第45話 魔導の真髄
「大したことないって、何1つ通じてないじゃん。聖女様も何か言ってやって下さい」
いや、先ず自分に強化魔法1つもかけずにいるなんて、戦う姿勢がなっていないし、警戒する相手じゃないぜ。
たぶん生前は権力に取り付かれた、頭でっかちのド素人だぜ。
身につけているものもさ、有効性よりも金銭的価値で選んだみたいで、何1つ特別な効果もないんだ。
『ぬぬぬぬ、誰がお坊チャマだー! そんなふうには誰にも呼ばせない。取り消すんだ』
あっ、ど真ん中貫いちゃったみたいだな。これぐらいで取り乱すなんて、よほど甘やかされてリッチになったな。
『ヌオー! 許さん、ゆるさん、許さんぞー』
少し煽っただけで魔力が乱れているし、警戒レベルをもうひと段階下げても大丈夫だな。
「バケモノ兵士、これ以上言わないでよ。ああぁ」
う~ん、言葉でいうより見せたほうが早いな。マデリン退って見ていな、魔導の真髄を教えてやるよ。
『小賢しい。貴方こそ限りある命の限界を、私の最強魔法で学びなさい』
リッチは魔法陣の術式展開をし、長い詠唱に入った。
青白く光る魔方陣は、詠唱が進むたびにより強い光を発していき、空に濃い魔素が集めていく。
『君達の減らず口にはウンザリしましたよ。あと数秒ですが、後悔をしながら死んでいきなさい。《コスモインパクト》!!』
轟音が響き雲をかき分け、炎の玉が降ってきた。
直径5メートルもの燃え上がる無数の隕石、恐怖の象徴といえるだろう。
「ぎゃーー! この世の終わりよ、ああぁあぁ」
マデリンは取り乱してあるけど、この状況をリディと俺は冷めた目で見ている。
軍隊相手ならともかく、1人の相手にこれ?
虚栄心だけだな。魔力のムダ使い、能力誇示にも程がある。
魔法の階級が初級や上級と、分けられている理由はその術の難しさと、必要とされる魔力の違いによるものなんだ。
極上魔法のコスモインパクトを打つには、弱者にはできないし、他者からの尊敬を集めるには十分だ。
しかしそれは強さの証明にはならない。
魔法自体、初級とされる魔法であっても、威力の上限はない。
つまり、初級であろうとも、こめる魔力と消費MPの違いで威力が変わってくるし、大袈裟な極上魔法にも充分対抗出きるんだよ。
「エイダン、マデリンちゃんが気絶しそうよ」
「はははっ、マデリン安心しろ。逆に俺は最弱魔法を使って、ヤツのヘナチョコ魔法を打ち砕いてやるぜ《アイスパレット》」
造り出した拳大の氷の塊を、間近に迫った隕石に衝突させる。
ぶつかる瞬間、俺がこめた魔力が隕石の炎に侵食していく。
炎を消し去り岩を砕き、小さくなった塊を蒸発させて、その存在を無きものとしていく。
巨大な隕石はあっという間に霧散した。
『うっぐ! ま、まだだ。残りがまだある。叩き潰されろ』
威勢はいいけど実力不足だな。俺はさっき使った氷を上下左右と操り、次々と隕石を打ち落としていく。
ただの一つも大地に着弾することなく、魔素へと還元させてやったぜ。
『ば、馬鹿な……』
この事実をリッチ受け入れることができずに、ただただ呆然としている。
『な、何故だ。なぜこんな芸当ができる。み、認めんぞー!』
このリッチは魔導の理について、深く理解が出来ていない。
物事の本質を見極めず、ただ術式に沿っただけの優等生だ。
人の後をついていけるが、それより先には進めない。
『我が死霊の魔法は完璧だ。たからこそ、リッチとなり高みに登れたのだ。
矮小な虫に説法を説かれるまでもないわー!』
自分の無力さを認めるの辛いだろうが、現実に目を背けない事こそ、魔導の真髄に近づく第1歩だぞ。
『ふざけるなー、許さん、ゆるさーん《ダグネスストーム》』
理解しようとせず、俺の言葉に動揺をしているせいで、益々不安定な魔法になっている。
こんなの魔法を使うまでもない、魔力と覇気で十分だな。
――バウンッ!――
巨大な竜巻は俺の覇気に触れると、とたんに形を崩しそよ風へと変わった。
『そ、そんな。…………わたしの……費やした時間は。
いや、分かったぞ。幻術だな、ははっはーっ、危うく騙される所だったわい。
これが現実なはずがない、不死を得た私が遅れをとるなどあり得んわ』
……そうだな、不死を得るのに、費やした犠牲はどれほどのものか。
家族や地位や人生を全て捧げたのかもしれない。
せめてもの報いとして、俺も少しは本気を出してやるぜ。
意識を集中させて、2つの魔法陣をつくり出す。
その2つは対象者を中心にして、挟むように同じものを展開させるんだ。
『こ、これは魔法の並列展開!
あ、ありえん。私ですら到達できなかった境地。こんな若造にできるはずがない』
悪いな、それは1対だけじゃないんだ。
『な、な、なんと。左右にもだと?』
いや、足元と上を見てみろ。三対の魔法陣が結界となり、お前が逃げる隙間はもうないんだよ。
更に多重積を構築し、気体と魔素の圧力をかけてやろう。
『グウーオォォォオー! か、身体が……』
まだ潰れるなよ、ここからが本番なんだ。
「せ、聖女様。空が、空が落ちてきます!」
幾重にも重ねられた魔力の渦に、空間さえもゆがみ始めた。
これ以上やると後始末が大変になるから、ソロソロ決めるぜ。お前に見せるのは三魔一体超絶魔法だ。
《レ浸ぐイ蝕らジ毒なン地だラ獄ほーヴァ痛りー》
『ど、同時詠唱。……カ、カミの御業ではないか。う、う、なんと』
俺は濃縮した魔力によって、口元だけを2人の自分を作り出した。
それにより、本来の俺とは違う別の呪文を唱える事ができ、同時に3つの極大魔法を放てるんだ。
荒れ狂うマグマがその身を焼き尽くし、地獄の毒が神経を蝕み心を壊す。
そして強い光の清らかさが、邪悪な霊体と魂をすり潰しながら浄化をしていく。
『ぐが峩々ギャにぐがーわー!』
肉体、精神、魂までも同時に滅するこの技。全てが消滅するまで魔法陣が解かれることはない。
『ご、ごれが、至高の力ががががが』
その言葉を最後に全てが消滅し、魔法陣も消え去った。その場に残った熱量だけが、戦いがあったことの証拠だ。
「す、すごい。凄いよエイダン様!」
お、バケモノ兵士から格上げだな。
「エイダン、格好よかったよ。それにしても、あんな凄い魔法を使えたんだね。ビックリしたよ」
いや、さっきのは俺の最高位の魔法じゃないんだ。まだ上のがあるんだぜ。
「ははっ、やっぱエイダン様はバケモノだよ、あははっ」
いつの間にか昇っていた朝日に照らされて、俺たちを本当の平穏を感じれた。
読んで頂きありがとうございます。
今月中には【新作】を始めます。
少しはマシになっているとオモイますので、良かったら覗いて下さい。




