第7話 副ギルド長とギルド長
受付嬢がキラキラした目で見つめてくる。こ、これはもしかして本当に惚れられたかも。
「わたし感動しました。剣王ってだけじゃなく、人間も出来ていらっしゃるんですね」
あっぶねー。そっちのカッコいいだったか。イキってまた笑われる所だったぜ。
「よかったら私を、エイダンさんの担当をさせて下さい」
話を聞くと、新人冒険者にはナビゲーター役として、少しのあいだ職員がいろいろ教えてくれるらしい。
その役をぜひ自分にさせてくれと、言っているんだ。
とそのとき、カウンターの内側から、1人の男が声をかけてきた。
「もうやっぱり一人で受付はムリだったんだ。僕チンが付いて教えるべきだったな。心配したんだぞ、プンプン」
「げっ、ガマゲン副ギルド長」
奥から出てきたのは、ヒューム族なのにカエルみたいな顔つきの男だった。
受付嬢は露骨に嫌そうな顔をして、この男の舐め回すような視線を避けようとしている。
「君は粗野な冒険者相手より、僕チンの秘書が似合っているよ。
手取り足取り教えてやるから、今から副ギルマス部屋においでよ」
「あのー昨日もお話をしたように、私は今の仕事を頑張りたいんです。だからその件はゴメンなさい」
うーわ、部屋にいって何するつもりだよ。完璧なセクハラだし男の俺が見てもキモい。
しかも、諦めが悪くて結構しつこい。
なんか逆に、嫌がっている姿を楽しんでいる感じだよ。見ているこっちが不愉快だぜ。
たけど、この手の人間は否定されると、ムキになって絡んでくるし面倒くさいんだよなぁ。
なんとか別の話をして止めさせてみるか。
「スミマセン、副ギルド長さん。彼女に説明してもらいたい事があるので、ちょっと失礼しますね」
仕事の話なら諦めるて思ったのに、すげームッとした顔をして睨んでくる。
別に嫌われても俺としては構わないし、このまま話を続けていたら、どっかへ行ってくれるだろう。
「おい、ボクチンは副ギルド長で偉いんだぞ。黒板の新人が生意気な、引っ込んでろ!」
何言っているんだこのガマ蛙。あんたは職員で俺は利用者。どちらが偉いとかないだろ。
「な、なんて無礼な平民なんだ。もー怒ったぞ。
聞いて驚くな、ボクチンはペンパル王国の伯爵家の息子だ。エライんだぞ、スゴイんだぞ、どうだ参ったか」
…………こいつもか。ブレッドや大臣と同じ権力を盾に、好き勝手にする部類の人間だ。
その力で弱い立場の女の子をどうこうしようなんて、絶対に許せない。凝らしめてやる。
でも、たとえ俺の〝力〞で撃退しても、俺がいない所ではまた悪さをするだろう。
だから、誰のせいでもない、自分のサガによる報いと思わせてやる。
となると、今あるスキルなら【地雷震】が良さそうだな。
剣王のスキルの一つ【地雷震】は、大地を支配し相手の足場を奪うワザ。
これをガマ副ギルド長に、コソッと仕掛けてやった。
「おおっ、おぉおおぉぉぉー、揺れてる、じ、地震だー」
激しい横揺れで倒れ、四つん這いすら出来ずに転げ回っている。
だけど、周りの人は平然としていて、副ギルド長を見て驚いている。
それもそのはず、俺はガマゲン副ギルド長だけに、地雷震をしかけたんだ。
だから、端からみれば一人で騒いでいるとしか思えない。
「はぁはぁ、やっとおさまった。こ、こんな怖い目にあったんだ、こうしていないと死んじゃうよ」
どさくさに紛れて受付嬢の手をとり、頬にスリスリしている。全然懲りていないな。ならば、もう一回だ。
「ぎゃー、怖いー、助けーてー、おぉおぉぉぉー」
む、収まるとすぐやらかそうとする。
「はぁ~、収まった。や、安らぎを。おえーっ、揺れだしたー、ぎゃー」
まだまだ恐怖より欲望が勝っていて、意外としつこいな。
「ぐおぉぉぉ、おえーっ、安らぎー、おぇっぷ、うーーー安らげねぇぇぇぇぇ!」
何回繰り返しただろうか、その甲斐があって受付嬢を見るだけで、吐き気を催している。
副ギルド長はヨタヨタと、一人で自分の部屋へと戻っていった。
うん、これだけやれば当分おとなしくなるだろう。
「これって、また助けて頂いたんですよね?」
いや、何の事だ? あれが勝手に自滅しただけだろ。
「えー、てっきりエイダンさんが、何かしたのかと思いましたよ」
ふぅー、それにしてもクセモノ揃いのギルドだな。まともな人がいるのか心配だぜ。
……おーい、冗談で言ったんだから、誰かフォローしてくれー。放置されたらシャレにならないぞ。
「うーん、ジェントルマンヒーロー。そのクセモノの親玉に、直接聞いた方が早いんじゃないか? ホレ後ろにいるぞ」
う、うしろ? 今のセリフのあとで振り返る勇気なんかないよ。頼むからもっと早く教えてくれよ。
「またガマゲンが悪さをしたそうだな。皆すまない」
重みのある声がした。そこに立っていたのは隻眼のドワーフ。名はペンナポといい、ここのギルド長だそうだ。
「いえ、ギルド長。こちらのエイダンさんが助けてくれましたし、よく分かんないですけど、私の顔を見るのもイヤになったみたいです」
「若いのに落ち着いているんだな。そのお陰で、大事な新人が一人救われた。ありがとう」
いえ、こちらこそスミマセン。悪口言ってたんじゃなくて、ちょっと愚痴ってただけなんでカンベンしてください。
「はっはっはー、本当の事だからな。気にする者は1人もいないさ」
副ギルド長とは正反対な人だな。
謙虚で落ち着いた感じだし、かもし出すオーラから歴戦の戦士だったとすぐ分かる。
だけど、そんな人でも貴族からの影響や、世の中のシガラミに悩まされるもんだ。
副ギルド長には、かなり手を焼いているそうだ。
だけどその真剣な取り組む姿勢で、職員たちからの信頼はあつく、俺も好感をもてた。
そしてギルド長が去り際に、耳元で囁いていった。
(ギルド内でのスキル使用はご法度だから、あまりやり過ぎるなよ)
ははは、バレていないと思ったのにお見通しか。しかも余裕のサムズアップ。
好感がもてたなんて訂正だ、大好きになったぜ。
ここで冒険者をしていくのも、安心して出来そうだ。よし、まずは記念すべき初クエストだな。
そう思い、意気揚々とクエストボードを眺めていたんだけど、あれれれれ。
思っていたのと何か違う、これはすげぇ困ったぞ。
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