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愛を知らない魅了の魔女は、王太子に復讐する  作者: ぷよ猫


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13/26

13 疑惑

 ローランから一方的に別居を言い渡されてからというもの、自分の夫に一欠けらの関心も持てなかったアリーだったが、「ローランにも事情がある」と言われると興味が湧いた。


「事情?」


「ローラン様の恋愛対象は男性なんです」


「えっと、それって、つまり――」


「女性を愛することができません。しかし、いつまでも独身でいると周りが騒がしいので、醜聞になる前にと事実を知ったブラン伯爵(旦那様)が急いで縁談をお決めになられたのです。男爵位は、旦那様の次男の息子にあたるローラン様の従甥が継ぐことになりました」


「ああ、それで籍だけの結婚ってわけ。借金も返せるし、いいことずくめね」


 わたくし以外は――――とアリーは心の中で毒づいた。


「それで、ローラン様は毎日何をしていらっしゃるの? この家はあなたに任せきりだし、領地に行っているわけでもないのよね?」


 フェレリ領主であるローランは、領主代理を次期男爵の親である従兄に任せ、早くも一線を退いている。かといって仕官するわけでもない。同じ男爵でも多忙を極める商人のジェラルドとは対照的である。


「愛人稼業……ですかねぇ? どちらかというとローラン様が愛人なのですよ。相手のほうが身分が上なので。いや、特に金銭的援助があるわけではないので、恋人同士と呼ぶべきなのか」


 言い辛そうにダヤンは打ち明けた。


「は?」


「相手が大物なので、フォルジェ家に利益があると旦那様が黙認されたのです」


「てっきり愛人を囲っていらっしゃるのだと思っていたわ」


「そんな金はありませんよ」


「そもそも、あなたがいるのに、どうして借金なんてしたの」


 頭の中に『浪費』の二文字が浮かんだものの、屋敷は代々受け継がれた調度が大切に使われており、豪華絢爛とはほど遠い。実質的に家を取り仕切るダヤンが、財産を食い潰すほどの贅沢を許すとは思えなかった。


「三年ほど前に、領地で災害が起きたんです。嵐による豪雨で作物と家だけでなく、国内最古のラピザリ寺院も被害に遭いました。あそこは領民の誇りですから、修繕を後回しにする選択肢はありません。同じ時期にブルール領で暴動があったので旦那様からの支援も期待できなくてやむを得ずです」


 ――――ブルール領。


 ドキンと心臓が音を立てた。

 レオンが死んだ地だ。

 なぜ、ここでブルールの名が出てくるのか。


「もしかして、ブルールの領主はブラン伯爵……なの?」


 アリーの問いにダヤンが目をぱちくりとさせた。

 どうやら貴族なら知っていて当たり前の常識的な事柄らしい。

 しかし、ダヤンは嫌な顔一つせずに本棚から貴族年鑑を取り出して、一から丁寧に説明し始める。


「ブルールはブラン伯爵ではなく、旦那様のもう一つの爵位であるブルール侯爵に付随する領土になります。辺境領の隣で王都からは遠いのですが、国の要の一つです。ですので、ここの治安悪化は国にとってもよくありません」


 当然、領主も神経を尖らせており、そのための兵力維持が領の財政の重しになっているという。増税しようにも領民たちはすでに重税に苦しめられ、新たな反乱の火種となっていた。


「悪循環ね」


「かといって、あそこは先の戦争で大きな痛手を受けた領の一つでもありますから、兵力の縮小は避けるべきとの考えが根強いのです」


 前王の時代に勃発した隣国との戦争は、長年にわたる出征が国内領主たちの負担となり、人口減少と経済的な疲弊をもたらした。

 最終的に王太子だった現王が、隣国の王女を王妃に迎えて和平が成立したものの、辺境と隣り合わせだったブルール領も大変だったらしい。いまだ、その傷は癒えていない。

 つまり、もともと余裕のないところにブルール領の暴動とフェレリ領の自然災害が重なり、ブラン伯爵は男爵領の支援まで手が回らなかったのである。

 

 アリーは、ふとレオンが話していたことを思い出した。


 ――――今、ブルール領は兵力を増強していて、将来、兵士となる少年を集めているそうだ。それでこの領からも何名かって話らしい。院長は断ってくれようとしたけど、領主様たっての頼みじゃ無理だろうな。


 あれは徴兵のようなものではなかったか。

 徴兵の対象は十六歳以上の男子と法律で定められ、有事以外では認められていない。その際も、最初は志願兵を募るなどの段階を経るのが普通だ。アリーはそれをボージェ家で家庭教師から習った。

 レオンはまだ十五歳にも満たなかった。だけど、自分の希望で見習い兵になる場合は問題ない。それに孤児の年齢なんて、いくらでも誤魔化しがきく。

 ブルール領は、法の目をかいくぐって無理やり兵士を集めていたのではないか。

 そんな疑念が脳裏をかすめた。


「ねえ、ダヤン。ブルール領は、余所から孤児を集めなければならないほど、領の兵力がひっ迫していたの?」


「そんな話、どこで聞いたんです?」


 ダヤンが訝しげに眉を寄せた。


「聞いたんじゃないわ。わたくしは孤児院で育ったの。そこにブルールの騎士の家にもらわれていく子が実際にいたのよ。そして、三年前の暴動で死んだわ」


 孤児の見習い兵が暴動の鎮圧にあたったのだと告げると、ダヤンが「そんな馬鹿な……」とさらに険しい顔になった。

 大人と体格差がある少年兵は、鍛錬しても武器を使いこなすようになるまでに時間がかかるうえに、防具も軽量なものしか身につけられない。正面戦力としては弱いので、よほど追い詰められた状況でもない限り前線には立たないのが通例であるという。彼らはあくまで見習いであって、即戦力ではないのだ。


「いや、もしかして……暴走があった前年にロクサーヌ王妃の暗殺事件がありましたよね。敵国の王女だった方なので、辺境付近はしばらく緊張状態だったと聞いています。ブルール領でも不測の事態に備えて兵を強化することになったのですが、簡単に人が集まるわけではありません。傭兵を雇うにも大金が要ります」


「それで孤児に目をつけたってわけ? 書類上だけ誰かの養子にすれば、見習い兵にするのは簡単だから」


「孤児なら死んでも誰も文句は言いませんからね。使い捨てにできて都合がよかったのでしょう」


「使い捨て……」


 アリーは絶句した。

 レオンは使い捨てだったというのか。

 抑えきれない憤怒がアリーを襲った。


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