第8話 ジョブの真髄
新しいスタートを切る前に、まずこの地域のことを調べるべきだ。
都市の発展具合や、地形にモンスターの生息範囲と、挙げだしたらキリがない。
そうだ。さっきのサポートの件だけど、これも何かの縁だし、君にお願いしてもいいか?
「もちろんです、メグミンて言います。よろしくお願いしますね」
職員さんは良い人が多そうだし、担当も決まって嬉しいが、さっきの不安があるので、そのことを相談してみた。
というのも俺のギルドランクは、駆け出しのFランク。
依頼書を見てみたが、どれも金額が低くてしょっぱい。正直言ってやりたくないんだ。
なんせ内容が、話し相手、草むしり、宿題の手伝い、ゴミ当番、クツ並べ、起床の手伝い。
といった感じで、冒険者と名乗ってするほどのことじゃない。
まぁ、ギルドの考え方は、間違っていないと思う。
経験の浅いものに、危険度が高くなる上のランクの仕事は無理だ。
地味な仕事でもコツコツとこなし、力をつけていくべきだろう。
しかし俺には、その常識を飛び越える力がある。
過信するわけじゃないが、その力を使わないのは勿体ない。
「それでしたら、森で薬草集めはどうですか?」
メグミンはFランク定番の、1番簡単なクエストをススメてきた。
「いえ、これをメインにするんじゃなくて、狩りの間に薬草集めをするんです」
ほう、この子のスキル《整理整頓》で導き出した答えらしい。
整理整頓といえば要らないものを捨て、大事なものを整える。日常で使うごくありふれた行動。
それをこの子は、思考するときに用いているそうだ。
物事を頭の中で精査し整え、最善の答えを導き出している。
ごく平凡なスキルでも、使い方次第では化けるということか。
「ありがとう。メグミンと組めて本当に良かったよ」
「そんな、私こそお役に立てて嬉しいです」
俺はさっそく、2段階も高いDランクのモンスターがいそうな場所へ向かった。
教えてもらったモンスターは主に、サーベルタイガー、キラービー、マジカルマタンゴだ。
Dランクとして一括りにするには、強さにばらつきが多いな。
その理由は、Cランク以上に指定されるモンスターが、比べ物にならないくらい強くなるからだ。
森の中にいるモンスターで言えば、グリフォンやハイトレントやオチュー。どれも討伐隊が結成されるモンスターだ。
ただこういった強敵は、森に奥の方に生息しており、まず出会うことはない。
将来はそういった強敵を倒してみたい。
しかし今はまだまだ弱いし、剣王の力を借りて、できる限りレベルを上げていくぜ。
そして何気に、自分のステータスを再度確認した。
エイダン·イーグル
Lv :1
ジョブ:剣王
HP :70
MP :25
力 :50
体力:40
魔力:45
素早:30
器用:30
運 :25
スキル:覇王剣 縮地 合剣法 地雷震 .
「あれ、どういう事だ? 昨日よりステータスが軒並み下がっているぞ」
体調も悪くないし、状態異常でもない。それにも関わらず、なぜこのような状態になっているんだ。
俺は原因が何か探り当て、元に戻さなければと焦っていた。
そうやって周りから意識をそらすことで、大きな隙を作ってしまったんだ。
それは音もなく忍び寄ってきて、飛びかかってきた。
たまたま風に乗ってきた獣臭で、間一髪気づくことができたんだ。
【縮地】で大きく躱し、近くにあった枝を拾う。
襲ってきたのは、サーベルタイガーだった。
ゴリゴリの筋肉で覆われていて、いかにもパワータイプのモンスターだ。
大きさも俺の背丈ほどあって、同じ高さで目線が合う。かなりデカイ、迫力あるぜ。
「だが、それだけだ」
矢のようなスピードで突進してくる。しかし、それをサイドステップで避け、通り過ぎる時に首筋へ叩き込んだ。
枝は肉を切り裂き、骨へと到達。そしてグゴリッと押しこみ、首を切り落とした。
「ふぅ、やっぱ剣王は強ぇわ」
まぁ、昨日ほどじゃないけど楽勝だったな。
不都合はないし、このまま続けても問題はなさそうだ。
このあと解体をして、没収をまぬがれたマジックバッグに詰め込んだ。
皮と爪と牙に魔石、用途はわからないけどあと眼球。これだけで数日分の稼ぎになるらしい。
モンスターを狩るたびに、売ったあとの用途を考えてしまう。
これが当面の宿代、これは新しい剣の代金という風にだ。
あはは、領地経営のクセが抜けきれないぜ。
必要な分と、半年先までの貯蓄を実感したときには、レベルも10まで上がっていた。
エイダン·イーグル
Lv :10
ジョブ:剣王
HP :280
MP :100
力 :200
体力:170
魔力:180
早さ:110
器用:110
運 :25
スキル:覇王剣 縮地 合剣法 地雷震 .
怖いぐらいのステータス。今日はこれぐらいにして、街に戻るとしよう。
「初クエストごくろうさまです。その顔はしっかりと稼げたようですね」
モンスターから剥ぎ取った素材に加え、途中で採取した薬草や毒草をカウンターに出した。
「ひょえー、なんですかこの量は? ヒヨッコのすることじゃないですよ」
「ヒヨッコはもう卒業だ。レベル10に達したし、明日からはまた違うプランを練ってくれ」
「ヒィッ、じゅ!」
言いかけた口をおさえる。朝の失敗を繰り返さないとは、この子も成長したようだ。
「もう、この子じゃなくて、メグミンです」
笑いながら大量の金貨を受け取り、宿屋へと急いだ。
もちろん、ステータスの低下を検証して、明日へと繋げるためだ。
一度書いてある文字を消し、改めて素の自分を見てみる。
エイダン·イーグル
Lv :10
ジョブ:――
HP :40
MP :15
力 :25
体力:25
魔力:30
早さ:20
器用:20
運 :5
スキル:.
「嘘だろ、なんて貧弱なステータスなんだ」
いや、剣王が人外のものなのだろう。改めて、自分の幸運に感謝だぜ。
まず昨日のチョーイケメンは、二度続けて効果はあった。
むしろ2回目の方が、モテ度が高かった気がする。
そうなると、回数制限があるという仮説には当たらない。
もしかして、経過をした日数による変化かもしれない。
もしそうならデータを取り、対策をとらなくてはいけないな。
残念だけど、全てをが順調とはいかないようだ。
改めて、頬に剣王の文字を書き、ステータスを見てみた。
エイダン·イーグル
Lv :10
ジョブ:剣王
HP :380
MP :150
力 :275
体力:220
魔力:240
早さ:160
器用:160
運 :25
スキル:覇王剣 縮地 合剣法 地雷震 .
「なんだー! 数値が上がっているぞ」
理由がわからないぜ。書いた場所は同じ側の頬だったし、場所を変えたりして確認しても高いままだ。
「むむむむむむむ、解らん」
夕食を食べた後も考え込むが、何1つ理由が思い浮かばない。
結局解決せず、顔を洗って寝るために鏡を見たときフト気付いた。
「あっ、文字だ」
書いた文字は同じ【剣王】。しかし、違いがひとつだけあった。それは文字の〝美しさ〞だ。
ひらめいた俺は、あらためて書きなぐりの【剣王】でステータスを確認してみた。
「やっぱりだ。文字の完成度が、そのまま才能に直結するんだ」
濃くてきれいな文字は、高ステータスになる。
逆に、震えた字や、滲んだり汚いものは一段落ちた効果となった。
いてもたってもいられず、宿の裏庭に出て早速検証をした。
小枝をとり小石を斬ってみたが、〝書きなぐり〞の文字であっても難なく斬れる。
次は〝シッカリとキレイ〞に書き試してみた。
「………………当然斬れるよな。だけど、この切り口は!」
〝書きなぐり〞の断面も見事なモノだけど、〝シッカリとキレイ〞なモノだと次元が違うんだ。
いや、枝を持ったときから違っていた。
腕と枝とに一体感があるし、その断面は顔が映るほど鏡のようにツルツルだ。
ここまで差があると思ってもみなかったぜ。
というか、どうも本で読んだのと、少し違うと思っていたんだ。
伝説や物語などいろんなものに、剣王の活躍は出てきた。
どれも素晴らしい内容で圧倒的だった。
だけど実際に自分が体験する剣王は、書かれている以上だったんだ。
つまり俺は剣王の最終地点、剣王の真髄に到達しているみたいだ。
歴史上この境地に至った人はごくわずか。しかしジョブの深淵をのぞいた人は、必ずこう言う。
『見えていたモノとは別物だよ。これは数値だけの問題じゃない』
普通なら素質と努力と運がそろって、初めて到達出来るもの。
そこを飛ばした俺がそこへ至れたのは、全くの偶然。
ただジョブへの期待を持ち、理解しようと全力を込めた文字だからこそ、この境地に達したのだろう。
つまり汚い文字で効果が下がるのではなく、きれいな文字で、より効果を発揮するって事だ。
それと【全てを叶える者】のホクロにかかると、異物と見なされるのか、全く効果が発揮されない。
これは色々と準備をしなくちゃいけないぞ。特に書く道具は、きちんとしないとダメだな。
俺は降ってわいた幸運を、一ミリも無駄にしたくない。
それは何も持たなかった時の俺に対して、失礼ってもんだ。
「見てろよ、昔の俺。お前も一緒に、ワクワクさせてやるぜ」