第39話 調査再開
村人たち全員に集まってもらい、それぞれ個別に聞き込みを開始した。
しかし、
「私も村長として、立ち会うからな」
村長の厳しい表情があるので、村人たちも言葉を選びつつ話をしてくる。
まぁ、その土地の習わしや風習ってものがあるから、一概に村長だけを責められない。
俺も領地での住民との関わり合いには、随分と気を使ったな。
こちらの常識だけじゃあ、通じないんだよ。
とりあえず村長が横にいながら、村人からの聞き取りを始めた。
「あっ、エイダン。危ない!」
振り向くと拳大の石が飛んできて、危うく当たるところだった。
茂みの向こうから投げられていて、かなりのスピードだ。
ヒョイヒョイ避けると向こうはムキになり、更にドンドン投げてきた。
「コラー、マデリン。イタズラは止めろ」
村人が追い掛けるのは、年の頃10~12才のドワーフ族の少女だった。
逃げながらヒットアンドウェイで石を投げ、村人なんか近付けさせない。
「なかなか上手ね。しかも、可愛らしい女の子よ」
でも、やっている事はえげつないぞ。
投げている石も、足のすねを狙ったりして機動力を奪っている。
「イデデ、こら! お客さんの前で」
「バーカ、そいつは客じゃなくて侵略者だ。お前らこそ恥を知れ!」
なるほど、そういう事か。
「ハァッ、ハァッ。すばしっこいヤツだ。スミマセン、ちゃんと叱っておきますので、許してやって下さい」
少女はスゴく憎々しげに、俺を睨んできていたな。
「はい、実はあの子襲撃された時に、目の前で母親を殺されたんです」
命乞いする母親を、太った兵士が笑いながら切り刻んだそうだ。
可哀想にな。それだから武装している俺を嫌うのか。
「本当は明るくて、母親想いの良い娘だったんです」
事件が起こるまでは、普段の仕事だけじゃなく、近所の小さい子供たちの面倒をよく見たりと、母親と2人仲良く暮らしていたそうだ。
しかし、たった1渡の暴力が、あの娘の全てを奪ってしまった。
ブレッド、お前がやっている事は、誰も幸せにしていないぞ。
この光景をアイツに見せても、何も感じないかもしれない。それでも、言わずにはいられない。
それにああいった子の為にも、この事件早く解決してあげないとな。
「そうね、私達に出来ることを頑張りましょう」
そのあと、村人の協力でだいぶ把握できた。ただ、今までと重複するとこが多いな。
1.ゾンビは元村人もいるけど襲ってこない。
2.ゾンビの種類は人間しかいないとの事。
(この付近にも魔物や野生動物もいるので、その他の種がいてもおかしくないのにだ)
3.広場に入られるのを嫌がっているのは、何故か村長のみ。
4.その広場に集まってくるが、一度だけ杭を抜かれた事があるそうだ。
その時は慌てて戻して事なきを得たみたいだ。
「微妙に村長から聞いた話と、違うところがあるわね」
村長は今まで見たゾンビの中で、元村人はいないと言っていた。
しかし昨日の中にもいたと、村人は証言している。
仮に村長はみんなの顔を覚えないとしたら、薄情な人だと思う。
そういった施政者はいるが、村などの小さなコミュニティーでは珍しいんだよな。
その時の村長の反応は、言い方を間違えたのかもと誤魔化していた感じだし。
言葉で言い繕っても、仕草で何かを隠そうとしているのが見える。
何をそんなに知られたくないんだろう?
それともプライドが高くて、自分の間違いを認めたくないクチか?
どちらにしても、村全体がまとまっていない不思議な状態だな。
――ビュッ――
また、石が飛んできた。
姿も見えていたので当たりはしないけど、なかなか球筋は良い。
「また、マデリンか、やめなさい」
「うるさーい、あんた達こそ兵士にシッポ振って! 死んだ人たちがカワイソウよ」
この娘の顔のアザは【ここでやらなきゃ女が廃る】だ。
一途な感じの性格かな。しかし、こんな長い文章のは初めて見たぜ。
本人に聞かないとわからないが、色んな要素やスキルを持っていそうだな。
それはさて置き、この騒動の事を何か他に知っていないだろうか。
話を聞きたいけど、ちょっとこのままじゃ無理そうだな。
でもこういった子は真っ直ぐに接すれば、素直な反応があるはず。ちょっと試しに聞いてみるか。
「ねぇ、君」
俺は踏み出、し少女の目の前に立った。
20メートル以上離れた場所から、瞬時に現れた俺を見て目を丸くしている。
最近のレベルアップで、素早さもかなり上がっているし、一般人から見れば、瞬間移動かと思うほどの速さだな。
「なぁ、俺は兵士じゃなくて冒険者だ。人じゃなくモンスターを狩るのが仕事さ。
だから、村人に危害を加えるつもりはないんだよ」
「ギャーーーー、バケモノーーー!」
ヤバ、やり過ぎたか。仲良くなるつもりだったのによ。
「べーだ。バケモノ兵士、サッサと出ていけー」
この子から話を聞くには、時間がかかりそうだな。
他に誰か話を聞こうかと思案していると、村長が厳しい顔でやってきた。
「そろそろ、もういいだろ。これ以上村を荒らさないで欲しい。お前達も、もういいな!」
村人も村長に押さえ込まれ、強制終了となってしまった。
ゾロゾロと家に帰っていく村人、背中を丸めて残念そうだ。
「しょうがないわね。それなら広場の方を調べてみましょ」
改めてゆっくりと見たが、広場には杭が規則正しく並んでいて、とてもきれいな状態だ。
村人たちが大事にしている証拠だな。
でも、何か引っかかるな。
「ちょっと綺麗すぎない?」
うん、そうなんだ。この村は襲撃を受け、その爪跡をたくさん残している。
柵は叩き壊され、家は焼かれて全てが踏み荒らされている。
それなのに、この場所はきれいなままで、杭には煤の1つすら付いていない。
膝をつき地面を見ると、更におかしなことに気付いた。
それは土と杭の境目が、馴染んでいないんだよ。まるで昨日今日のような新しさがあるんだ。
リディと2人で考えていると、さっきのマデリンとかいう女の子を見かけた。
広場の近くにある家に入っていった。そこが彼女の家のようだ。
「さっきのノリじゃ、訪ねても期待はできないわね」
そうだな。それよりも他に確認したいこともあるし、森に1度行ってみないか?
あとになって分かった事だが、この選択により、俺たちは様々な事実を知ることになった。
それはとても恐ろしくて、回避不可能な出来事だったんだ。




