第55話 軍略家ブレッド降臨
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あうー、アタマ痛い。最近飲んだ次の日が、どうも体のキレが悪い。
それに何か大事なことを忘れている気がするな。火が関係していることだけど、なんで火なんだっけ?
まぁ良いか。それよりも今は、もっと大事なことが起こっている。
それは小規模ながら、食料庫が襲われているんだ。
昨日までに2件。これは役人だけじゃなく、軍部もゆるみ始めている証拠だ。
「お頭、人手が足りませんよ。マジ増員願います」
金がないのにできるかー。何とかするのがお前らの仕事だろ。
それに考えてみろ、収入がないのは盗賊がいるからだ。
その盗賊をやっつけるのに、金をかけたら本末転倒だろ。
お前は物事の本質がつかめていないぞ。
「よくしゃべるのに、あんまり筋が通ってないッスね。お頭ってスゲーッスよ」
バッ、バカヤローおだてるな。俺様はゴマをするヤツは信用しないぞ、オッホン。
それにしても腹が立つのは、この前の反乱が原因だって事だ。
あれを機に下級民が調子に乗っていやがる。
それに捕まえようとしても、ただの1人も捕まらない。
追っても追っても、まるで影のようにスルリとかわしやがる。
それと現場に残している、旗に書かれた文字が絶対に許せない。
【オークはいらない。尊敬する無能者を】
むおーーーーーーーーーーー!!!!
このままではー、このままではー、俺様のーー、俺様のーー気がーーおさまらぬーー。
エーイーダーンめーーー。ぶっ殺してやる。
「お頭、無能者より盗賊のほうですぜ。このままだと正月迎えられませんぜ」
そうだった、正月にいつも食べる南方特産のカンガン鳥の丸焼きに、スネーネ地方のスイーツ、どれも値が張る高級品だ。
これはヤバいぞ、なんとかしないと……うぅ~、何か良い案よ、浮かんでこいー。
「お頭、ヤツラ食料を狙ってくるなら、一箇所に集めたらどうですか?」
ん、そうすると量が増えるのか?
「違いますよ、お頭。一箇所だったら、俺らも守りやすいからですよ」
おお、食料に群がるアホな習性を逆手にとって、一網打尽てヤツだな。
むむむ、こんな事を思いつく俺様はなんて頭がイイんだ。
「えっ、アッシの案ですよ?」
もしや、稀代の軍師を凌ぐかもしれん、うおおお!
「……もうイイッスわ」
思い返せば小さな頃から俺様は、ナイフのような思考回路の持ち主だった。
1つを知れば全体が見え、次にどう動けば良いか瞬時にわかるのだ。
小物ながらうチマチマ働くオヤジに、よくアドバイスをしてやったものだ。
例えば飢饉で食糧がないと狼狽えていた時も。
「バカだなオヤジ。城の倉庫に溢れるほどあるぞ。モシャモシャ、今日も明日も大事ないぞ、ブヒヒ。
おい、料理人なんだこれは。デザートは3品と言っただろ、吊るすぞ」
他には、国中を騒がせた怪盗が、我が家の宝を盗み潜伏しているのを捕まえたこともあったな。
「バカだなオヤジ。こうやって1人1人殴っていけば簡単だろ、ブヒヒ。
こうやって、ん……こいつだってよ、白状したぜ」
つまりそんな頭脳明晰な俺様にかかれば、こんな策など造作もなく思いつく。
いや、いつ考えついたのかさえも解らない。全てが完璧な自然体に我ながらビックリするぜ。
だが、そんな俺様にも悩みはあるんだ。
それは部下たちが、ちょっとお粗末な連中ばかりなんだよ。
だからいくらスッゴイ計画を立てても、実行させるのは至難の技。
まぁそこは丁寧に話して、作戦を落とし込まないといけなくて、ホントに苦労だけしかない。
まず各貯蔵庫からここに集めるのだが、その日時は統一させる。
こうすれば、大きなエサになって目立つからな。
更にこの作戦を大々的に宣伝し、下級民どもに知らせてやれば、いつ襲ってくるか予想がつく。
早速準備にとりかかれ。俺様はそれまでワインを飲んでシュミレーションだ、ブヒヒヒ。
「お頭、宣伝して本当にいいんすか? 護衛もいないし、狙われますよ」
ブヒヒ、そんな細かいのを襲うより、集まった所をやる方が効率いいだろ。
「いや、それは大軍でやる時ッス。ゲリラは散発的にやってくるッス」
何が?
「いや、だから襲うなら安全なほうが」
あー、待て待て。あまり難しい話をすると、頭がこんがらがる。
集まった所を襲ってくる、これでいいだろ? ややこしくして良い事など一つもないぞ。
「…………へぇ」
コイツもやっと理解出来たようだな。手間がかかるぜ。
「お頭、輸送隊が到着したそうです」
予定より早いな。全部集まるのは3日後だぞ。
「そうじゃないですよ。荷物を奪われて、隊員だけが逃げてきたようです」
なにーーーー!
信じられない、なんて奴らだ。運送途中で襲うなんて、ルールもなにもあったものじゃない。
「それとお頭」
まだ何かあるのか?
「ヘイ、他にもいくつか襲われたと、報告が来ていやす」
こんな非道なことをする人間は1人じゃないのか?
心の汚い人間でこの世は溢れているのか?
それでは俺様みたいな善良な者が、バカを見るだけではないか。
ゆ、許せん。徹底的に探し出して、必ず根絶やしにしてやる。
「それと襲撃者はこの垂れ幕に書かれていることを、口々にしていたそうです」
ボロ布を受け取り、広げて書かれた文字を読んでみる。
《オークはいらない。尊敬する無能者を》
「エイダーーーーン!」
まただ、またヤツだ。俺様の邪魔ばかりをしやがって、腹が立つ。
エイダンが甘やかしたせいで愚民どもは、貴族の尊さをはき違えていやがる。
生まれ持った気品と強い信念、これがあるから貴族とあえるんだ。
あんな無能者には到底ムリだ。
こんな簡単な事さえ理解できない愚民たち。
エイダンはそんな不敬な態度を助長させる原因だ。もう存在自体にはらがたつ。
見ていろよ、エイダン。お前を絶対に八つ裂きにしてやる。
「執事長さん、また旦那さまが暴れていますね」
「やれやれ、またカーテンの修繕ですね。もう少し優しく暴れてくれると助かるんですがねぇ」
「ははは、優しく賢いっていったら、それはもう旦那さまじゃないですよ。
みんなに嫌われているから、旦那さまですよ」
「取りあえず、しばらくは放っておきましょう」




