第49話 ここでやらなきゃ女がすたる
「おはよーございまーす。朝ですよー、起きてくださぁーい」
あーうー、顔を拭く濡れタオルとコーヒーをもらい、しばしテーブルでまどろむ。
その間マデリンは掃除や、道具の片付けとよく働いている。
「おはよー、あらエイダン。まだ眠そうなんてダメねぇ。水浴びでもしてきたら?」
リディは順応早いな。オレ、ムリ、ネル、シヌ。
「何言ってるのよ。今日はマデリンちゃんの装備一式を揃えに行くんでしょ?」
そうそう、昨日あれから冒険者になるメリット、デメリットの話をしたんだ。
まずメリットに関しては、ズバリ稼ぎだが、これは言うまでもないよな。
その他には名声。これは虚栄心って事じゃなくて、名が売れればその分、兄さんたちと会える機会が増えるはずさ。
逆にデメリットは、稼げば稼ぐほど次を求め、より危険なことに身を置くことになるって所かな。
「兄さんたちも通った道だもん。時間が自由なのもありがたいし、エイダン様の言う通り、どこかで会えるかもしれないよね」
これが決め手となり、マデリンは冒険者になることを決意した。
それといつまでも俺達に、迷惑をかけられないとも言っている。よし、朝ごはん食べて出掛けようぜ。
向かったのは、よく世話になっている防具屋さんで、店長に見繕ってもらうつもりだ。
最低限の装備を揃えてあげないと危険だし、安心して送り出せないからな。
マデリンは手持ちのお金も少ないので、プレゼントするつもりでいたけど、本人がそれを断ってきた。
「必ず稼いでお金は返すよ。それまで少し待ってくれるかな?」
エライ! カンドーしたぜ。
よし、本人の気持ちも固いみたいだし、無理強いはよくないよな。
分かったよ、防具と武器に解体用ナイフも合わせて全部で銀貨8枚。
貯めて返す金額としたら大変だけど、しっかり頑張ってな。
「うん、何から何までありがとう。お金は絶対返すからね」
(ちょっとエイダン。アレの何処が最低限なの。金貨70枚はするんじゃないの?)
えっ、なんのことだよ? そんな高級品て初心者には勿体ないだろ。
(とぼけちゃって。あの盾とかも付与効果ついているわよね)
(うーーーん、バレたか。マデリンにはナイショだぞ)
「2人ともどうしたの?」
えっと、薬草の採取場所を確認していたんだよ、なっ。安全な平原とはいえ気を抜くなよ。
「任せてよ、普段から薬草採取はしていたし、得意なんだよ」
いざ現場では、言うだけあって手際もいいし丁寧だ。
これなら、土地カンがなくても、2~3日教えればいけるな。
そこからはマデリン次第。初心者同士パーティーを組むも良し、ソロでやるも良しだ。
「土地が肥えてるから、薬草も立派で採りやすいね」
セッセと集め、予定していた分を集めれたので、休憩がてら昼食をとる事にした。
ここでもマデリンが大活躍。ササッと作ってくれた温かいスープが、サンドイッチによく合うし腹持ちもいい。
「スッゴく美味しかったわ」
うん、スープだけでも、お店出せるレベルだよな。
「えへへっ」
農業もできて子守りも得意、オマケに料理までとはケッコー多才だよな。
これなら、冒険者を辞めても、食いっぱぐれないね。
午後の採取を始めたけど、お腹も膨れて少し眠い。
朝も早かったし、カゼも……キモチいいし、ゴブリンしかデないトコロダシ。……オレ、ムリ、モウネル。
「キャーーーー!」
マデリンの悲鳴で飛び起きてみると、3匹のゴブリンがリディへとにじり寄っていた。
「キャー、エイダン様。リディ様がピンチだよ。助けて」
…………ピンチ?
ゴブリンごとき、寝ていても勝てる相手だぞ。ほら、リディだって欠伸しているよ。
放っておいてイイダロウ、オレ、ムリ、ネル、オコスナ。
「えーえぇぇ、ちょっ、ちょっと助け、もう! リディ様、私が助けるよ、安心して」
あっ、マデリンが前に出たよ。腰は引けているけど、盾を必死にブンブン振り回してあるから、威嚇としては効いているな。
初心者ならこんなモノかな。3匹の動きに惑わされてないし、悪くないかもな。
でも、正面に立ちすぎて、リディが手を出しづらそうだな。
「えい、えい、ゴブめ~。ぜんぜん当たらないよー。 きゃっ!」
横っ腹に重たい一撃をもらったか。ただ防具のおかげで無傷みたいだ。
やっぱ、金貨70枚の威力は伊達じゃないぜ。
「まだまだー!」
おおー、初心者ならHPが減らなくても、殴られたというショックで、固まってしまう人が多い。
それを直ぐさま立ち直り、反撃しているなんて、なかなか根性あるなー。
でも、攻撃に関しては、まだ成長の余地ありって感じだな、イヤー、いいモノ見れたよ。
「終わらすわね【ライトアロー】」
リディは加減がヘタだな、跡形も残らず消滅かよ。
それよりも、マデリン、今の動き良かったよ。構えも更に工夫すれば……。
――ビィューン!――
うおっ! 思わず避けたけどビンタされた?
「エイダン様、何やっているの? リディ様が危ない時に寝ているなんて、信じられないよ」
ええー! 怒ってるよー。
「怒るにきまっているよ! なんであんな事ができるのさ?」
だってリディはLv36、ゴブリンならかすり傷も負わないぜ。
「そんなの関係ないよ。聖女リディ様は、世界が何に代えても、守るべき存在なんだよ。エイダン様にはその意識が足りてないよ」
確かにリディの代わりになる人間はいないよ。でもな、そこを混ぜて話されると、困っちまうな。
「もーーーーいいよ、わからず屋」
仁王立ちで口をヘの字にしているのも、ちょっと可愛いな。
「これからは私が盾となって、リディ様を守ってみせるよ」
へっ?
「世界の聖なる盾となり、いかなる時も御身をお守りいたします」
片膝をついて誓いを立てるマデリン。これって自称守護騎士の誕生かな。
「もう、エイダン何ノンキな事を! いいかな、マデリンちゃん。気持ちが嬉しいんだけど、あなたには他にやることがあるでしょ?」
「ううん、これ以上大事な事なんか、他にあるもんかい」
お兄ちゃん探しはどうなった? それについさっき冒険者になった、超がつく初心者だろ。
俺たちのクラスになると、キケンがいっぱいなんだぞ?
「そんなことで怯んだら、立つ瀬がないよ。ここでやらなきゃ女が廃るからね」
ちょっと違うと思うんだけどなぁ。でも、マデリンはスゲー本気。カワイイ少女の全力かぁ、これは困ったぜ。




