あともう少しなのだ。邪魔されたくない。


「アルエ公爵家の紋章ですが、差出人はドゥフェ伯爵夫人のようですよ」


 ダヤンが、アリーの懸念を見透かす。

 ドゥフェ伯爵夫人――アルエ公爵夫人の息子ジェロームに忠告を受けたあの夜会のとき、身重だった彼の妻は、そのあと無事に娘を産んだと聞いている。もちろん、アリーとは面識がない。

 どういうことだろうか。

 お茶会は三日後の日にちとなっており、ずいぶんと急である。これでは招待というより呼び出しに近い。


(断れないのだから、行くしかないわね……)


 気が進まないが、アリーは出席する旨の返事をしたためるしかなかった。


 

 三日後。

 アリーは、アルエ公爵邸の庭のガゼボにいた。同席するのは、ドゥフェ伯爵夫人ただ一人。

 緩やかに結い上げたハニーブロンドと青い瞳。きっちり首元までシルクで覆われた貞淑なドレスの飾り気のなさが、逆に豊かな胸を強調している。

 アリーは、つい自分のささやかな胸と見比べてしまった。

 ドゥフェ伯爵夫人は、そんなアリーを見てクスッと笑う。胸を気にするなんて余裕があるのね、と言いたげだが逆である。

 彼女を一目見て、いざとなったら魅了の術で乗り切ればいいと高を括っていたのが吹き飛んでしまった。掌にじわりと汗をかいている。


「ふうん。ジェロームが『傾国のレオニー』と同じピンク色の髪だと言うから、もしやと思ったらやっぱりね。()()リオネルが惑わされたのにも納得がいくわ」


「わたくしは、レオニーの娘です」


 この人も魔女なのだ。

 誤魔化してもしかたがないので、アリーは素直に応じた。

 ドゥフェ伯爵夫妻は、リオネルの恋愛対象が男であることを知っている。

 リオネルは、王位継承にかかわる従弟ジェロームにだけは早いうちから打ち明けていたからだ。いずれ王位に就くジェロームの子に、しかるべき教育を受けさせるためである。

 だからジェロームは、『母上は何も知らない』と言って苦笑いしていたのだ。

 

「わたくしは、何でも結びつける『結びの魔女』よ。今世では、自分の息子と『王位』を結びつけたの。お義母様もバカな女よねぇ。女癖の悪い王太子なんて、王家のイメージダウンじゃない。浮気だの愛人だのって、もうそんな時代じゃないのに、これだから年寄りは。息子の治世に影響したらどうしてくれるのよ。そう思わない?」


「はあ」


「結びの術を解けるのは『(ほど)きの魔女』だけなの。生憎、二年前に死んじゃって、次の肉体が成長するまでは不在だから、わたくしの息子が国王になるのはもう確実。だけど即位してすぐに退位するような事態もあり得るわけ。それで――――」


 こちらが本性なのか、結びの魔女は、ぞんざいに足を組みジロッとアリーを睨みつけた。


「あなたは、いつまでリオネルとつき合うつもりなの? まさか、ジャクリーヌと離縁させて自分が王妃になろうって魂胆じゃないわよね」


「まさか。わたくしはアルエ公爵夫人に引き合わされただけです。男爵家に嫁いだ商人の娘が王妃だなんて、常識的に考えればあり得ないでしょう」


 さすがに王妃になるという発想はないので、慌てて否定する。

 しかし、結びの魔女は、怪しむような顔でアリーを見つめている。


「でも、やろうと思えば可能でしょ。貴族院と王法庁を魅了にかけて離縁させ、リオネルと世継ぎを作ればいいんだから」


「そのつもりは、ありません」


「へえ、控えめなのね。昔のレオニーはもっとすごかったから、てっきりこの国を牛耳ろうとしているのかと思っちゃった。ま、あたしの敵じゃないならいいわ。今日はそれを確かめたかったの」


 アリーがはっきり否定すると、結びの魔女は、やっと安堵の笑みを見せた。それから紅茶で喉を潤す。

 また疑われてはたまらないので、アリーは、初めて参加した夜会でアルエ公爵夫人に声をかけられたのだと正直に打ち明けた。


「うわ~、初めての夜会で? それは災難ね。いいわ、わたくしの夫と子どもに手出ししない限り味方になる。やっぱ、魔女は魔女同士助け合わないとね。とはいえ、わたくしの寿命は今世で最後なの。次代も産んだし、たぶん、そんなに長く生きられない。娘のエステルが次の『結びの魔女』よ。だから、取引しない?」


「取引ですか?」


「そう。わたくしが死んだあと、エステルの力になってあげてほしいの。きっと魔女の長い人生のなかで、何度か会うことがあると思うから。その代わり、結びの力であなたの願いを叶える。なんでもいいわよ。『お金』でも『好きな人』でも『美貌』でも。今世でリセットされる人間と違って、魔女の場合は来世以降もずっと続くから、慎重に選んでね」


 この能力のお陰で苦労しない人生だったと結びの魔女は話す。五百年も生きて大抵のことはやりつくした。心配なのは子どもたちのことだけ。

 それは純粋な親心。

 レオニーも先見の魔女に娘のことを頼んでいた。自分も母親に愛されていたのだろうか。

 富、権力、美貌……何と結ぶか迷いながら、アリーは顔も知らない母のことを思った。

 


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