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第55話 軍略家ブレッド降臨

https://ncode.syosetu.com/n6479hm/


新作始めました。お読み下さい。

 あうー、アタマ痛い。最近飲んだ次の日が、どうも体のキレが悪い。


 それに何か大事なことを忘れている気がするな。火が関係していることだけど、なんで火なんだっけ?


 まぁ良いか。それよりも今は、もっと大事なことが起こっている。


 それは小規模ながら、食料庫が襲われているんだ。

 昨日までに2件。これは役人だけじゃなく、軍部もゆるみ始めている証拠だ。


「お頭、人手が足りませんよ。マジ増員願います」


 金がないのにできるかー。何とかするのがお前らの仕事だろ。


 それに考えてみろ、収入がないのは盗賊がいるからだ。

 その盗賊をやっつけるのに、金をかけたら本末転倒だろ。

 お前は物事の本質がつかめていないぞ。


「よくしゃべるのに、あんまり筋が通ってないッスね。お頭ってスゲーッスよ」


 バッ、バカヤローおだてるな。俺様はゴマをするヤツは信用しないぞ、オッホン。


 それにしても腹が立つのは、この前の反乱が原因だって事だ。

 あれを機に下級民が調子に乗っていやがる。


 それに捕まえようとしても、ただの1人も捕まらない。

 追っても追っても、まるで影のようにスルリとかわしやがる。


 それと現場に残している、旗に書かれた文字が絶対に許せない。


【オークはいらない。尊敬する無能者を】


 むおーーーーーーーーーーー!!!!


 このままではー、このままではー、俺様のーー、俺様のーー気がーーおさまらぬーー。

 エーイーダーンめーーー。ぶっ殺してやる。


「お頭、無能者より盗賊のほうですぜ。このままだと正月迎えられませんぜ」


 そうだった、正月にいつも食べる南方特産のカンガン鳥の丸焼きに、スネーネ地方のスイーツ、どれも値が張る高級品だ。


 これはヤバいぞ、なんとかしないと……うぅ~、何か良い案よ、浮かんでこいー。


「お頭、ヤツラ食料を狙ってくるなら、一箇所に集めたらどうですか?」


 ん、そうすると量が増えるのか?


「違いますよ、お頭。一箇所だったら、俺らも守りやすいからですよ」


 おお、食料に群がるアホな習性を逆手にとって、一網打尽てヤツだな。

 むむむ、こんな事を思いつく俺様はなんて頭がイイんだ。


「えっ、アッシの案ですよ?」


 もしや、稀代の軍師を凌ぐかもしれん、うおおお!


「……もうイイッスわ」


 思い返せば小さな頃から俺様は、ナイフのような思考回路の持ち主だった。

 1つを知れば全体が見え、次にどう動けば良いか瞬時にわかるのだ。


 小物ながらうチマチマ働くオヤジに、よくアドバイスをしてやったものだ。

 例えば飢饉で食糧がないと狼狽(うろた)えていた時も。


「バカだなオヤジ。城の倉庫に溢れるほどあるぞ。モシャモシャ、今日も明日も大事ないぞ、ブヒヒ。

 おい、料理人なんだこれは。デザートは3品と言っただろ、吊るすぞ」


 他には、国中を騒がせた怪盗が、我が家の宝を盗み潜伏しているのを捕まえたこともあったな。


「バカだなオヤジ。こうやって1人1人殴っていけば簡単だろ、ブヒヒ。

 こうやって、ん……こいつだってよ、白状したぜ」


 つまりそんな頭脳明晰な俺様にかかれば、こんな策など造作もなく思いつく。

 いや、いつ考えついたのかさえも解らない。全てが完璧な自然体に我ながらビックリするぜ。


 だが、そんな俺様にも悩みはあるんだ。


 それは部下たちが、ちょっとお粗末な連中ばかりなんだよ。

 だからいくらスッゴイ計画を立てても、実行させるのは至難の技。

 まぁそこは丁寧に話して、作戦を落とし込まないといけなくて、ホントに苦労だけしかない。


 まず各貯蔵庫からここに集めるのだが、その日時は統一させる。

 こうすれば、大きなエサになって目立つからな。


 更にこの作戦を大々的に宣伝し、下級民どもに知らせてやれば、いつ襲ってくるか予想がつく。


 早速準備にとりかかれ。俺様はそれまでワインを飲んでシュミレーションだ、ブヒヒヒ。


「お頭、宣伝して本当にいいんすか? 護衛もいないし、狙われますよ」


 ブヒヒ、そんな細かいのを襲うより、集まった所をやる方が効率いいだろ。


「いや、それは大軍でやる時ッス。ゲリラは散発的にやってくるッス」


 何が?


「いや、だから襲うなら安全なほうが」


 あー、待て待て。あまり難しい話をすると、頭がこんがらがる。

 集まった所を襲ってくる、これでいいだろ? ややこしくして良い事など一つもないぞ。


「…………へぇ」


 コイツもやっと理解出来たようだな。手間がかかるぜ。





「お頭、輸送隊が到着したそうです」


 予定より早いな。全部集まるのは3日後だぞ。


「そうじゃないですよ。荷物を奪われて、隊員だけが逃げてきたようです」


 なにーーーー! 


 信じられない、なんて奴らだ。運送途中で襲うなんて、ルールもなにもあったものじゃない。


「それとお頭」


 まだ何かあるのか?


「ヘイ、他にもいくつか襲われたと、報告が来ていやす」


 こんな非道なことをする人間は1人じゃないのか?

 心の汚い人間でこの世は溢れているのか?


 それでは俺様みたいな善良な者が、バカを見るだけではないか。

 ゆ、許せん。徹底的に探し出して、必ず根絶やしにしてやる。


「それと襲撃者はこの垂れ幕に書かれていることを、口々にしていたそうです」


 ボロ布を受け取り、広げて書かれた文字を読んでみる。


 《オークはいらない。尊敬する無能者を》


「エイダーーーーン!」


 まただ、またヤツだ。俺様の邪魔ばかりをしやがって、腹が立つ。

 エイダンが甘やかしたせいで愚民どもは、貴族の尊さをはき違えていやがる。


 生まれ持った気品と強い信念、これがあるから貴族とあえるんだ。

 あんな無能者には到底ムリだ。


 こんな簡単な事さえ理解できない愚民たち。

 エイダンはそんな不敬な態度を助長させる原因だ。もう存在自体にはらがたつ。


 見ていろよ、エイダン。お前を絶対に八つ裂きにしてやる。




「執事長さん、また旦那さまが暴れていますね」


「やれやれ、またカーテンの修繕ですね。もう少し優しく暴れてくれると助かるんですがねぇ」


「ははは、優しく賢いっていったら、それはもう旦那さまじゃないですよ。

 みんなに嫌われているから、旦那さまですよ」


「取りあえず、しばらくは放っておきましょう」

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