第42話 乱戦
マデリンを探してみせるとは言ったものの、索敵レーダーのどこにも映らない。
もしかして、もうすでにエリアの外まで、避難をしているのかもしれない。
「エイダン、今度はハーピーの大群よ」
あれから散発的にやってくる、モンスターをさばき、それが終わったら杭を抜いていく。
そしてその2つをこなしつつ、マデリンを探すから大忙しだ。
「おう、《サンダーストーム》。リディも後ろから来ているぞ」
「うふ、ありがとう」
サンダーストームはMP消費が激しいが、ついでに杭も抜けて一石二鳥になっているな。
やっと半分ほど抜ける頃には、日も暮れ始めた。
「休憩は取れるけど、さすがに1日中はしんどいな」
あまり睡眠もとれていないし、夜通しの強硬策だ。
襲撃の合間には少し腰掛け、体を休めつつMPポーションを流し込む。
リディも限界が来ているはずなのに、気を張って村の入り口の方を見張っている。
「少しは休みなよ。俺がレーダーで見ているからさ」
今は森の方も動きはなく、いまなら食事もとれるはずだ。
マジックバッグからホットドックを取り出し、リディにも渡す。
「ふぅ~、ありがとう。魔素の流れも落ち着いてきたし、もう少しじゃないかしら」
そうだといいのだがな。おっと、動きがあったぞ。
「うん、急いで食べちゃうね」
あはは、ほら、ノド詰まらせちゃうぞ。
リディを尻目にレーダーを確認すると、おかしなことに気付いた。
突如レーダーに出た2つの反応は、村の家の中に現れていたんだ。
抜け道か? それ以外の反応はなく、家を出た2つはそのままこちらへ向かってきた。
「あそこの角から出てくるぞ。リディ、うしろへ」
何処からやってきた? その疑問は残るけど、モンスターとコミュニケーションはとれないので、情報は得られない。
あとでその家を調べるしかないだろう。
来た、先頭は女性のゾンビでその後が……。
「マ、マデリン?」
先をいくゾンビを追いかけるのに必死で、こちらには気づいていなかったようだ。
「マデリンちゃーん、おーい」
ゾンビを引き留めている動きをしていたマデリンは、ハタと気がつきこちらを見た。
「あー、バケモノ兵士じゃん!」
誰が化け物だ。必死に村を守っているんだから、ヒーローてぐらいは言って欲しいよ。
「マデリンちゃん、今までどこにいたの? 村のみんなも心配してたんだよ」
リディにそう聞かれたマデリンは、明らかに目線を逸らし、何か誤魔化そうとしている。
「ち、地下よ」
どうりでレーダーに引っかからないワケだ。下には意識向けなかったよ。
「ご飯はちゃんと食べてたの? お腹すいてるならこれを食べなさい」
リディはバッグからサンドイッチを取り出し、マデリンに渡した。
リディの勢いに圧倒され、思わず口に頬張っている。
続いて出されたお茶にも、反応してゴクゴク飲んだ。
よっぽどお腹がすいていたんだろう。
「お姉ちゃん、ゾンビのことは聞かないの?」
先頭にいたゾンビがすでに、杭に取りついている。
「あなたのお母さんでしょ。ソックリなんだもの、分かるわよ」
背中には大きな切り傷があり、話に聞いた通りマデリンをかばって死んだのだろう。
「うん、私の大好きなお母さんなの」
その母親は杭に取りつき、抜こうと必死にもがいている。
そんな母親を見ながら大粒の涙を流し、今まで会ったことを1つ1つ話してくれた。
母親がかばってくれて自分は助かったが、すぐにゾンビ化した事。
それは親が死んだことよりも恐ろしく、何日も受け入れることができなくて苦しんだらしい。
おとなしい昼間のうちに、外に出ないよう縛り付けたりもした。
でも夜になると、他のゾンビのように広場に向かおうとして困ったと。
嘆くことしかできなかった毎日だ。しかしある時、母親ゾンビのつぶやきに、心を許し信じるようになったそうだ。
〝たすけないと、助けないと〞
そう繰り返していたそうだ。もしかして、自我が残っているのか?
「分からないよ、他のことは話しかけても、まともに返ってこないもの」
いま外に出てしまったのは、今まで閉じ込めていれたので安心してしまい、不意をつかれたらしい。
「マデリンちゃん、安心して。あなたのお母さんは正気よ」
隠れていたマデリンが、知らない事実を1から教えてあげた。
呪詛によりこの地が汚された事。
ゾンビはそれを阻止するために、屍となった今も必死に抵抗する人達って事だ。
「じゃあ今もお母さんは、私を想ってくれているの? 私を覚えてくれているの?」
「ええ、その通りよ。あなたのお母さんは立派で優しい方よ」
子を想う母の気持ち。懐かしい、俺の母様の眼差しもいつも愛に溢れていた。
「私も、私も手伝いたい!」
ああ、一緒にこの局面を乗り越えようぜ。
そんな感傷に浸っていると、レーダーに動きがあった。
「2人とも、モンスターだ。俺の後ろに隠れるんだ」
15匹のポイズンタラントが、上下左右に広がり姿を見せた。
長い節足は毛だらけで、ワサワサとくりだし迫ってくる。
「「「き、き、きしょーーーー!」」」
マデリンの悲鳴がウルサイ。
「バケモノ兵士だって叫んでいたでしょ」
う、そんなことより退がって。敵は立体的に襲ってくるぞ。
ここになだれ込まれる前に、一気に殲滅するぜ。
【フレイムエクスプロード】
荒れ狂う炎の王が、すべてのクモを焼き払った。
過剰攻撃なるが、この勢いで攻めてくるからそうも言っていられない。
レーダーには第2波第3波の影が映っている。正確には分からないが、かなりの数だ。
俺たち3人に被害はないけど、ついに突破され2匹ほど球体に飲み込まれた。
邪悪な力が膨れ上がり、音と波動でプレッシャーをかけてくる。
このまま敵の数が増えれば、押しとどめることはできない。
超絶魔法などで一気にカタをつけたいが、その破壊力と強大な魔力が、あの球体にどう影響を及ぼすかもわからない。
しかし何か手を打たないと、このままではジリ貧だぜ。
「エイダン、あれ見て!」
リディが指差す森の方向を見ると、その場を覆いつくすほどの黒い集団が迫っていた。
「ああ、このタイミングで援軍とはな」
徐々に押されつつあった、俺たちに与えられた光。
日が落ちたことで、1000体ものゾンビが集まり、邪悪な魔力を注入する杭を抜き始めたんだ。
「俺たちも負けていられないな。1匹たりとも通さないぜ」




