第2章47話 ギルドランクの色
「ふぇ~、なんだよ~、この高い建物は?」
マデリンと審査官さんを含めた俺たち4人は、グーリグリの街にたどり着いた。
「マデリンちゃん、これは街を囲む外壁よ。街はこの中にあるのよ」
「ふえーー!!」
村から1歩も出たことないマデリンにとっては、3階建ての建物さえも、どこぞの宮殿に見えるらしい。
ロリッ娘ドワーフが、おのぼりさん丸出しだと危ないぞ。人さらいの良い標的だ。
「石造りの家も多いし、あれ? 家畜や畑はどこだい?」
俺の言葉も、耳に入らないくらい興奮しているな。
キラキラした笑顔であちこち目を向けているけど、露店とかもっと女の子向けのところもあるだろ。
そこに目が行くなんて面白い、カワイイ子だな。
もうすぐで冒険者ギルドだけど迷子になるなよ。
「わ、分かってるよ!」
ギルドに来た目的は2つ。依頼者が不在となったが昇格試験を兼ねたクエストの報告と、マデリンの家族の捜索だ。
まず面倒事から片付けるか。事前に報告は行っているようだし、時間もかからないだろう。
「お帰りなさい。エイダンさん、ギルド長がお部屋でお待ちです」
普段ではクエスト報告は、カウンターで済ませるよな。
それをいきなり拷問部屋だなんて、嫌な予感がするんだけど。
するとそれに審査官が答えてくれた。
「いえ、貴方というよりは、ギルドとしてのケジメをつけるためです。少しだけお付き合いください」
その言葉に思い当たるのは1つ。ガマゲン副ギルド長による、故意の情報操作だ。
大量のゾンビ発生の事実を掴んでいながら、その数をごまかし冒険者をクエストに向かわせたんだ。
あれは俺じゃなかった死んでいたよ。
これは立派な犯罪だし、道徳的にもギルドとしてもやってはいけないことだもんな。
部屋に入ると、ギルド長とガマゲンが待っていた。
「おお、大活躍だったな。やはり、ボクチンの目に狂いはなかったよ」
意外にも、1番に出迎えてくれたのはそのガマゲンだった。
「このギルドからも英雄の誕生だな、わっはっはー」
この人が何をやったか知っている分、しきりに俺を持ち上げて取り繕おうとしている演技だなんて、白々しくて見ていられないぜ。
「ん、ん、どうした。何百も打ち払ったんだろ、それとも何か問題か?」
シラケた雰囲気の中、べらべらしゃべるがガマゲンに対して、審査官さんが遮るように話し始めた。
「そうですね。楽しい話よりも、面倒のことを先に片付けましょう。
ガマゲン君、横領と職権乱用および殺人未遂の罪で、あなたはクビです。
ちなみにこちらが証拠資料です」
ドサリとだされた資料に、さっきまで饒舌に話していたガマゲンは、口をアングリとさせて固まっている。
アウアウと震えながら、〝証拠なんかあるもんか〞と現実が見ずに半狂乱だ。
「ですからこちらが証拠です。それに今ご自身で何百ものと、現場しか知らない情報を言いましたよね。
証拠がありすぎて困るぐらいですよ」
「ありえん、デッチ上げもいいとこだ。もしこの事をボクチンの実家が知ったら黙っていないぞ」
「それについてはペンパル王国も動き、あなたを永久追放するとのことです」
「……あ、う……え、と」
そこまで話が進んでいたのか。これでもうガマゲンは終わりだな。
権力を盾に悪事を働くことはもうできないどころか、世界各所にあるギルドと国からの裁きを受ける事になるだろう。
「う、ウソだ。ボクチンは悪くないのにー。
うー、エイダン。お前がボクチンの金を取ろうとするからー、こんなことになったんだ、責任をとれー!」
振り上げた拳は俺には届かず、控えていた衛兵に取り押さえられた。
「クソー、覚えてろー! お前のせいだ、この守銭奴め。ボクチンに言うべきことがあるだろう」
「あー、自業自得とはいえ、これからの人生、気の毒に思うよ」
「ぎ、ぎ、ぎざまに言われたくないわーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!」
ノドまで潰したな、これからしっかり働かなくちゃいけないのに大丈夫か?
「さて面倒ごとも終わりましたし、楽しい報告をするとしましょう」
もう何もなかったかのように、皆が陽気にふるまいでした。
いつまでも引きずりたくない事だし、俺も試験結果を聞きたいぜ。
「あー、ちょっと待て、こっちも準備がな。えっと、あのセリフでいいんだよな?」
あのセリフ?
「あーえーうー、えっとなんだ、えーえー、うん、だな」
どうした、触りにも入っていない。もしかして緊張している?
「そ、そんな事はないそ、うん。
コホン、それよりシケンカンとしてのケッカをキカセテくれ」
乾いた笑顔で目も泳いでいる。はっはぁ~ん、何か誤魔化そうとしているな。ぷぷっ、ちょっと付き合ってやるか。
「報告します。2人の過程での行動ですが、一般的なものとかなりかけ離れていました。
例えば、依頼者側への過剰な介入をしていましたね。
それと虚偽の依頼内容に対しても、ルールに従わずそのまま続行をしました」
うっ、確かにその通りだけど改めて聞くと、かなりヤバイやつの行動だよな。
組織にしたら扱いづらい事この上ないぞ。
「うふふふ、貴方らしいじゃない」
「それと住民の避難に関しても、審査官であるこの私を利用し、使えるものは何でも使うといった方針のようですね」
あの時は最善だと思ったけど、傲慢だったかもな、反省だぜ。
「ではカレラら2人はギルドランクBをナノルに、フサワシクないのかね?」
「ええ、ランクBなんかトンデモないですね。
彼らに相応しいのは、一流の証となるギルドランク〝A〞が妥当でしょう」
はぁ? C、Bをすっ飛ばして、いきなりランクAってありえないだろ。
これか~、俺が嫌がりそうだもんなぁ。どうりで芝居がかっていると思ったぜ。
「オオ、スバラシイ。ミライあるワカモノにふさわしいヒョウカではないか。ワタシはカンドーをしたぞ」
ぷぷっ、ギルマスの完全な棒読みで、スベりすぎだぞ。
表情筋が死んでいるし、せっかくの仕込みが台無しだろ。
これはお仕置きだなと、リディに合図をするとやっぱりだという顔をしてきた。
よし、こっちも本気モードで小芝居な。
「本来なら、リッチ討伐の功績でランク〝S〞が妥当だと思いますが、私自身にその権限がないのが残念です」
Sって。もし、そんな事になるなら、他の国に逃げてやる。
「ふむ、ではこのショウゲンにより、エイダンとリディの両名をランクAボーケンシャとニンテイする」
「ちょっと待て。その認定は受け入れない、辞退するぜ」
「え、え、ソコはハイだろ」
ランクAにさせられたら、厄介ごとが舞い込んでくる。
最強至高を目指しているけど、社会のシガラミはまっぴらゴメンだぜ。
と言うか、これはBランクへの昇格試験だろう。
騙し討ちみたいな真似するなよ。こんなのに付き合う義理はないぜ。
別にギルドに所属しなくても、稼ぐ方法はいくらでもあるんだからな。
「そうね、エイダンなら個人でも大丈夫よ」
「おい、待ってくれ癇癪起こすなよ。説明だけでもさせてくれ」
今さら、あんたの何を信じればいいんだ?
「そうだよな。だけどこの国に、高ランクの冒険者が少ないの知っているだろ? ギルドの方も必死なんだよ」
活発なモンスターの動きに、人類は日々対応に追われている。
生き残るために、少しでも多くの人材を育て、攻め続けなくちゃいけない。
しかしな、そこに俺の意志は反映されていないのが、気に入らないな。
あんたも本部からの突き上げで、やったことなのだろう。
でもそうしようと決断したのは、ギルド長自身だ。同情の余地はないぜ。
「ほ、本当にギルドをやめるのか? そ、そんなに拗ねるなよ」
拗ねもするさ。今まで信頼していたのに残念だ。2人とも行こうぜ。
(エイダン、いつまで続けるつもり? ギルド長さん泣きそうよ。そろそろ許して上げたら?
あら、待ってマデリンちゃんが……)
ん? マデリン、思い詰めた顔をしてどうした? (この子までノッテきたか)
「エイダン様、冒険者を辞めちゃうのか?」
いや、キルドへの所属をやめるだけだよ。個人で悠々自適にやっていくさ。
「じゃあ、今回みたいな事や、他の人じゃどうしようもない事が起きた時、どうしたらいいだよ?」
さっき立ち寄った宿屋に来てくれれば、いつでも大歓迎だよ。
「ううん、そうじゃない。エイダン様を知らない人は頼れないんだよ。
助けてもらえる人がいるのに、その存在を知ることが出来ないんだよ。
もしかしたら、その人そのまま諦めるかもしれないよ」
あれ、もしかして本気だったりする?
「本気だよ、だってあんな絶望。怖くて、悲しくて、心細くて。おもいだしただけでも震えてくるよ。
でも、笑って救ってくれたのは、エイダン様だけよ」
そうだった。この子にしてみたら、暗い部屋の中で1人、誰にも言えない秘密で苦しんでいた。
どういう経緯であっても、救いだし心の枷を外したのは俺達だ。
「エイダン様が来なかったら、お母さんだって今も彷徨っているかも」
…………マデリン、俺の力はみんなに必要か?
「うん、私も村もみんな助けられたんだよ。嬉しかったよ、ありがとう」
リディ、俺はどうしたらいい?
「お人好しのエイダンに任せるわ」
おフザケはここまでにするか。ギルド長、あんたの提案ランクアップの件を受けるぜ。
「ほ、本当か! メグミン、エイダンの気が変わらないうちに手続きをしてくれ」
リディが優しく寄り添ってくる。さっきの小芝居に、少し本音も混じっていたのがバレたかな。
「ふふふ。エイダンは、みんなの笑顔が好きだもんね?」
リディには敵わないな。そうさ、苦労するのは俺1人で充分さ。それとマデリンにも感謝だよ。
「お待たせしました。新しいプレートです、どうぞ」
ギルドランクAを表す金色のプレート。マジマジと見つめ首にかけた。
「格好いいわよ、エイダン」
まっ、この色に恥じないように頑張ってみるさ。




