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第6話  ギルドデビューは成功?

 よくよく考えたら、モンスターがいない理由は、いたって簡単だった。


 大地が揺れるほどの爆音を響かせた雷鳴剣。

 次元が違う大技に、みんな怯えて逃げ出したんだ。


 そう、モンスターがいない理由は、たったそれだけ、馬鹿だよな。

 それに気付いたのは日が暮れるころで、俺はトボトボと歩いて街へと戻ったよ。


 宿屋に着くと、朝食を出してくれた女の子がいて、目が合った。ツイテいないあとには何よりの癒しだ。


 だけど、彼女は俺に興味を示さず、すぐまた入り口の方を気にしながら、仕事を続けている。


 そうか。今の俺はチョーイケメンじゃなくて、剣王バージョンだ。


 それに道具屋の奥さんにもらったHPポーションで、顔の腫れも無くなっているから、気が付くはずはないか。

 少し残念だけど、こちらもズルをして彼女の気を引いたのだから、諦めるのが1番だろうな。


 それより明日こそは、冒険者ギルドで登録を済ませ、本格的に活動をスタートさせるぜ。

 昨晩みたいに失敗しないよう、早々と自分の部屋に戻った。




 次の朝、俺は早く目が覚め、1番に朝食を済ませた。

 身支度を整え、鏡を見てササッと【剣王】の文字を書く。


 そうして、昨日行けなかった冒険者ギルドへ、小走りで向かった。

 なんて言ったって、俺には剣王の力がある。これから起こる事にワクワクしてくるぜ。


 扉を開け中に入ると、外には聞こえてこなかった喧騒に包まれていた。

 早朝であるにもかかわらず人がたくさんいて、大変な賑わいぶりだ。


 俺は登録とクエスト受付の看板が、かかっているカウンターに並び順番を待った。


 見ていると、いろんな人種がいる。


 ヒュームにエルフ、ドワーフとポピュラーな人種もいるが、中にはこの地域にはいない妖精とかも普通にいる。


 なるほど、ここは自由と富を勝ち取るためのギルド。人種などは些細のことなんだ。

 だからこそ、豊富な人材、潤沢な資金が飛び交い世界を回している。


 そう考えていると、ようやく俺の番が回ってきた。


「ギルドへの登録をお願いしたいけど、いいかな?」


 受付嬢は陽気な感じのエルフで、人のサバキも上手だった。

 顔の文字は《整理整頓》とありふれた物だ。


「はいはーい、ではこの玉に手を乗せて、名前の方を……け、剣王!!」


 受付嬢は俺の顔を見るなり、引きつった顔で大声で叫んだ。

 歴史上でも超レアなジョブだ。驚くのも当たり前か。

 受付嬢の言葉に、冒険者たちも色めき立っている。


「嘘だろ。そんな凄いヤツがこの街にいたか?」


「新顔だな。うっ、剣王は持ってるオーラが違うぞ」


 周りがあっという間に、俺の話題で持ちきりになっている。


「す、すみません。あまりのことで、声を出してしまいました」


 ははは、言ってしまった物はしょうがないさ。

 それにどの道、顔に書いてあるのだから、隠しようがない。気にしなくていいよ。


「ありがとうございます。お優しいんですね。あ、あのお名前を教えて下さい」


「イヤイヤー、名乗るほどのことじゃないぜー」


 ワザとじゃないんだろ、人を許すのは当たり前さ。

 可愛い子に、名前を聞かれるなんて嬉しいけど、そこまで(かしこ)まらなくてもいいのに。


 だけど~そこまで言うなら、良い機会だし友達からなら喜んで!


「そうじゃなくて、えっと、登録のために名前を聞いているんです。なんかスミマセン」


 クゥ~~~~~~、やっちまったー。恥ずかしすぎて、この場から逃げたい。


「あれ、剣王って知力は低かった?」


「言ってやるなよ。あれは俺でも間違うぞ」


 周りの人にすべて聞かれた。冒険者ギルドデビュー大失敗だぜ。

 しかし、この一件のおかげで、俺のことを周りに認識してもらえたみたいだ。


 一部のメンバーの中では、もう俺のことを〝ジェントルヒーローマン〞と、おちょくってくるヤツもいる。

 貴族社会では味わえない体験で、実に楽しいぜ。


 そうこうしている内に手続きも終わり、晴れて俺はFランクの冒険者として、この街での生活をスタートした。


 黒光りするギルドプレートを首にかけたら、少しはサマになったな。


 このギルドの役割は、だいたい想像通りだった。

 クエストをこなして、ランクを上げていき、お互いを助け合う組織らしい。


 それとクエストの受注だが、自分より上のランクは危険なので、まず止められる。

 しかし、矛盾することだが、上のランクの素材の買取りはしてもらえるんだ。


 つまり、結果を出せば、黙認されるということだ。さすが自由と富を愛するギルドだぜ。


 早速俺は、昨日手に入れた1匹分のグラスウルフの素材を、買い取ってもらうことにした。


「すごい。剣王だとレベル1でも、ランクEのモンスターでさえ問題ないんですね」


 …………この受付嬢、またやってくれた。さすがにレベルまでは、他人に教える気はなかったぞ。


「あわわわ、度々すいませんでした。本当にごめんなさい」


 顔に出てくる文字のせいで、特徴やジョブについては隠しようがない。


 しかし、ステータスやレベル、それに細かなスキルなど、手の内をさらすことは一般市民でもまずしない。


 特に戦闘系の仕事をする者にとっては、パーティー以外の人間に聞くことはタブーだ。

 自分の情報を知られてしまうということは、命取りになるかも知れないないからだ。


 さっきの不用意な発言で、ギルド内がピリついている。

 当の俺よりも、周りのギルドメンバーの方が信じられないと驚き、(いら)だっているんだ。


 受付嬢もそれはわかっており、自分のしたミスの重大さに震えている。

 一番近いテーブルのスキンヘッドが、立ち上がり怒鳴った。


「おい、姉ちゃん。それはないんじゃないか!」


 だが俺には、それが滑稽に思えたんだ。


 今まで俺は才能が欲しくて欲しくて、気が狂わんばかりだった。

 それなのに、いざ手に入ると今はそれを隠すだなんて。

 ぷっ、この緊張感。逆に笑ってしまいそうだ、耐えられない。


「あーはははははははー」


 突然の俺の大笑いに、全員が驚いている。……これは何か言うべきだな。


「あー、みんな、聞いての通り俺は駆け出しだ。剣王なのにおかしいよな。

 正真正銘のヒヨッ子だが、そこらのヒヨッ子だと思わないでくれ。

 それを宣言ができる機会を与えてくれたお嬢さん、ありがとよ。助かったぜ」


「お、おい。それでいいのかよ。お前の弱みを知られたんだぞ」


「ああ、それでも何も問題ないぜ」


「で、でも」


「問題にすらならないぜ」


「そ、そっか。本人がそう言うなら」


 俺の自信に溢れた言葉に、その場にいた全員は毒気を抜かれたように、それぞれの場所に戻っていった。


 騒ぎは収まってよかったぜ。さぁて、買取金を貰って色々調べないと。


「カッコいいー」


 ん? チョーイケメンモードじゃないはず。からかうのは止めてくれ、また調子に乗ってハジかくのがオチだ。


 …………もしかして、本当に惚れた?


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