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第54話 反乱の芽

  急いで領地に戻ってみると、信じられない光景が広がっているではないか。

 この一大事に、戦の用意もせず緩みきっている。


「お帰りなさいませ、ブレッド様。お茶をお持ちしました」


 この執事はノンキのことを! 下級民が武装蜂起を起こしたというのに、茶なぞ飲んでいられるか。


「少々湾曲して伝わったようですね。そこまでは至っておりませんよ」


 へっ、誤報なのか、ぶひ、よ、良かった。


 いや、これは見過ごせないぞ。すぐに家臣を呼び寄せ説明をさせないと。




「はい、反乱ではなく、手紙に書きましたように、減税について願いが出てきております」


 減税?


「はい、人口が半減したうえ、穀物の取れ高も減少しております。

 税金が上げられ、さらにいなくなった人口の分まで収めるのは、不可能と嘆いております」


 担当者が汗を拭いながら、話を続ける。


「実質4倍となった税に、民の生活は困窮しております。

 どうでしょう? ここは(のち)(じつ)をとると考えて、税を元に戻してみては?」


 下級民は今なにをしている?


「はい、役所の前で話し合いを希望すると、集まっております。

 本来なら少しでも稼いで、その日の糧にしたいのでしょうが、それほど切羽詰まっているのです」


 なるほどよくわかった。これ程までになっていたのだな。

 俺様は悲しい、こんな風になっているとは気付かなかったぞ。


「ブ、ブレッドさま?」


 誰も教えてくれないし、片寄ったモノの見方をしていたようだ。


 すべてうまくいっていると、勝手に満足していた大マヌケだぜ。

 傍から見たらさぞ滑稽だったろうに。それが本当の俺様であり、まさに裸の王だ。


 それに気づかせてくれた神に感謝するぜ。これは自分で自分を戒める良い機会だ。


「おおー、よ、よくぞ御改心されました。未来の名君ここに誕生です」


 ――ドベッ!――


「ぎゃー、い、痛い。なぜ殴られるのですか?」


 思っていたほど良い音は鳴らなかったな。この担当者は使えないだけじゃなく、殴り心地も悪い。


「ヒッ、ヒー。お、お止めくだ、グベッ」


 俺様は心底自分の人の良さが嫌になる。

 この担当者をはじめ、役人全体が腐っているのだろう。

 下級民と結託して、不当な利益を得ようとしているのに、全然気がつかなかった。


 もしかしたら、下々から賄賂を受け取っているのかも。

 ゆ、ゆるせん。ワイロだなんて。それはオレ様の懐に入るものはでないか。


 それをこのお役人どもは! 洗いざらい吐け、いったい幾らもらったんだ?


「た、助けてー!」


 罪の告白より、救いを先に求めるとは呆れたものだ。


 ――ドベッゴッ――


 下級民も下級民だ、自分たちの務めをわかっていない。

 誠心誠意をもって働き、この俺様に捧げる。そうする事で生かされているのに、なんたる傲慢。


 それに放棄した時間でどれだけの肉が取れ、そして金をうみ、俺様の腹を満たせれるかが分かっていない。


 これは思い知らさねばならない。下級民め、覚悟しろ。

 おい、出陣の用意をしろ!



(これはマズイですね、まだ時間はありますから、皆にこのことを知らせて、逃げるよう言いなさい)


(はい、執事長。オレの居ないあいだ無理しないでくださいね)


(はは、まだまだイーグルに尽くさねばなりません。私のことを心配いりませんよ。もう、行きなさい)


 屋敷から人知れず1人の少年が抜け出し、草むらの中を駆けていった。





 さすが俺様直々に鍛えた軍団だ。一糸乱れぬすばやい動きで、あっという間に準備が整った。

 見ておれ、下級民ども。いかに自分が愚かなのかを教えてる、行くぞハイヤー!


 そう思い勇んで駆け出したが、小一時間で着くはずの役所なのに、丸1日たった今もまだ辿り着いていない。


 途中、愛馬が暴れて落馬したのをはじめ、倒木で道が塞がれていたりと、不運が続いて進めていないのだ。


 そして倒木を片付けている間には大型モンスターが出てくるし、神は何をやっているのだ。


「はぁ、はぁ、やっと倒したか。コラ、休むな、サッサと歩け!」


 これしきのことでへたり込みやがって、少しでも甘い顔をすると、こいつらはすぐサボりやがる。


 そのせいで俺の鞭捌きが上達するばかりだ。仕方がない、俺様の愛のムチ受けてみろ!


 肉を引き裂いてやろうと、全力で振り上げたムチを木の枝がジャマやがった。


 ――ボトッ……ブーン、ブゥーン、ブーン――


「お、お頭、蜂です。逃げてください」


 はぁ? 大型モンスターでさえ倒す俺様が、なぜ小さな虫に背を向けなくちゃいけないんだ。


 こんなもの、あれ、くそ、なんだ当たらんぞ。イ、痛ってーーー! 痛デデデー。


「あーだから言ったのに。この時期のスズネバチは狂暴なんっすよ」


 バカそれを早く言いやがれ。イタ、イタ、痛いー。

 尻はやめろ、鼻もだ、バカ耳がいいわけないだろ、クソ蜂め! ギィヤーーーー!


 川、川、川はどこだ。水に入れさえすればーー、あ、あったーーー。


 ――ドボーン――


 ようやく、ハチの追撃を振り切りなんとか、ハ、ハ、ハックション、落ち着けたぜ。

 マジで神は遊んでいるのか、仕事をしやかれ。


 一息つく間もない散々な道のりだった。夜が明け、ようやく役所の前にたどり着いたのだが。


「なっ、なっ、なっ、なぜ1人もいないのだ、下級民どもめ」


 隠れていた役人がやっと顔出し、説明をしだした。


「昨日午後に、慌てた様子で解散しました。領主様を恐れたのだと思います」


 ならば、顔で誰だか分かるだろ。それで1人残らずひっ捕えてやる。


「それがそのー、口元を隠していて何者かは」


 こいつもかー! 誰1人として、まともに仕事をしようとする者はいないのか。

 ええーい、こうなったら軍団長こい。


「へい、お頭」


 この近辺の家々すべて燃やしてしまえ。


「へい、その前に家捜ししてもイイッスか?」


 イカン、今回は俺様の威厳と怒りを見せつけるため、一切合切焼き尽くせ!


「うわー、マジっすか。もったいねー」


 全世界に知らしめてやる。


「でも、雨降ってきましたぜ」


 ナゼなんだ、この時期にこんな激しく降ることはないのに、民も天も全てクソだ。

 俺様の邪魔ばかりしてきやがる。


「お頭、雨も止みそうにないし、ワインの良いのが入ったんで、館で一杯やりませんか?」


 はぁ? お前は何もわかっていない。愚民を調教する辛さと責任感。それに俺様の怒りの炎の大きさを!


「ゴルネー産のワインっすよ」


 え、最近入手が難しいゴルネー産?


「ええ、しかも3本手に入りやした」


 …………おほん、仕方ない、大事な仲間からの誘いなら断れないな。


 それに今日でなくてもいい事だ。うん、明日することにして、今日はもうおしまいだ。


「お頭、ツマミお願いしますぜ」


 おう、任しておけ!

新作をスタートさせました。【悔しいですが】こちらより【好評】な作品です。



題名

スキルレベル1/神から始まる、従魔なしのテイマーくん~奇跡のユニークジョブなら、その支援効果と従魔が桁違い。最強種族でさえ、僕のチビッ子従魔には勝てないです。それでも追放なんですよね?


https://ncode.syosetu.com/n6479hm/


ぜひ読んでください。

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