第5話 初めてのジョブ、初めての魔物退治
チョーイケメンの強力なパッシブスキル。
魅惑の香りで引き寄せる、イケメンムスク。
ひと目でお前を痺れさせる、イケメンビーム。
中毒ググッと間違いなしさ、イケメンポイズン。
改めて見ると、ロクデナシのスキルばかりだぜ。アイツらこんなのを使っていたのかよ。
この女の人達にもガッツリとキマっている分、俺の言う事は聞いてくれるみたいだ。
取り囲む人達をなんと落ち着かせて、解放してもらうことに成功した。
俺が新しく手に入れたこの力。まだまだ分からないことがたくさんある。
1つ1つ検証していかないと、いざというときに使えない。
せっかく天が与えてくれたものだ、1ミリだって無駄にはしないぜ。
ということで宿屋に戻ってきて、検証をスタートすることにした。
まずは、ジョブを手に入れることができるかどうかだ。
それにより、今後の人生が大きく変わる重要な要素だし、しっかりと見極めなくちゃいけない。
そしてそれが可能なら、どう自分に影響するかだ。
俺の基本ステータスは、鍛錬の成果もあって平均よりも随分と高めだ。
エイダン·イーグル
Lv :1
ジョブ:――
HP :17
MP :4
力 :12
体力:10
魔力:15
早さ:8
器用:8
運 :5
スキル:.
一番最初にどうしても試したいジョブがある。それは最強と唱われる【剣王】なんだ。
父様の跡を継ぐなら、将軍職や統治に最適なスキルが良いと言われていた。
しかし、何も持たない俺が本当に憧れたのは、英雄としての力強さだった。
圧倒的な強さで、人類の先頭を突き進む。男なら一度は夢見ることだ。
もしここに、俺の憧れでもある【剣王】のジョブを書き加えたらどうなるかだ。
「むっちゃドキドキするぜ」
同じ右ほほに、しっかりとした筆運びで、剣王の文字を刻んでいく。
果たして成功するのか。もしかしたら、チョーイケメンみたいに外面だけかもしれない。
いや恐れるな、新しい自分と対面するぞ。
エイダン·イーグル
Lv :1
ジョブ:剣王
HP :95
MP :50
力 :70
体力:55
魔力:60
素早:40
器用:40
運 :25
スキル:覇王剣 縮地 合剣法 地雷震 .
「な、なんだこのステータスは! 全ての数値が異常だぞ、これがジョブの持つ力なのか?」
いや、これこそが【全てを叶える者】の力だ。ジョブもスキルも、そして夢すらも思い通りだよ。
長年苦しんできた事が、こんな簡単な方法で解決できるだなんて。
そう言えば確か、Lv20の戦士の力の数値が70くらいだって、聞いたことあるよな。
戦う術がなかった俺には、縁のない数値だと気に止めていなかったよ。
だけど、剣王にとっては通過点どころか、スタート地点でしかない。
しかもこのまま成長していったら、そのLv20で、普通のLv100の能力を越えてしまうぞ。
俺はとんでもないものを、手に入れたようだぜ。
それとステータスだけじゃなく、剣王のスキルも全て習得しているなんて、どうなっているんだよ。
「スゲー本当に、本で読んだ通りなんだな」
特に剣王のことは、本が擦り切れるほど読んでいて、全て頭に入っている。
全ての剣技を修めた、覇王剣。
敵との距離を瞬時にゼロとする、縮地。
剣技と剣技を合体させて繰り出す、合剣法。
そして大地を支配し相手の足場を奪っていく、地雷震。
どれも伝説級のスキルで、このジョブを修めた人間は、歴史上10人もいないんだぜ。
「その1人に俺もなれたんだ。ウォオォゥー、やったぜー!」
感動と興奮で、俺の脳内はパンク状態だぁ。
早くこの力を試したい。その欲求だけに支配され、いってもたってもいられない。
街の外に出て、人生で初めてモンスターと戦うことを決意した。
街の近くには、危険度の少ない最低ランクのFランクモンスターが多い。
だけど、そんな弱ちいホーンラビットやスライムなんかを相手にしても、【剣王】の真価は測れないよ。
だから少し足を伸ばし、グラスウルフを3匹見つけた。
グラスウルフはこの平原だと最強種。
特に集団で狩りをする習性があるので、3匹以上だとさらに危険度は上がるんだ。
言い換えれば、剣王の力を試すには丁度いい相手といえる。
だけど用心するべき相手ではある。太い足に鋭い牙と爪。
さらに集団戦法が得意で、1匹に気を取られていると他の2匹にやられてしまう。
しかーし、こっちだって根拠なしにEランクモンスターに挑戦しようとしているんじゃない。
剣術の師匠には、呼吸と間合い、それと駆け引きに関しては認められている。
その基礎があるおかげで、剣王で上乗せされた凄さを感じる事ができるんだ。
「あはは、おぼろげだった間合いも、達人の域だぜ」
さらに相手の力量や精神状態も、手に取るようにわかってしまう。
少しの揺らぎや息遣いだけで、次どう動くかも予測できてしまうんだ。
グラスウルフたちは牙をむき出し、いまにも襲ってこようとしている。
俺の栄えあるデビュー戦、華々しく飾ってやるか。
そう思い俺は腰の剣に手をやり、3匹と対峙しようとした。
しかし。
「あ、あれ? 待て待て、ないぞ!」
左の腰にいつも下げている、愛用の剣がない!
「…………あーーー、思い出した!」
そうだ。追放されたときに、馬と一緒に取り上げられたんだった。やっべーーーー!
レベル1の俺はナイフ1つ持たずに、危険度Eランクのモンスターの前に出てしまったんだ。
「ワオォ~ン、ガウガウ」
そんな間抜けな俺を見て、グラスウルフは一斉に飛びかかってきた。
ヒィィィィ!
これは一旦、街まで戻ったほうが! だが囲むように3匹が連携していて、思うように退けない。
焦った俺は転んでしまい、敵に最大のチャンスを敵に与えてしまった。
「や、ヤバい。何か、刃物は落ちてないか!」
中央の1匹が大きく飛び上がり襲ってきた。
左腕でガードしつつ、右手で何かないかと必死に探す。
「あ、あった!」
草むらのなかで何かを掴み、それを必死に振り払った。
「キャイン」
攻撃を防いだどころか、討ち取った。
しかも、胸元からお尻まで、真っ二つに裂けている。
それを見ていたい残りの2匹も、ただならぬことに気付いたようだ。
いや、振り払った俺自身が信じられない。
なぜなら、手に握っているのは、長さ30センチほどの小枝なんだ。
切り裂いたことにも驚いたが、見るべきはそこじゃない。
小枝は折れず、しかも血液どころか、油さえも全くついていないんだ。
「……剣王」
そう言い表すしかない。その技のあまりのすごさに心底震えるぜ。
敵の方も同様に、放心状態から立ち直れないでいる。
「これはチャンスだ! 【縮地】」
スキルを発動させた瞬間、まるで空気の壁を突き破るかのような速度で前に出た。
相手の懐に潜り込んでも、グラスウルフは全く目で追えていない。それどころかまだ前を見ている。
そこですかさず【パワースラッシュ】。
これもまた構えた次の瞬間、すでに刃は体に達している。
――バグンッ!――
そして体の中ほどまで行くと、圧縮されたエネルギーが弾け、肉も骨もバラバラに飛び散ったー!
「な、なんだよこりゃ!」
パワースラッシュは剣技の中だと、1番最初に習得する初歩中の初歩だ。
それがこの威力だなんて、どうなっているんだよ。
あまりの破壊力に戸惑うのは、グラスウルフも同じ。
だけどその標的が自分になっているので、恐怖のあまり小鹿のように震えている。
初歩であの威力なら、上級とかはどうなっているんだろう。この際だ、やってみるか。
「クゥン、キュゥン」
グラスウルフは俺の笑みに反応し、涙目になってへたり込んだ。
「スマンな、運が悪かったと諦めな【雷鳴剣】」
――バリバリ、グランッ!――
鼓膜が破れる程の爆発音がおこり、枝先からのイカヅチが3匹目を襲う。
捉えた瞬間に消し炭となり、あたりに焦げた匂いが残すだけだった。
攻撃範囲を最も抑えたつもりだったんだけど、それでも10メートル四方は丸焦げ、しかも1メートル以上も地表をヘコませている。
「ヤベーのをやっちまったぜ」
完全なるオーバーキルだ。いや、握っているのは剣ですらない。
「ははは、英雄っていうのは、この境地を見ていたんだな。全く目線が違いすぎるぜ」
剣は小枝のままだと格好がつかないから、買い揃えるとして、剣技は当分のあいだ封印だな。
それに跡形も残らないと、討伐証明部位の採取もできないし、素材を剥ぎ取ることもできない。
持つ者の悩みか。まさかこんな日が、俺に来るとは。
「よーし、夕方まで狩りまくってやるぜ!」
とは言ったものの、ナゼか探せど探せど只の1匹も見つからない。
普段からモンスターの被害に悩むほどなのに、こんなことありえない。
レベルを上げたい、その一心で闇雲に走り回った。
「はぁっ、はぁっ、おかしい。全然見つからないぞ」
とても愚かなことだけど、この時の俺は、自分がしたことを理解出来ていなかったんだ。
あぁ、愚かなオレ。そうじゃないんだ。早く気付けよ。
しょうもない事だけど、答えはすぐそこにあるんだよ。