第57話 マダラ狩り
「キレイな処ね、空気が美味しいわー」
神聖樹王国ブリアンテの中心には、国名の由来となった樹齢2000年の巨木、神聖樹がある。
神聖樹とは聖なる力を宿し、他の植物にも影響を与えて成長を助け森を豊かにする、いわば森林の保護者のような存在。
その影響範囲は広く、南北だけでも2000㎞にもなるんだ。
そしてこの森は、人間の手によって管理されている。
森の浅いところは問題ないが、中層から先へは部外者は一切入いれない様、結界が張られているんだ。
「おーい、そろそろ出現しそうだから、気を抜くなよー」
そして目的のマダラは浅い外側に生息していて、特に魔力が溜まる場所をテリトリーにしている。
だから見つけることは簡単なので、レンジャーを外してメインのジョブに整体師、サブに体操選手をもってきた。
「エイダン様、死ぬ気なの? その構成はさすがの私でもダメなのがわかるよ」
エイダン·イーグル
Lv :36
ジョブ:整体師+体操選手
HP :300+80
MP :30+30
力 :70+95
体力:200+95
魔力:20+20
早さ:60+150
器用:80+160
運 :5+5
スキル:体術 経絡径穴 ここですか? 空中を制する お家芸 炭マ放出 .
チッチッチ、分かってないなぁ。この2つの職業の特性が、マダラ攻略の鍵になるんだぞ。
ふつうはな、危険度Aランクのマダラにはスゲェ手間がかかるんだ。
1匹狩るのに対して、何十人もの属性攻撃と付与師や魔術師が必要になってくる。
それは例えばこちらが炎の攻撃を仕掛けると、マダラは耐火を持っているから、属性防御を発動してくるよな。
それに対して、こちらはその耐火を発動させたエリアに、いくつもの別の属性を叩き込むんだ。
するとそれに合った属性防御を、同じ種類の数だけ発動してくるんだ。
「それじゃあ、イタチごっこじゃない」
いや、この時点でチェックメイトだ。
発動させ防御しているその1ヵ所に掛かりっきりで、もし他の場所にその属性攻撃をしても、マダラは対処できない。
マダラの能力を超えた攻撃、つまり数の力で押し切るんだ。
「そっかー、エイダン様1人じゃ無理だもんね」
いや、賢者にすれば可能かな。
「大それた事を、そんなアッサリと言わないでよ、バケモノ兵士」
だけど今回の目的は素材だからなぁ。
そんな攻撃をしたらボロ服しか作れない。だからその方法は却下だ。
だからこそ攻めの整体師と、防御の体操選手なんだよ。
特に体術と制空権を駆使すれば、被弾することは絶対ないさ。
「身軽な体操選手は納得いくけどさぁ、整体師でどう攻めるの?」
その答えは、マダラの最大の武器を攻略することにあるんだ。
マダラは多様な属性を操作して、あらゆる攻撃をしてくる。
そしてその操作には必ず、魔力を伝える経絡があるんだ。
だったらその道筋を探して、1つずつ整体師のスキルを活かす鍼を刺し、魔力の流れを止めてやればいい。
それができるのは、体の構造と経絡経穴のスペシャリスト、整体師にしかできない仕事なんだ。
「エイダン様、天才すぎ。もうなんて言うか、常識の枠を飛び越えているね、カッコいいー」
まあ普通のことを求められてなかったからな。
おっ、あそこにマダラがいるぞ、2人とも注意して。
「思ったより大っきくてキレイね」
ああ、成熟した個体だな。ひとつとしても同じ色はなく、見た目だけならペットに最適だよな。
これだけの大きさがあれば素材として充分だし、コイツを狩ろう。
リディは強化バフを切らさず、ヒールで援護してくれ。
「ええ、分かったわ【心に翼】【背中に翼】【聖障壁】【リジェネ】」
マデリンは周囲を警戒して、リディをサポートだ。
「絶対守るよ、任せなよ」
まずはヘイトを俺に集中させる為、助走をつけ近寄る。
この時点でマダラが俺に気づき、警戒態勢を取ってきた。
すかさず俺はスピードを上げたあと、フェイントで体操のロンダートを入れる。
一瞬の動きに惑わされ、宙に舞う俺を目で追えていない。
マダラの背中に手をつき、跳馬技【後転跳び後方伸身宙返り3回半ひねり】で反対側へ着地。
「エイダン様、技の名前が長いよ、分かんねー!」
「うふふ、マデリンちゃん、慣れなさい」
食事を邪魔され気が立っているマダラは、お返しとばかりに、アイスジャベリンを放ってきた。
しかも風の属性を氷の槍にものせて、途中でスピードを変えてきた。
なかなかやるな。俺も能力アップと氷耐性のツボ押して避け、ノーダメージで近づく。
「耐性アップて、そんな便利な物あったの?」
でもな、有効時間が短いうえに連続で使えないんだ。
だから、その時間内に氷属性のエリアを潰しておきたいんだよ。
それには、まず密着して触診だ。
マダラの上に飛び乗り、手をついてから神経を集中させ、
あん馬の技【直接背面跳び横移動倒立回ひねり3/3部分移動下ろして旋回】をしながら魔力の経絡を探る。
「だから、長いって!」
右手から魔力を流し左手で受けとる。その際、反射した分や波長の変化を感じ取り、どこに鍼を打てば良いかが見えてくるんだ。
思った通りだ。他の生き物と比べても、魔力の経絡の構図は変わらない。
これなら……熱ッ! 焼かれたのか。
「【ヒール】次の精神攻撃も準備しているわ、気をつけて」
助かったぜ。つい夢中になったけど、もうあとは大丈夫だ。
マダラは俺のおかしな動きに警戒心をつのらせ、バンバン魔法を飛ばしてくる。
俺はタイミングをうかがって、跳躍しすれ違い際に素早く鍼を打ち込んだ。
まずはこっちの耐性が切れた氷の部分と、チャームを優先させて打つぜ。
ビンゴ、みるみる内に冷気が治まり、ピンクのエリアも沈黙した。
鍼を刺された意識がないマダラには、何が起こってるか理解できないでいる。
戸惑って動きが鈍くなっているので、さらにチャンスが広がった。
すかさず、愚鈍とスローの領域のツボに鍼をうつ。
痛みはないが俺の動きにイラつき、無闇やたらと攻めてくる。
おっと、雷と麻痺の連撃か。慌てず自分のツボを押して耐性をつけて、よし、ここだ!
「エイダン、がんばってー!」
やがて全ての経絡を遮断し、ついでに麻痺をさせて体の自由を奪った。
マダラは今や、ただ硬いだけの芋虫になった。
もうこうなったら首を外し、神経脳を引っ張り出せば完了だ。
「エイダン様、お疲れ様です」
終わってみれば、呆気なかったな。
時間はかかったけど、攻撃を食らったのも最初の一撃だけだったし。
「もう、また私の出番がなかったわ」
ははは、リディの強化やマデリンのサポートがあったからこそ、出来たことだぜ。
パーティーが無事で最大の成果出せたんだ、みんなで祝おうぜ。
リディのボヤキを聞きながら解体を進めていくと、改めてマダラの体の凄さを感じ取れた。
素材になった今も魔力のつながりがあり、属性効果め損なわれておらず、いい塩梅でバランスを取っている。
いつもの防具屋も腕は確かなんだけど、もしかしたらこれを扱うことができないかもしれないな。
手に入れたはいいけど、これを扱える職人がいるのかな?
これはヘタに手を加えると、台無しにしてしまうかもしれないし。
かといってそのままの配色だと、リディに可愛くないと反対される。
「エイダン様、人が近づいてくるよ」
ちゃんと見張りを続けていたんだな。エライぞマデリン。
照れるマデリン越しに見えたのは、2人の男のエルフだった。
だが不思議のことに、2人の服装は森の住人ではない格好で、むしろ街でよく見かける服装だ。
森を管理する番人ではないことに違和感を覚えながら、あいさつを交わした。
この時点で俺たちは、彼らとの縁が後々深くなるなどとは思ってもいなかった。




