第48話 かっこいい兄!そして新生活
ギルド長には二度とハメないと誓わせた。
やはり信頼関係が成り立たない限り、安心して全てを任すことができない。
「Aランクおめでとうございます、エイダン様、リディ様」
改めて言われると照れるな。無能者がついにAランクか。
ここは素直に喜ばさせてもらうよ。
俺たち3人は、ワイワイと騒ぎながら部屋を後にした。
するとロビーに出た瞬間、大きな拍手と歓声に迎えられた。
「久しぶりのAランク誕生だ。おめでとー!」
「ジェントルマンヒーローAに大躍進だな」
「メシおごれよー!」
ははは、普通逆だろ。なにはともあれ、これだけの人に受け入れられている人生だなんて、つくづく感謝だよ。
「今夜はお祝いね。マデリンちゃんも一緒よ」
「うん、兄さんたちに会ったら自慢します」
そうだったよ。ウッカリしていて、兄弟捜しを忘れていたぜ。
すぐメグミンに話し、3人の兄グライン、チェイン、パラインの名を冒険者リストで捜してもらった。
「そういえば、マデリンちゃんのお兄さんって、どんな方たちなの?」
「えへへ、3人ともドワーフ族とは思えないスラッとしたスタイルで、村でも評判のイケメンだったんだよ」
おお、マデリンも美人だしうなずけるよな。
「金髪のサラサラヘアーで、いつもキャーキャー言われていてさ。それに強くて男気があって、とても頼りになる3人なんだよ」
そのうえ冒険者稼業で稼いでいたら、さぞモテモテだろうな。
「えへへ、Aランク様といい勝負かもしれないかなぁ」
本当に兄のことが好きなみたいだ。特徴があるしすぐに会えるさ。
そんな話して盛り上がっていると、メグミンが遠慮がちに話しかけてきた。
「あのー、照合結果なんですがー、該当する名前がありませんでした」
え、ウソだろ。あっ、もしかしたら、偽名を使っているかもしれない。
冒険者には少なからず、そういうものがいるからな。
「はい、私もそう思い、言われた外見の3人組みを探しました。
ただ古参の職員にも、心当たりがないとの事です」
う~ん、仮に偽名を使っていて、個別に活動されていたら、こちらから見つけるの難しいな。
「ええ、向こうに見つけてもらうしかないわね」
それも向こうが、探そうという気にならない限り、難しい相談だな。
ショックを受けているマデリンに、この事は話せない。
唯一の家族を頼ってきたのに、いきなり望みが絶たれたんだ。これ以上悲しいことはたくさんだ。
「これから私どうしたら良いのよ。兄さん」
オロオロと崩れるマデリンを、リディがそっと支えてあげている。
「可哀そうね、エイダン、ねえ」
「ああ、俺らの宿のベッドが1つ余っているんだ。兄さん達が見つかるまで、それを使いな」
ゲストルームってやつで、使っても使わなくても料金は変わらない。
むしろ使ってくれることで、こちらが助かるぜ。
「そんなの悪いよ。ここまで連れて来てもらっただけでも申し訳ないのに、これ以上はダメ、ダメ」
いいんだよ、それとも俺に、困っている人を見捨てろというのか?
俺はマデリンにとって恩人だろ。恩人をひどい人間にさせるなよ。
「えっ、そんなつもりじゃあないんだよ、ゴメンよ」
「もう、エイダン。そんな言い方をしたら、マデリンちゃんがカワイソウでしょ。エイダンの冗談は放っておいていいからね」
ははっ、ゴメンよ。見つかるまでの間だけでいいから、リディの話し相手になってくれ、頼む。
「そ、そんな、こちらこそお世話になりますです」
そうと決まったら、酒場で宴会だー。
冒険者の朝は早い。グズグズしていたら、割の良いクエストはすぐ取られてしまうし、早く動けばその分たくさん稼げる。
基本的に真面目な人種が多いんだ。
しかし、それよりもさらに早い人達はいる。
「おはよーございまーす。朝ですよー、起きてくださぁーい」
日の出よりも早く働く人たち、そう農家さんだ。
マデリンは生活サイクルが染み付いていて、今朝も日の出よりも2時間前に、動き出していた。
「酒が、もう少し寝かせへて」
「いい若い者がー、ほら起きて起きてー」
顔を拭く濡れタオルとコーヒーをもらい、しばしテーブルでまどろむ。
その間マデリンは掃除や、道具の片付けとよく働いている。
「おはよう。マデリンちゃんって早いのね」
あー、今日から他のギルドや役所で、兄捜しを頑張るって、張り切っていたからな。元気が有り余っているんだろ。
「ふぁ~、昨日はあんなにハシャイでいたのに、元気よね」
マデリンが想像していたより、豪華な宿と食事なので、悲鳴を上げて固まっていたっけ。
『何コレ! キャーきれい。カーテンに絵があるなんて、ここは天国なの?
ベッドもフカフカだし、鏡もお姫様じゃんかー!』
年頃らしい反応だし、気にいってくれたようで安心したよ。
あの子に合わせて、宿のランクとか下げるつもりはないもんな。
その分いつまでも世話になれないと、早く兄を見つけると決意を固めたようだ。
「さぁ食事の時間だよ、下へ行こう」
もうそんな時間か、体は重たいけど仕方がないな。
「ゴハンって、二度寝が出来ないのね、グスン」
兄弟が見つかるまで、しばらくの間は観念しておきな。
食事を終えて、まず向かったのはドワーフ族の多い鍛冶ギルドだ。
「サラサラヘアーのイケメン3人? おいおい、俺たちゃドワーフだぜ。エルフか何かと勘違いしいないかい?」
俺だってスリムな体型のドワーフなんて、想像つかないさ。
「本当にカッコいい3人なんだよ。いつも笑顔と流し目で、女の子達はメロメロだったよ」
「それだったら、ウチみたいな汗臭い所じゃなくて、役者かなんかになっているんじゃないか?」
これは考えていたことだ。ギルドに名前がなかったし、見た目がいい。
他の職業に就いていても、おかしくないんだよな。
それに拠点にしている場所だって、この街以外というのも考えられる。
そうなると探すのも長丁場になる。俺たちはいいけど、マデリン本人がどう考えるかだな。
その後もこの街にある全てのギルドや、人の集まりそうな場所を訪ね、捜索依頼を出すことにした。
「何から何までお世話になって、本当にありがとうございます。
それでー、あのう、今後についてなんだけどさ。
働きながら、兄さんたちを探していこうと思っているんだ」
口ごもる理由は、仕事と捜索どちらにウエイトを置くかで、悩んでいるみたいだ。
徒弟制度のある仕事では、食いっぱぐれはないけど、自由な時間はない。
ヘタしたら、捜索は何年も諦めなくちゃいけない。
逆に手伝い程度の軽い仕事なら、時間がとれて探しやすい。
しかしその分、俺たちに頼ることになるので、それが心苦しいみたいだ。
「あ~あ、農家の仕事があったらいいのになぁ」
季節雇いとかあるらしいが、この都会だとなぁ。
「だったらマデリンちゃん、思いきって冒険者になってみたら?」
マデリンは目をまん丸にしているけど、悪い考えじゃないと思うよ。




